インタビュー

ブラインドボクシングをもっと身近に(一般社団法人ブラインドボクシング協会会長 村松竜二さん)

視覚障がいのある方のために考案された競技「ブラインドボクシング®」をご存じでしょうか?東京都昭島にあるD&Dボクシングジムへ伺い、このジムを運営する元プロボクサーの村松竜二さんにブラインドボクシングの体験をさせていただきました。このご縁は、同じく元プロボクサーであり、藤沢市内で障がい福祉サービスをおこなう「NPO法人樹ケアサポート」の管理者である篠﨑宏樹さんからのご紹介でした。

当日は、3人の視覚障がいのある方がボクシングジムに訪れ、指導をおこなってくださる元プロボクサーが村松さん以外に2人。ほぼマンツーマンでプログラムが組まれていました。立ち上げに至るまでの想いや視覚障がいのある方がボクシングをおこなう魅力について、村松竜二さんにお話を伺いました

村松さんがブラインドボクシングと出会ったきっかけは何だったのでしょうか?

元プロボクサー仲間から紹介されて、ブラインドボクシングと出会いました。その前から、精神障がいや知的障がい、身体障がいのある方に、ボクシングを体験してもらう活動をしていたこともあり、「ブラインドボクシングという視覚障がいの方のボクシングもあるのだけど、ちょっと体験してみないか?」と言われ、体験したのがきっかけですね。

精神や知的、身体障がいのある方への活動も、元プロボクサーの仲間つながりで始めました。昔、障がいのある子たちの施設などへスパーリングを披露するイベントなどがあり、ジムの後輩から誘われて手伝うようになり、その後、障がいのある方とのボクシングへ取組むようになりました。

村松さん
村松さん

ブラインドボクシングと出会って、どんなことを感じたのでしょうか?

「ボクシングを楽しみたい」という熱い想いですね。

ブラインドボクシングでは、弱視の方や全盲の方がいて、皆さん、見えにくい状態です。そういった見えにくい中で、ボクシングを楽しみたいという想いが、ひしひしと溢れていました。その想いを前に、自分自身もこういう場所をつくらないといけないと感じたのです。

体験に伺ったときが、ちょうど、この昭島のボクシングジムを立ち上げるときでした。当時、関東でブラインドボクシングをやりたくても、場所がなく、名古屋まで行かないといけなかったのです。都内にしては少し遠いけど、それでも場所はある。「私がここで関東支部として立ち上げます。こっちで練習してください」という感じでしたね。そこからブラインドボクシングに携わるようになりました。

村松さん
村松さん

こちらのジムには、どのような視覚障がいのある方が来ているのですか?

弱視の方もいるし、全盲の方もいます。コロナ禍ということもあり、定期的にきているのは、8〜10人くらいですね。

皆さん、知り合いから紹介してもらったり、違うスポーツやっていたり、ボクシングに若い頃から興味があったり、格闘技に興味があったり…そういう方が多い印象です。あとは、ちょっと行ってみようかなという感じで来て「ストレス発散できる!楽しい!」と継続して来ている方も多いです。

村松さん
村松さん

村松さんにとって、障がいとはどのようなものですか?

よく言っていますけど「個性」だと思っています。その人のもつ個性ですね。
弱視も全盲も見え方は人のもつ個性で、個性が違えば、当然、指導の仕方も異なります。

弱視の方は、何となく形は見えると思うけど、全盲の方は全く見えない。口だけでなく、手をとり、足をとり、体触ってもらったり、こちらから触れたりして、パンチの軌道や足の動きを教えています。

村松さん
村松さん

ブラインドボクシングと通常のボクシング、村松さんには違いはありますか?

基本的に教えることや動きは変わらないですね。パンチの出し方であったり。ただ、その伝え方が難しいです。見える方と見えない方がいるので、そのあたりの伝え方に難しさがありますね。

うちのジムに来ているブラインドボクサーの方が言うのですが「自分はボクシングを目指している」と。ブラインドボクシングではなくボクシングを目指していると表現をする方がいて、そういう熱い想いを伝えられると、こちらも熱く指導したくなります。

もちろん、現実として、通常のボクシングで戦うのは難しいと思います。でも、視覚障がいのある方々のそういう想いが、私たちやここに手伝いに来てくれているボクサー仲間の心を動かしてくれている。私たちの原動力はそこにあるのではないかなと思っています。

村松さん
村松さん

村松さんにとって、ボクシングとはどのようなものでしょうか?

ボクシングは現役の頃は、戦う武器でしたが、今はこうやって障がいのある方々と接するコミュニケーションツールですね。指導しているときも、試合をしているときも、ボクシングを通して、つながっています。

自分がボクシングを始めたきっかけ頃を思うと、人を殴っても怒られないことが楽しかったですね。若い頃は、喧嘩で強くなりたい、自分が1番だと思っていました。ボクシングの世界に入り込むと、上には上がいますが、相手より強くなりたい、越えてやろうっていうのが楽しみで仕方なかったです。

日本の、世界の村松竜二になりたいと思って、本気で打ち込みました。やはり練習をすれば、自分に返ってきます。この世界で勝負していきたいと思いましたね。戦いたいという本能もあるように思います。あの頃の気持ちを思うと、皆さんもきっと「戦う」ことが面白くて、ここにいるのかなって感じますね。もっと強くなりたい、もっと上手くなりたいという向上心ですよね。

村松さん
村松さん

ブラインドボクシングをやってきて、良かったことは?

これは、ブラインドボクシングだけではありませんが、障がいのある方と関われるボクシングを通して、「ありがとう」「また(施設に)来てね」という、このひと言があるからできるのかなと思っています。できないことができるようになったり、楽しんでもらえたりすることが1番ですね。

ボクシングの楽しみ方は人それぞれ自由だと思っています。本格的な指導まで求めている方も、身体を健康的に動かしたいという方もいますし、プロボクサーになりたい、プロボクサーを目指しているという方もいます。現実は無理かも知れないけど、そういう想いが伝わってきたり、言葉で発してもらえたりすると、やはりそういう指導になっていきます。

村松さん
村松さん

ブラインドボクシングで大事にしていることや今後の目標は?

大事にしていることは「ボクシングを楽しんでもらう」ことです。どのような競技やスポーツでも、トレーニングがきついのは当たり前なので、ボクシング自体を楽しんでもらえれば、長く続けられるのかなと思います。

ブラインドボクシングについては、全国に、世界に発信して、もっと視覚の障がいのある方に楽しんでもらって、いずれは、パラリンピックの競技にしたいと思っています!

あと、余談ですが、トレーニングの時間もすごく好きなのですが、もっと好きな時間があるのです。

村松さん
村松さん

どんな時間ですか?

昭島駅からの送り迎えです。視覚障がいのある方がボクシングジムに来る日は、駅への送り迎えをしているのですが、その時間が好きなのです。

一緒に歩いていると、今、自分は見えない方の「目」になれているのかなと感じられるのも嬉しいですし、役に立てているのかな、力になれているのかなと思えることも幸せですね。

やはり、ジムの中と外では環境は違います。ボクシングジムに来れば、リングの中は囲われているから落ちることもないし、ジムで転ぶということもあまりないです。ただ、外だと段差もあるし、そうはいきません。どのようにしたら、サポートできるかなと考えさせてもらえるのも好きです。

ブラインドボクシングをやっている姿の印象が強くなるのですが、送り迎えでは、ボクサーではない普段の皆さんに会えるのも嬉しいです。

村松さん
村松さん

インタビューを終えて

ボクシングはその速さや威力から、視覚に障がいのある方には危険なのではないか、見えないのならできないのでは?と、遠くに置かれてしまうスポーツに思います。「できない」を「できる」に変え、可能性を広げられる場があることの大切さを実感しました。

ブラインドボクシングの体験では、視覚障がいのある方と同じようにアイマスクをつけ、グローブをし、鈴の音が鳴る方へパンチを繰り出しました公式ホームページにもあるように、ルールや採点基準もしっかりとしています。

実際に体験をすると、音を聞き分けることも難しいため、右なのか左なのか、遠いのか近いのか、私は今リングのどこにいるのだろう…と、無限に広がる黒い世界にいるようでした。しかし、皆さんのブラインドボクシングは見えないことを全く感じさせないスピード感で、相手を捉え、自分の身体を使い、向き合っていく

もう一つの記事では、ブラインドボクサーである視覚障がいのある方と練習を手伝いに来ている元プロボクサーの方にもお話を伺っていますぜひ合わせてお読みください♪

建物の都合上、こちらのジムは、2022年10月までに移転をしなくてはいけません。ブラインドボクシングを今後も継続できるよう、クラウドファンディングを5月31日まで実施しています。詳細は、下のボタンからクラウドファンディングサイト「READYFOR」でご確認ください。

こちらも合わせてご覧ください

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

RECOMMENDおすすめ記事