インタビュー

「虐待」を特別視しないで(中央児童相談所 髙橋かすみさん・安島大輝さん)

11月は児童虐待防止推進月間です。藤沢市亀井野には中央児童相談所があります。中央児童相談所の管轄は、藤沢市・茅ヶ崎市・寒川町です。「児童虐待」と聞くと、ある特殊な環境の中、特殊な家庭に起こっていることという印象があるのではないでしょうか。実はそうではなく、どの家庭にも起こりうるものです。「どなたも一人で悩まずに相談してほしい」、中央児童相談所虐待対策支援課の髙橋かすみさんと安島大輝さんにお話を伺いました

児童相談所ではどのような相談を受けていますか?

年齢的には18歳未満のあらゆる相談を伺っています。児童虐待もそうですが、障がいのあるお子さんの相談、療育手帳の判定、虐待に至らなくても、子育てしにくい・子育てがつらいなどの育児や育成の相談も受けています。他にも、非行・不登校などの相談も受けているので、内容は幅広いです。

そして、里親の登録もやっているので「里親さんになりたい」「興味がある」という相談も受けています。

髙橋さん
髙橋さん

相談に来るきっかけは?

ケースバイケースですね。ご自身で相談に来られる方や紹介されて相談につながる方がいます。住んでいる市町村の相談窓口が入り口となり、児童相談所での相談になるという場合もあります。

安島さん
安島さん

あとは、療育手帳の判定は児童相談所でしかやっていないので、「療育手帳」をつくる目的で来られる場合があります

相談の入り口には2パターンあって、ご自身に相談ニーズがあって来所されるパターン虐待通告などで希望はないけど相談しなくてはいけなくなったパターンがありますね。

髙橋さん
髙橋さん

「早めに相談につながったほうがいい」「虐待は早期発見が大事」など伺いますが、やはり「早い」というのは大事なのでしょうか?

そうですね、できるだけ早く。相談に来られる方は「こうしたい」という想いがあるので、早期であれば、少しの手助けで何とかなる場合もあります。「大きく失敗した」「やっぱり失敗した」となる前に改善できるときもありますね。

時間が経って問題が絡み合ってしまうと、本人の理想と状況がかけ離れてしまう場合があり、状況が少し改善してもそう感じられないことがあります。思い悩まれている時間が長いほど、解決しづらかったり、相談に対する不全感を持たれている場合もあると思います。

髙橋さん
髙橋さん

早ければ「話をするだけで気持ちが楽になった」というパターンにつながったり、「自分がやっていたことって間違ってなかったんだ」と気づくことで、自分に自信が持てる場合もあるのです。早ければ早いほど、そういう想いにつながるので、早くに相談に来てもらえたらと思います。

安島さん
安島さん

自分の気持ちの表出が苦手だったり、相談する方の成育歴で「なかなか相談とつながりにくい」という人もいると思うのですが、いかがでしょうか?

「環境」と「性格」が関連している気がします。環境でいうと、もともと知らない土地から来て孤立していたり、情報が得られにくい場合があると、外に出て相談というイメージがない方もいます。

それに、自分のことは自分で解決しなさいというように、相談して良いのだと育てられてこなかったなど、相談される方の性格も影響してくるように感じます。

髙橋さん
髙橋さん

相談したほうがいいのでは?と思っても、ご本人はそうではないなど、「本人の相談意思」も大事だなと思いますね。相談とつながりやすい方、そうでない方と括らず、「どんな方も相談していいんだよ」ということを発信し続けることが大事かなと思っています。

今すぐでなくても、こういう児童相談所という場所があって、必要なときに「あ、そういえば…」と思い出してもらって、そのときにつながれたらと思いますね。

安島さん
安島さん

面談のときに大切にされていることはありますか?

相談意欲がない状況の家庭だと、話自体が出てこないというのも実際です。なので、環境面として、相談用の部屋は話しやすい環境を意識しています。堅苦しくなりすぎず、親しみやすいように、小さい子がいて来所しにくいという場合には、小さいお子さんも遊んで待てるスペースがある部屋を提供しています。

あとは、相談される方のペースに合わせて、こちらもお話を聞くということを大事にしています。

髙橋さん
髙橋さん

「しつけ」「体罰」「虐待」、線引きはあるのでしょうか?

昔は「子どものためなら許される」とか、「軽いものなら許される」「1回だけなら許される」などありましたが、今は、1回であろうと、軽いものであろうと、どのような行為であっても「体罰は体罰」となり、許されないものになりました。怒鳴るなど、子どもの心を傷つける行為も許されないです。

体罰に関する法律が令和2年4月に施行され、はっきりと体罰はダメと決まったことで、私たちもご家庭に伝えやすくなりました。

髙橋さん
髙橋さん

子どもが「傷ついた」と感じたら体罰である、ということですよね?

そうですね。たとえば、保護者の方が「お姉ちゃんと比較したほうが成長するのでは」と思い、「お姉ちゃんはできるのに、あなたはね…」と言ったとして、言われている子どもが「お姉ちゃんと比較された」「馬鹿にされた」と思えば、それはもう体罰、言葉の暴力になります。

髙橋さん
髙橋さん

保護者の方の中には「自分もこのくらい言われて育った」などおっしゃる方もいそうな気がしますが…

実際にありますね、「自分たちはこうやって育ったから、それを体罰を認めてしまうのは…」と。そこを認めることで、自分が受けてきた子育てを否定してしまう感覚になるのだと思います。

なので、私たちが伝えるのは、保護者の方の育ってきた環境を否定するのではなく、その気持ちを受け止めつつ、でも今はそういった体罰や虐待が子どもの成長に悪影響を与えることが分かってきたのだと「今のこと」を伝えるようにしています。

安島さん
安島さん

体罰=虐待なのでしょうか?

難しいところですが、体罰はエスカレートしやすいという特徴があります。たとえば、子どもたちは叩かれるとビックリして行動を止めることがあります。すると、保護者は「やっぱり叩くって効果がある」と思ってしまったり、習慣性も出てくるので軽くたたくのでは効果がなくなり、だんだんと殴るに変わり、命に関わることになるなど、体罰がエスカレートする過程で虐待に転じてしまうことがあります

言葉の暴力も同じで、最初は軽く「バカだね」で済んでいたことが、だんだん「いなければ良かった」に変わり「いなくなって欲しい」になってしまうと、人格否定になります。

髙橋さん
髙橋さん

頭で「体罰はダメ」と理解していても、「体罰をやめる」に持っていくことが難しいと思うのですが、どうでしょうか?

「体罰はいけない」と言われて、やめられるようなものではないと私たちも思っています。なので、いろいろと代替案を紹介していきます。保護者の方も、意味もなく叩くことはほとんどなく、子どもがギャーギャー泣いている、それを止めるために「叩く」など、理由があるものです。

では「叩く」ではなく、どういう方法をすれば止められるのか…その「叩かずにどうするか」を一緒に考えていくのが、私たちの役割です。「ダメと言われて、やめられるなら苦労しないよ」という保護者の気持ちこそ、大事にしていかないといけないと思っています。

安島さん
安島さん

児童相談所の役割やスタンスを知らないと、「児童相談所は怒ってくる場所、子育ての注意をしてくる場所」と思っている方もいるかも知れませんが、そうではないっていうことですよね。

そうですね。児童相談所に関わられたことで、「ダメな親って思われた」という印象が強くなってしまう方が多いです。なので、これは虐待相談に限らずですが、どんな状況であっても、相談に来た方がその状況の中で努力されてきたこと・頑張ってきたことをよく聞くようにしています。

髙橋さん
髙橋さん

「このままだと子どものこと叩きそうだ」と相談に来られる方もいらっしゃるんです。そういう場合には「叩く前に相談に来てくれてありがとうございます」からスタートしますね。子どもの環境を変えることで、子どもの行動が変わり、怒鳴らずにすむようになることもあります。

「叩くことをやめる」で調整するのではなく、その引き金となる行動を環境面を整えることで改善することもあるので、保護者の方の行動を注意するためだけに、私たちがいるわけではないです。

安島さん
安島さん

「虐待をしてしまう人」「しない人」と、違いはあるのでしょうか?「私は絶対に虐待しないタイプです」ってあるのでしょうか?差はないのでは?と感じるのですが…

そのとおり、「差」はないのです。人の考えの差や性格の差で、虐待が起きているのではなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って起きています。なので、「私は虐待しない」「普段穏やかに接している」という方でも、そうした要因が出てきてしまえば、虐待してしまう状態になりうるものです。

髙橋さん
髙橋さん

保護者の方もそうですが、学校や幼稚園、保育施設なども同じです。「うちの園では虐待なんて起こりえない」と思っている教育機関等もあると思うのですが、たとえ、子育てをサポートする立場であったとしても同じだと思っていて、誰にでも、どこにでも、要因が生まれてしまえば起こりうるものです。そこも、きちんと啓発していく必要があると思っています。

安島さん
安島さん

先入観をもってしまうのが一番危ないと思っていて、それは、保護者の方に限らず、私たち専門家と呼ばれる児童相談所の職員も同じです。たぶん平気とか、たぶん違うとか、そういう憶測では絶対に動かないようにってよく言われます。

髙橋さん
髙橋さん

どのような方に、児童相談所を利用してもらいたいでしょうか?

幅広くですね。もちろんニーズがあって相談されるのですが、どんな小さなことでも、相談してもらいたいと思っています

児童相談所は虐待のイメージが強いと思うのですが、子どもに関わることであれば何でも相談できるので「これは児童相談所ではないのでは?」と思わずに、気になること、少し困ることがあったら、相談をして欲しいと思います。

髙橋さん
髙橋さん

地域で暮らす、すべての方に知って欲しいことは何でしょうか?

子育て支援は、親と子だけでは完結しないし、児童相談所が関わるだけでなく、本来、社会全体で少子化とともに捉えていかなくてはいけない問題です。社会全体で子どもの成長であったり、子どもが健やかに育っていくことを考えたいと思いますし、私自身もその一員としてありたいと思っています。

髙橋さん
髙橋さん

地域の力があればあるほど、相談しやすい環境をつくることができます。地域全体で子育てに取り組んでいこうという意識があると、明るい地域になってくるのかなと思っています。開かれた地域であることが大切だと思います。

安島さん
安島さん

インタビューを終えて

児童相談所というと、皆さんはどんなイメージをもっていますか?

「児童相談所=虐待」「虐待をする親はひどい」という印象が強いのではないかと思います。

もちろん、体罰や虐待はいけません。しかし、私たちはどこか「虐待をするなんて信じられない」「親としてどうなの」「子どもが騒ぐのなんてあたりまえじゃない」と、自分とは違うものと切り離す習慣があるように思います。体罰をする親はどうかしていると切り離された中で、身近な誰かに相談するのはとても勇気がいることです。相談もできず、困り感や孤立をさらに招いているのは、近くにいる私たちの認めない心かもしれません

「人の考え方や性格の差で虐待や体罰が起きているわけではない」という言葉が取材の中でもありました。同じ地域で暮らす私たちの心や行動が、ちょっとしたところで誰かの孤立や焦りとなり、要因を生んでしまっているかも知れない…体罰や虐待をもっと身近に考えて、地域で受け止めることから一緒に子育てをしたいと感じました。

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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