インタビュー

3つの柱で取組む「体罰未然防止事業」(中央児童相談所 虐待対策支援課)

令和2年4月に、体罰禁止が法定化されました。藤沢市亀井野の中央児童相談所には、虐待対策支援課という部署があり、神奈川県所管域の虐待防止をはじめとする普及啓発をおこなっています。昨年の法改正から、体罰未然防止につながる事業が数多く実施されているため、具体的内容を伺ってきました。

体罰の未然防止に向けてどのような取組みをおこなっていますか?

おもに3つの柱で取り組んでいます。
1.保護者向け
2.子ども・本人向け
3.養育者向け  です。

髙橋さん
髙橋さん

1.保護者向け

保護者向けには、リーフレット『子育てやしつけに困ったら…』を作りました。未然防止なので、母子健康手帳を交付される窓口に置いてもらったり、「まだ赤ちゃんなので、うちは関係ない」と思うかも知れないけれど、乳幼児健診での配布や子育て相談の窓口に置いてもらっています。

母子健康手帳にちょうど挟める大きさがいいと思い、A6サイズにしています。「うちは体罰なんてしないと思う」と思っていても、だんだん成長して、あれもしかして?と感じるときに読み返しができればと思っています。

いざというときの相談先も載っています。保護者に向けて、まずは体罰は法律上どんなことであっても禁止されていることを知ってもらいたいです。

髙橋さん
髙橋さん

リーフレットの漫画は、内容や場面がすごく具体的ですね

そうなのです。冊子の中は、漫画やコラムになっていて、どちらかというと「こんなことはダメです」と怒られる内容ではなく、「あーうちでもよくある。わかるわかる」 と共感してもらいながら、考えてもらう内容になっています。

10言語に翻訳していて、外国につながりのあるお子さん、親御さんも増えてきているので、本国では許されていても、ここ日本では法律で罰せられてしまうということも知ってもらいたいと思っています。

髙橋さん
髙橋さん

2.子ども向け

子ども向けの啓発は、子ども本人が、自分が家の中で叩かれていたり、悲しい想いをしていたりしても、なかなか発信ができないことが多いので「大人に相談していいんだ」と思ってもらえることが大切です。

まずは、気づきを促すために「子どもの気づき啓発カード」を作っています。昨年度は、小学校1、2年生を対象にカードサイズで作りました。家に持ち帰ったあと、保護者も同じカードを見ることを想定し、裏面は、保護者に向けて「ささいなことでも相談してくださいね」という内容にしました。デザインは、手に取ってもらいやすいよう、神奈川県内に工場がある不二家さんに協力をいただき、明るく見やすくペコちゃんを使った可愛いものになっています。

今年度はより多くの方に啓発をすることを目的に、ダウンロード用のカード(気づき啓発電子カード)を作成し、ホームページからダウンロードができるようにし、Twitterでも発信しました。

安島さん
安島さん

大事なことですね。もう一つは「紙芝居」ですか?

幼児向けとして、紙芝居を作りました。紙芝居では、権利擁護の視点を大切にし「困ったときには大人に助けてと言っていいんだよ」というメッセージを、幼少期の頃から読み聞かせの中で伝えたいと思いました。小さい頃から、助けを求めていいことを伝え、成長の中で「気づき」が生まれることを大事にしています。

ターゲットは4、5歳くらいにし、幼児さんでも楽しめるように忍者が登場します。子どもたちが参加できる紙芝居になっていて、「困ったときは大きな声で助けてって呼べばいいんだね!」「忍法『大声の術』!せーの、『たすけて~』」と、みんなで呼ぶようなストーリーになっています。

神奈川県の約1000ヶ所の保育施設や認定こども園、幼稚園に、令和3年3月に配布しました。

安島さん
安島さん

紙芝居の良いところは、1回きりで終わってしまうのではなく、何回も使えるということなので、先生たちにも繰り返し使っていただいて、今後、繰り返して使ってみてどうだったかという感想を聞ければと思っています。

髙橋さん
髙橋さん

この紙芝居を作るときに大切にした工夫は?

伝えたいことは「困ったことがあったら言っていいんだ」ということでしたが、その困ったことを絵柄にするのはどうなのか?と原案作りに苦労しました

たとえば、叩かれたり、怒鳴られたりした場面を紙芝居にすると、それを見た子どものトラウマを引き起こす要因になってしまう場合もあります。伝えたい内容が、子どもの中で違う形にフォーカスされて、ただ傷つけてしまうのはちょっと避けたいね…と話し合いを重ねるなど、本当に原案作りが難航しました。

髙橋さん
髙橋さん

ゼロからのスタートだったので、最初は自作で紙芝居を作るところから始めてみたんです。一度は、そういう描写を描いてみたのですが、でもやっぱり…これは見せられないよねと。試行錯誤しながら、最終的に、この忍者の話にたどり着いたという感じです。

あとは、 紙芝居の中には先生たち向けの解説書を同封していて、こんな場面があったら連絡してくださいという内容のものを入れています。「子どもがパパやママから叩かれたと言っている」「昨日までなかったあざや傷がある」など、そういうときにはこういう対応をして欲しいという解説を載せ、早期発見に向けた啓発もしています

安島さん
安島さん

3.養育者向け

養育者というのは、保育園や幼稚園の先生、市町村の子ども担当部署をターゲットにしています。

未然防止という観点でいうと、市町村の対応が大事です。児童相談所にも相談は来ますが、まずは住んでいる市町村へ相談することが最初の入り口になることが多いので、日頃、子どもの相談を受けている方への研修を行っています。

ちょうど、リーフレット「子育てやしつけに困ったら…」 を作成するタイミングで、そのまま配布場所へ渡すのではなく、使い方を載せた解説書を作りました

加えて、養育者向けの研修もおこなっています。支援する側が法改正などを知らない場合もあるため、国内、海外の動きを含めた内容で実施しました。今年は、オンラインで研修と演習もおこない、市町村間の取組みの共有や考える場をつくることができ、良い研修になりました

髙橋さん
髙橋さん

養育者向け研修を実施して、課題などはありましたか?

市町村も職員が入れ替わるので、毎年、新しく異動されてきた人への周知もあるし、市町村間で子育て施策への差はどうしてもあります。比重が違うこともあるので、すでに進んでいて、市町村の中でプログラムを作り、子育て支援プログラムでやっているという地域もあれば、県からの情報に対して、うちの地域ではどうやって行こうと考え始めている地域もあります。

完全にすべての地域にハマる研修は難しいかも知れませんが、広く必要な情報を伝え、スキルアップできる研修を今後もやっていきたいと思います。

髙橋さん
髙橋さん

3つの柱 体罰未然防止への取組み

この3つの柱を伝えるために、Twitterアカウント(体罰未然防止事業@神奈川県児童相談所)を開設し、SNSの活用を積極的に普及啓発をおこなっています。11月は児童虐待防止推進月間でもあり、期間中、神奈中バスでは乗車中の方に見てもらえるよう、動画の配信もおこなっています。

体罰が法的に禁止されるようになった昨年から、啓発事業が大きく変わってきています。また、最近では、児童虐待の相談もLINEでできるなど、時代の変化に合わせて、取組みも新しくなっています。

「虐待や体罰はダメなことくらい知っているよ」と思わず、「今」の情報を手に取り、すべての人が、虐待や体罰をもっと身近なものとして捉え、体罰未然防止という観点をもっていけたらと思います。

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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