激しく、楽しく、仲間とともに(車いすラグビー 若山英史選手)
2019年9月、藤沢市内の子どもたちを対象にした、Fujisawaラグビーday「パラリンピックメダリストがやってくる!車いすラグビー日本代表 若山英史選手とのトークショー&車いすラグビー体験会」が開催されました。初めて車いすラグビーに触れた子も多く、その激しさに、叫んだり、笑ったり、楽しさとともに魅力を教えてもらいました。
ガシャン!と激しくぶつかり合う音、ビックリするほどの衝撃…若山選手の人生を豊かにした「車いすラグビー」。現在、沖縄ハリケーンズの選手として活躍する若山英史選手に、藤沢での体験会のご縁からお話を伺いました。
緊急事態宣言が解除され、徐々に大会も復活してきていますね。これまでの大会成績を教えてください。
いろいろとありますが、2012年ロンドンパラリンピックでは4位、2016年リオデジャネイロパラリンピックでは3位。そして、2018年世界選手権では優勝することができました。
他、大会成績はコチラ
藤沢市内のお子さんたちも、世界で戦う現役選手と会えて盛り上がってましたね。改めて、若山選手の「障がい」は何なのか、教えてください。
脊椎損傷の中の、頚髄損傷です。完全麻痺になるのですが、胸から下が麻痺している状態で、両手の握力が全くない状態です。細かいところをいうと、手も小指側が感覚が鈍い感じです。なので、ボールでいえば、ボールを掴むというよりも、乗せて持つ、という感じですね。
ボールの持ち方もそうですが、車いすラグビーをやる上で、いろいろな影響があると思います。教えてもらっていいですか?
四肢に障がいがある状態なので、とくに、握力がない中での車いすを漕ぐ動作と、ボールを正確に扱う技術に難しさがあります。
ただ、車いすラグビー自体が、選手になる条件として「四肢に障がいがある」となっているので、障がいの軽い・重いはありますが、基本的にどの選手も四肢に障がいがあります。生まれつきの方もいれば、後天的な方もいるし、中には、麻痺ではなく、欠損がある方もいます。
障がいのレベルによりクラス分けがあり、0.5点クラス~3.5点クラスに分かれています。障がいの重い選手は数字は小さく「ローポインター」、障がいの軽い選手は数字が大きく「ハイポインター」と呼びます。僕は1.0点クラスにいます。手の状態でいうと、ほぼグーの状態で動かすことはできない感じです。
その状態でどうやって車いすを漕ぐかというと、まず、手のひら(親指の下の方)で押し出すように漕ぎます。スピードが乗ってきたら、手の甲で弾くように漕ぐ感じですね。なので、試合の写真を後から見ると、手の使い方で漕ぎ出してどのくらいかとかも分かりますね。ボールの正確さは、慣れといいますか、日々練習で高めていっている感じです。
参考:かんたん!車いすラグビーガイド(公益財団法人日本障がい者スポーツ協会)
若山選手の強みは何でしょうか?
「スピード」ですね!
一瞬見ると、障がいが軽い3.0点クラスや3.5点クラスの選手は早いのは当たり前なのですが、僕と同じ1.0点クラスの中で見たときに「スピード」があるので、そこが強みですね。
この競技の面白さは何でしょうか?
激しいコンタクトプレーと、時間調整を考えつつ行う緻密なプレーですね。
とにかく、激しい。車いすラグビーは激しいので「マーダーボール(殺人球技)」と呼ばれていて。僕の場合は、激しい試合の映像を見て、「あーやってみたい!」と思い、この世界に入ったので「怖い」とはならず、楽しかったですね。ぶつかり合って、転倒もする…そのコンタクトプレーは魅力です。
選手たちの戦略が分かると、試合観戦をもっと楽しめるように思っています。基本のルールとして、40秒間で相手のゴールに入れないといけないのです。ワントライで1点しか入らないスポーツなので、力が互角だと1ずつ取り合うシーソーゲームになります。だいたい1試合で50~60点くらい入るのですが、残り2分くらいになったところで、うまく自分のチームの攻撃時間を調整し、どうしたら相手に攻撃の時間を与えなくて済むのかと考えていきます。この40秒をどう使うのかという頭脳戦が面白いですね。
YouTubeでもし見られるとしたら、世界選手権の決勝「日本×オーストラリア」、リオパラリンピック予選「日本×アメリカ」。この試合はだいたい1点差で終わっているので、戦略としての時間稼ぎとか、時間の使い方が見られる感じになっていると思います。「今いけるじゃん?」ってところで、ゴールしなかったりするんですよね。
車いすラグビーを通して、学べたことや刺激になったことはありますか?
チームスポーツとしての良さはありますね。障がいを負う前にも、サッカーとかチームスポーツをしていたので、チームで戦う素晴らしさとか、練習・トレーニングの苦しい部分を含めて、みんなと一緒にやってきたからこそ感じられる良さ、分かち合える瞬間を知っていましたが、ここでも、またそれを感じることができました。
あとは、中途で障がいを負ったことで、新しい「仲間」を出会えたというのも大きいですね。車いすラグビーの世界を知り、今の仲間という存在に出会えた…これは本当に嬉しいことです。
車いすラグビーって少し見たり、触れたりするだけだと、「激しさ」「衝撃」に目がいくと思うのですが、実際にプレーしてみると、競技中のスピード感が良いんですよ。あのスピード感は、たまらなく楽しいです。あとは、細かいチームプレイも楽しくて…ハイポインターとローポインターが上手く連携して、お互いの障がいを理解して、強みを出し合う感じとかを見ていただきたいですね。すごく好きなスポーツです。自分が夢中になれるもの、楽しめるものに出会えることって大切だなって思います。
戦うときのマインドセットや大切にしていることは何でしょうか?
激しい勝負の中で、勝敗にこだわりつつも、車いすラグビーを楽しむ気持ちを忘れないっていうことですね。当然「勝ち」にはこだわりたいですし、それが東京パラリンピックとか大事な試合であれば、なおさらです。
でも、何ごともそうですが、上手くいかない瞬間ってあると思っていて。そうすると、そこにこだわりすぎてしまうと、ストレスでどんどん循環が悪くなってしまう…それよりも「楽しむ」という本質を大事にしたいですし、ミスしたときも、その気持ちでいれば、切り替えるきっかけになると思っています。なので「楽しむ」という気持ちを、根底に持っていたいなと。
まだまだ、新型コロナウイルスの影響もあり、先行きが見えませんが…、最後に、今後の目標を!
当然、東京パラリンピック、金メダルです。
2020年7月から代表合宿が始まり、徐々に戻ってきたかと思ったら、また緊急事態宣言で…と、いろいろあります。それに、練習できる新しくできた施設も、コロナの軽症患者受け入れのスペースになってしまったり、予定通りではないことだらけでした。
ただ、その中でも、トレーナーの方と相談しながら必要なトレーニングをしたり、体育館を借りて練習したりって感じですね。予定と変わってしまったことはたくさんあるけど、その中でできることをやる。目指すは、東京パラ!今は目の前のできることをやる!それだけです!
インタビューを終えて
若山選手は、明るくて、スポーツがすごく好きで、きっとムードメーカーだろうな…と、2019年にトークショーでご一緒したときから、お話をするたびに思います。
今回は選手としての若山英史さんをクローズアップしました。
障がいを負ってから今に至るまでのプロセス、日頃のプライベートについては、続編を楽しみにしていてください♬
どのスポーツでもそうですが、ルールを知り、選手の方々の戦略が見えてくると、試合観戦に行ったときの面白さは大きく異なります。
車いすラグビーについては、
○ 公益財団法人日本障がい者スポーツ協会「かんたん!車いすラグビーガイド」
ぜひ、知るきっかけとして、ご参考になさってください♬
私たちが試合をみて感動したり、選手たちをカッコイイと尊敬したりするのは、競技としての面白さとともに、選手たちの競技に向かう真摯な姿にあるのだと思います。
そこには「障がい」という言葉がいらない、心から消える瞬間があり、本質に近づかせてもらえることにも、感謝と尊敬です。
試合での力強い感動と、私たちに大事なことを気づかせてくれて、ありがとうございます。