インタビュー

視覚障がいとボクシング(ブラインドボクサー橋本拓也さん・元プロボクサー本田秀伸さん)

東京都昭島にあるD&Dボクシングジムは、ブラインドボクシング協会の本部でもあり、視覚障がいのある方がブラインドボクシングの指導を受けられる環境が整っています。ブラインドボクサーである橋本拓也さんは、友人からの紹介でブラインドボクシングと出会いました。また、取材に伺った日、指導していた元プロボクサーの本田秀伸さんは、会長の村松さんとのつながりで手伝いに来るようになり、視覚障がいのある方と関わるようになったそうです。お二人をつなげた「ブラインドボクシング」について、それぞれに伺いました。

ブラインドボクサー 橋本拓也さん

以前からボクシングやりたいと思っていたのでしょうか?

いえ、全くそういうわけではなく、友人から「ボクシングやれる場所があるよ」と話を聞いたのがきっかけです。もともと格闘技は興味があったのですが、視覚障がいになると、なかなか格闘技系のものはできないと思っていました。それなのに「視覚障がいでも、ボクシングできる場所あるよ」と聞いたので、やってみたいと思い、紹介してもらってここへ来ました。

橋本さん
橋本さん

視覚障がいになると…、橋本さんは中途障がいで視覚障がいになられたのですか?

そうです。見え方としては、5円玉から覗いている感じなのですが、進行性なので、徐々に見えづらくなってきているのかなと感じますね。

橋本さん
橋本さん

ブラインドボクシングを初めてやってみたときは、どんな気分でしたか?

最初にやってみたときに感じたのは、全然、体力がないということでした(笑)

あとは、普段、手を前に出すという行動があまりないので、すごく気持ちよかったですね。

日常生活の中では、手で「探る」ので、ゆっくりと触ることはあるのですが、勢いよく前に出すというのはあまりない動きですし、やはり危険を伴うので日頃はやらない動作です。それをボクシングではできるというのも楽しいですね。ストレス発散にもなりますし、すごく気持ち良いなと思いながらやっています。

橋本さん
橋本さん

見えにくい中で、指導を受けるというのは難しいものですか?

いや、僕は、そんなに難しいと感じていないです。指導してもらうときは、コミュニケーションがそこにあるので、分からないことはそこで聞きますし、そうすると指導してくれるトレーナーの皆さんが一生懸命教えてくださります。見えにくい分、言われていることと直したポイントが間違っていないかどうかを確認しながら、やらせてもらっています。

橋本さん
橋本さん

いろいろなスポーツがある中で、ボクシングを選んだ理由は何でしょうか?

もともと格闘技が好きだったのもありますが、身体ひとつで打ち込めるのが魅力だと思います。他のパラスポーツもやったことがあるのですが、ゴールボールやバレーボールなど、球技が多い印象でした。ボール使ったり、ラケット使ったり…そうすると、自分の身体からちょっと離れるのです。でも、ボクシングだとそういうことがないので、自分の身体をつかって、ダイレクトに表現できるのが魅力なのだろうな…それが自分にとっての楽しさなのだと思います。

橋本さん
橋本さん

見えない中で勢いよく動くことは、怖くはないのでしょうか?

いや、楽しいですね。

上手くなりたい、強くなりたいという気持ちもありますし、ここに来るといろいろな人に会えるというのも魅力です。僕は埼玉県所沢から来ているのですが、平日は仕事をして、週末にはブラインドボクシングでリフレッシュを!という感じです。

橋本さん
橋本さん

ブラインドボクシングの魅力や今後の目標を聞かせてください。

ストレス発散と自分の身体ひとつだけでできるという部分ですね。もちろん、トレーナーさんやいろいろな方のサポートは必要なのですが、そういう魅力が1番大きいかなと思いますね。

今後の目標は、ブラインドボクシングの大会が開催されれば、出場して、優勝目指して頑張りたいです!ブラインドボクシングがもっと有名になってほしいと思っています。ブラインドボクシングの選手の数が増えれば、それだけ試合も増えますし!

橋本さん
橋本さん
元プロボクサー 本田秀伸さん

ここのお手伝いを始めたきっかけは?

竜ちゃん(村松竜二さん)がブラインドボクシングをやっていると聞いていたのと、「手伝いに来てくれる?」と声がかかって、そのつながりでここに来るようになりました。

本田さん
本田さん

手伝いを始めて、いかがでしたか?

率直に、視覚障がいのある方の世界って僕らの世界とは違うんだなということを知りました。感覚の世界がすごく広いと感じますね。目が見える方に教えても、1回では到底分からないようなことを、視覚障がいのある方はすぐに分かることがあるのです。

本田さん
本田さん

それは、たとえば?

簡単に説明すると、身体のマップ・各パーツの地図を頭の中でそれぞれが作っていると思うのですが、視覚障がいのある方はその地図が精巧だと思います。

本田さん
本田さん

感覚が研ぎ澄まされている分、「こうやって身体を使う」といったときの再現が上手ということでしょうか?

そうですね。たとえば、僕の身体を触ってもらい「こういうふうに動くんだよ」と伝えることで、身体の動かし方を理解されることもあります。目で見えていると、感覚よりも目の方を優先するので、僕らは目に騙されるときがあります。彼らはそれがないから、理解の仕方が面白いなと思いますし、僕のほうが勉強になることが結構あります。

本田さん
本田さん

見えている方へのボクシング指導とやはり違う印象ですか?

いや、一緒ですね。基本的には一緒だけど、指導のアプローチの方法を変えることができます。

なので、彼らに伝えたときのアプローチの方法を、目の見える方に教える場面にも転用できるというのが面白いなと思っています。

本田さん
本田さん

視覚障がいのある方のイメージは関わることで変わりましたか?

そこまでは変わっていないですね。ただ、視覚障がいのある方が、社会の中でこんなに活躍されているのだということを、実際に関わったことで知りましたね。

表現は適切ではないかも知れないけど、もう少し、端にいるようなイメージがありました。でもそうではなくて、社会の中で一翼を担っていらっしゃり、その上で、こうやってスポーツも楽しんでいる…。もちろん、竜ちゃんが機会を設けているというのもあるのですが、それを知れたのが大きいですね。

本田さん
本田さん

インタビューを終えて

日常の中では、出会うものが限られていて、経験できることも限界があると思います。それを超えて、新しい世界が開けたとき、いろいろな学びと気づきがそこにあることを感じました。ボクシングの動きは、とても日常ではやらない動きであり、その動きをすることの気持ちよさを、橋本さんとの話で想像しました。そして、本田さんが話してくれた、数々の気づきは、関わってみなければ、感じることも考えることもない事柄だと思います。

ブラインドボクシングと関わる、これは競技としての価値以上に、自分の中に大きな広がりをもたらしてくれる、多くの意味がある種蒔きなのではないかと感じました。

建物の都合上、このジムは、2022年10月までに移転をしなくてはいけません。ブラインドボクシングを今後も継続できるよう、クラウドファンディングを5月31日まで実施しています。詳細は、下のボタンからクラウドファンディングサイト「READYFOR」でご確認ください。

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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