インタビュー

「ゲームの面白さ」は、障がい福祉を柔らかくする(セガ エックスディー川﨑誠さん・Omniheal宮﨑海理さん)

2024年5月に、神奈川県立藤沢清流高校でおこなった授業では、株式会社セガ エックスディー株式会社Omnihealの協力を得て、ゲームと福祉が手を結ぶことで生まれる、新たな可能性を教えてもらいました

今回は、それぞれの会社の特徴と合わせて、ゲームがもつ力について、株式会社セガ エックスディーの川﨑誠さんと株式会社Omnihealの宮﨑海理さんにお話を伺いました

まずは、それぞれの会社の特徴を教えてください。

川﨑誠さん
川﨑誠さん

セガはゲーム会社として有名だと思いますが、私たち、セガ エックスディーは、ゲームがもつ力(参考「衝動」)面白さを活かした体験設計で、社会課題やビジネスの課題を解決していくのがミッションです。

ただゲームをつくるだけでなく、ゲームの仕組みを別の業界に応用して、ゲームのように楽しんでもらいながら、モチベーションの向上や行動変容を促すなど(参考「ゲーミフィケーション」)の取組みをしています。

今回は高校生とボードゲームをやりましたが、ボードゲーム以外にも、アプリやシステムの開発、リアルイベントなどをつくっています。医療や教育、自動車や行政など、幅広い企業とビジネスをおこなっています。

宮﨑海理さん
宮﨑海理さん

Omnihealは、医療の課題をテクノロジーやクリエイティブの力で解決していくことが大きな目標になっています。

元々、医療の領域は医師や看護師など医療の専門家が課題を解決していくと思われがちなのですが、近年は事情が変わってきていて、医療だけでは解決できない課題が増えてきています。

たとえば、医療領域では、昨今、人生終盤に自分が受けたい医療やケアについて、あらかじめ考えてもらうプロセス(ACP)を普及させることが重要課題となっています。Omnihealでは、そのきっかけになるボードゲーム「エンディングゲーム」をつくり、自治体や医療機関で啓発活動をおこなっています。また、アプリ開発の際の医学的なアドバイスや、ゲーミフィケーションをつかって行動変容を促す方法をアドバイスすることもあります。

そのなかでお二人は、どのような仕事を担っているのですか?

川﨑誠さん
川﨑誠さん

おもにディレクターとして、お客様が抱える課題をゲーミフィケーションのノウハウで解決していくことを考えながら、プロジェクトを進行しています。

前職は、ゲーム会社に勤め、いろいろなゲームをつくっていました。これまで培ってきたゲームづくりの知見をビジネスや社会課題の解決手段として応用することで、社会貢献につながる点に魅力を感じ、今の仕事に就きました。

宮﨑海理さん
宮﨑海理さん

Omnihealの代表は医師で、社員もさまざまな専門分野の人がいるのですが、私はシステムエンジニアとして働いています。

前職は、とくに医療の領域ではなく、システム開発をする会社にいたのですが、ご縁があって、こちらに転職しました。以前より、システムづくりをする時間は短くなったのですが、仕事の領域やできる幅がすごく広がったので、やりがいもあり、とても楽しいです。

今回、県立藤沢清流高校で生徒たちが遊んだ、2つのゲームはどのようなきっかけでつくることになったのですか?

参考:【活動報告】高校生が福祉を伝える!高校生が藤沢市内の障がい福祉を取材し、共生社会のあり方を考える(第1回目)

川﨑誠さん
川﨑誠さん

きっかけは、Omnihealさんから「一緒に何かできないか」と、ご要望いただいたことです。実際につくっていく過程では、いくつかの施設(放課後等デイサービス)でヒアリングをさせていただき、具体的な課題が出てきました。

多くの課題がありましたが、今回は2つの課題に着目しました。一つが、発達障がいの特性がいくつか見らえるものの、診断基準を満たしていない、いわゆる“グレーゾーン”のお子さんにとって、「人の感情を読み取ることが苦手」ということでした。もう一つは、「感情のコントロールが得意ではない」ということでした。

ゲーム制作を始めるとき、最初に何をするのでしょうか?

川﨑誠さん
川﨑誠さん

「課題を解決する」という前提があるので、それが解決できる状態を目指すべく、企画のコンセプトを策定します。そのとき、ゲーム体験のコアの部分で、きちんと課題へアプローチできているかという点が大切になります。

次のステップとして、ゲームの詳細ルールやデザインなど、具体的な部分を決めていきます。今回はボードゲームだったので、ゲームルールを調整するため、テストプレイを繰り返して実施し、より楽しいものになるように磨き上げました。

たとえば、高校生が体験した「ゼツミョーション」や「うんこメンコ」だと、どのようなことを決めていったのですか?

川﨑誠さん
川﨑誠さん

「ゼツミョーション」は、感情を読み取るゲームであるので、「人が何を考えているのかを考える」ということが、きちんと遊びを通じて体感できるようなルールをつくることから始まりました。

「うんこメンコ」は、「感情のコントロール=発散」と考えて、身体を思いっきり気持ちよく動かせる運動要素があるゲームにしました。実際に、遊んだあとにスッキリして、「ちょっと落ち着く」「ホッとできる」といった感覚を持てるかを大事にしています。

また、「ゲームとして面白いか」を大切にします。一緒に遊ぶ仲間との駆け引きや、メンコのように繰り返しやると上手くなるなど、そういった点を考えつつ、ゲームとしても面白いことをきちんと意識してつくっています。

この2つのゲームを制作するうえで、工夫したことは何ですか?

川﨑誠さん
川﨑誠さん

今回は、ターゲットが「放課後等デイサービスにいるお子さん」だったので、難しすぎると途中で飽きたり、ゲームをやめてしまう可能性があるので、極力、ルールがシンプルでわかりやすくすることを意識しました。

また、テキストは漢字ではなく、読みやすいようにひらがなを使用したり、カードのサイズを考えたり、細かいところも含めて、いろいろな工夫をしました。

Omnihealさんが制作依頼をするうえで、大事にした点はありましたか?

宮﨑海理さん
宮﨑海理さん

「課題を解決できるか」が一番大事なところです。ただ、その方法として「やってもらう」という行動がとても大事になります。「触れやすさ」「実際にやってみて楽しい」「やろうかなと思ってもらえる」という行動変容を促す部分を大切に制作してもらえたらと考えていました。

『ゼツミョーション』

【ゲームの紹介】
カードゲームを通じて「人の気持ちは、状況や見え方で変化する」ことを楽しく学べる『ゼツミョーション』は、「イベントカード」と「ヒョージョーカード」を組み合わせて「シーン」をつくり、親プレイヤーが選んだ「シーン」から感じられる「カンジョー」を、他プレイヤーが予想して、得点を競います。ゲームを通じて、親プレイヤーがプレイヤー全員に心情を説明・共有する過程があるため、遊びの中で人の感情のとらえ方や説明の仕方を自然に学ぶことができます。

川﨑誠さん
川﨑誠さん

自分の考えている感情が、必ずしも正解(相手の感情と同じ)ではなくて、それぞれ感情が違うことを、遊んで感じてもらえたら嬉しいです!

『うんこメンコ』

【ゲームの紹介】
『うんこメンコ』は、日本うんこ学会会長監修のもと、メンコ遊びによって気持ちの発散を目的としたゲームです。マットに「うんこメンコ」を叩きつけ、その風圧によって、設置されている「トイレメンコ」の裏返った数や裏返った向きなどで競います。室内でも場所を取らずに軽度な運動によって、癇癪(カンシャク)以外の方法で気持ちやストレスの発散をし、気持ちを落ち着かせるサポートを実現します。

川﨑誠さん
川﨑誠さん

メンコを思いっきり投げて、気持ちをスカッとさせてください!

ゲームを体験した高校3年生たち、すごく盛り上がっていましたね。制作者として、どのように感じましたか?

川﨑誠さん
川﨑誠さん

高校生に、今回着目した社会課題を知ってもらう機会になったのも良かったと思いますし、何より、授業と授業の間の休み時間もそのまま遊んでいる様子があり、正直、想像以上でした。

ゲームを通して、クラスの皆さんで仲良くなってくれていたのも嬉しく、ゲームが本来もつ「人と人をつなぐ力」をこちらも体感できたので、作り手としては感無量です。

宮﨑海理さん
宮﨑海理さん

「高校生でも、あの時間、ずっと遊べるんだ」と、ほっこりした気持ちになりました。

ターゲット層とは異なる対象でしたが、すごく楽しんでいる様子を見て、「セガ エックスディーさん、さすがだな」とも感じました。今回のように、アイスブレイクのようにも活用できるし、私もゲームの本来の力を感じることができて、すごく嬉しいです。

今回のゲームに限らず、仕事のなかで大事にされていることを教えてください。

川﨑誠さん
川﨑誠さん

サービスやゲームの先には、使う人が必ずいます。

使う人がそれを使うことで喜んでくれたり、便利になったり、嬉しいと感じてもらえることが一番です。そういった使い手のお客様の気持ちをしっかりと見据え、ブレないようにしていくことを肝に銘じて、日々仕事をしています。

宮﨑海理さん
宮﨑海理さん

その仕事で本当に課題が解決できるのか、ということを大切に考えています。

そのためには、良い物が完成するのはもちろん、「実際に使ってもらう」「使い続けてもらう」ということが大事になります。それらの仕組みづくりも合わせておこなうことで、本当の課題解決につながっていけるように意識をしています。

「社会課題」は、どの分野であっても難しく、近寄りがたい印象があります。そこにゲーム要素を加えると、どのような効果があるのでしょうか?

川﨑誠さん
川﨑誠さん

たとえば、環境問題で「地球温暖化対策しよう」と今日動き出しても、明日解決できるということはありません。ものすごく膨大な時間や努力が必要になります。

そういう問題に直面したときに、モチベーションや意識が高い人は行動し続けることができるのですが、多くの方は継続が難しい局面を迎えてしまいます。

そうなったときに、ゲームの要素(ゲーミフィケーション)が力になります。大きな課題でも細かく目標をつくることで、「ちょっとやってみよう」と重い腰をあげられたり、進んでいる様子がわかったり、達成感を得られやすくなります。ゲームには「続けたい」「早く、次に進みたい」という気持ちにさせる力があるため、上手くモチベーションを上げて継続を促し、結果的に大きな課題解決につなげていくことができます。

宮﨑海理さん
宮﨑海理さん

どの分野もそうですが、「そもそも、課題に思っていません」という人が存在します。

ゲームというとっかかりを与えることで、そういう人たちの目に触れやすくなると思っています。わかりやすい形で表現できるのは、ゲームの特徴の一つです。

また、ゲームは「自分でプレイする」という意味で自分ごと化しやすいという特徴もあるかと思います。大きい課題は、誰かから言われてやるのでは解決できないから、ずっと残っているのだと思っています。ゲームをやることが、自分ごととして意識するきっかけづくりにもなるのではと考えています。

福祉や医療の分野に「ゲーム」が入ってくることで、どのようなことが期待できると思いますか?

川﨑誠さん
川﨑誠さん

たとえば、ゲームの仕組みとして、「仮想のルールをつくり、そのなかで役割をプレイヤーにあたえる」という一面があります。これを用いることで、今の自分とは異なる環境で異なる立場の疑似体験をすることができ、相互理解を深めることができるのではと考えています。

テキストを読んで、知識を得ることも大切ですが、役割などを決めてゲームをすることで、実際に自分が行動をすることでしか学ぶことができない学習内容や、ゲームの得意とする部分をミックスしていけたら、良い効果があるように感じています。

宮﨑海理さん
宮﨑海理さん

福祉や医療の現場では、システムやゲームが大きくは受け入れられていないのが現状です。

しかし、システムやゲームという「仕組み」でこれまでとは違う視点を用意すると、今まで知らなかったことや気づけていなかったポイントに意識が向くようになると考えています。

そういう気づきから、行動を変えていける一歩をつくっていけたらと思っています。

最後に、Ana Letterの読者の方に伝えたいことはありますか?

川﨑誠さん
川﨑誠さん

ゲームは「やりすぎてしまう」など、負の側面に目を向けられがちです。それだけ、ゲームの力は強力でもあるといえると思います。だからこそ、上手く善用していくことが大切です。

善用するためには、つくる側や提供する側が、目的をきちんと持って、正しく人を動かす力としてゲームを活用しないといけません。そうすれば、もっと多くの課題も解決できますし、世の中も良い方向に向かっていくと信じています。

宮﨑海理さん
宮﨑海理さん

今回、高校に行く機会をいただき、高校生と関われたことが嬉しいです。私自身、高校時代に描いていた社会人像はぼんやりとしていました。

正直、社会人は言われたことをやっているのだろうと思っていたのですが、実際はすごく楽しい世界です。私たちのやっている仕事は「このゲームをつくって社会を良くしよう!」とワクワクするものなので、そういう働き方やアプローチもあることを、高校生の年齢の子たちに少しでも知ってもらえたら嬉しいです。

インタビューを終えて

「ゲーム×課題解決」という発想は、とても面白く、柔らかくていいなと感じました。社会のなかにある課題は、どれも大切なものですが、人それぞれ、いろいろな感情が生まれるものです。

正しさを強く主張されることで、何となく近寄りがたくなってしまうこともあるかも知れません。心惹かれる入り口やきっかけは、人それぞれ異なります。だからこそ、いろいろなきっかけを用意して、人それぞれの一歩一歩を大切にしたいと思っています

ゲームのもつ力を活かすことや「どうしたら、面白く進められるかな?!」と工夫すること、目の前の壁が硬く重たいのであれば、尚のこと、そんなワクワクする歩みを進めていきたいですね。

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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