ネイルがくれる魔法、心に栄養を(Plumeria Nail 有本奈緒美さん)
バリアフリー対応のネイルサロンを開かれているネイリストの有本奈緒美さん。2014年に病気の診断を受け、それからまもなくして車椅子での生活が日常になりました。福祉職として働いていた時間は一変し、支援する側からされる側へと変化していきました。
ネイルサロンへ着くと、ハワイアンテイストの可愛らしい看板が迎えてくれます。少し緊張するな…と玄関へ進むと、ピンク色の車椅子に乗り、笑顔が光る有本さんにお会いできました。プライベートネイルサロン「Plumeria Nail」、緊張感など一瞬で吹き飛び、癒しの空間が広がっていました。
湘南・茅ヶ崎にあるPlumeria Nail(Facebook・Instagram・ホームぺージ)
病気を患い、ネイリストになるまで、どのような思いや出来事があったのでしょうか?
病気の診断を受けたときは、福祉職でした。就労継続B型作業所で職業指導員をしていました。今までの私は人の助けになる、支える、お役に立てる仕事が天職だと思っていたので、いよいよその仕事を諦めなくてはいけなくなったとき、本当に悲しかったです。仕事も失い、できていたことができなくなっていく自分の身体…。
当時は受け入れることができなくて、家から出られなくなった時期もありました。それに家族に当たってしまったこともあり、家族も一緒に大変な思いをしているのに申し訳なかったです。子どもたちに対しても、そんな風に思っていないと分かっているのに「どうせ、ママのこと恥ずかしいんでしょ!」と言ってしまったこともありました。そのとき、子どもたちが言ってくれたのは「恥ずかしくなんてないよ。だってママ頑張っているでしょ」と。
あの瞬間が私の心の転機だと思います。そこから「かっこいい車椅子のお母さんになりたい」と思えたんです。「まだまだ私、諦めたくない!」という気持ちにもなり、いろいろなことに挑戦しました。…車椅子バスケのチームに入っていたこともあるんですよ!(笑)…あれはハードでした(笑)
その頃、障害者雇用で企業に就職もしました。ただ、社会の障がい者に対する理解のなさにダメージを受けて退職をして。そのあとです、やはり自分自身が、誰かを笑顔にできる仕事をしていきたいと思い、ネイリストになることを決めたんです。
支援する側からされる側へ、思いをお聞かせください。
ずっと支援する仕事をしてきました。大変なこともたくさんありましたが、ご利用者様に寄り添うことで、信頼関係ができているなと思う瞬間がすごく幸せでした。
しかし、いざ自分が障害者となってみると、今まで障がい者の気持ちを分かったように話してしまっていたと、ハッとする思いでした。
当事者になり、実際に感じたことや見えてきたものは、支援者のときには分からなかったものばかりでした。天職だと思って支援の仕事をしてきたのに、何にも分かっていなかったと気づくことができました。
最初に感じたのは「視線」ですね。これまでも、ご利用者様と外を歩くと、地域の皆さんから視線を感じることは、もちろんありました。なので、何となく視線慣れしている気がしましたが、車椅子生活になった途端に、その視線は自分に向き、突き刺さるようで…こんなに見られることってつらいんだと、実感として初めて理解できたように思います。
良いのか悪いのか、支援する側と支援してもらう側を経験していることで、両方の気持ちが分かるような気がします。これを、今後の人生に活かしていけたらいいなと思っています。
有本さんにとって「ネイル」とは何でしょうか?
いろいろとありますが、
◉外に一歩踏み出すためのお守り
◉笑顔を引き出すツール
◉唯一、美容の中で鏡を見ないで自分で見れるところが素敵
◉自分自身の自信となるツール
◉指先に彩りが入ることで、心の栄養に
◉ウキウキ・ワクワクするもの かなぁと。
ネイルを通したエピソードなどはありますか?
いろいろとありますよ。ネイルって不思議な効果があるなとそのたびに感じるんです。
お子さんのエピソードとしては、イベントでネイルをしたときに、障がいのあるお子さんが結構来てくれたんです。普通にネイルをしていたのですが、その子のお母さんが目を真ん丸にして驚いていて…何があったんだと思ったら「普段はじっと座っていられない障がいなんです。まさかじっと座ってネイルが乾くのも待てるなんて。家でもやってみます!」と。
他にも、老人ホームに訪問してネイルしていたこともあるのですが、そのときに、利用者のおばあちゃん達が「私なんていいわよ~綺麗にしたところで~」と言ってくるんですけど、いざネイルの準備をすると「赤で!」と即答されたり、指の1本だけアートとして、お花の絵とかを描くと、うっとりと見つめながら、天井に手をかざして、ニコニコとされている姿があるんです。あとは、90歳代後半くらいの方が、ネイルをしたら、すぐにお部屋に戻ってしまい、「あー戻ってしまったなぁ」と思っていたら、なんと部屋で着替えて、お化粧して出てこられて。これが、ネイルのもつ力だと思うんですよね。指先に色が入るってすごいことなんだなって、私も改めて教えてもらうんです。
有本さんのネイルサロン「Plumeria Nail」のこと、教えてください
ネイルサロンて、建物の2階にあったり、敷居が高かったり、車椅子で入れるのかな?と思ってもあんまり情報がなかったり…、車椅子生活を送るようになってみたら、急にハードルが高くなってしまったんです。なので、もっと誰でも気軽にお越しいただけるネイルサロンがあったらいいなと思ったんです。障がいやご病気があったり、ご高齢でも、自分の状態を気にすることなく行ける場所でありたいし、そういった方々に来ていただきたいなというコンセプトで始めました。
障がいも健常も関係なく、私がお店を行うことで、障がい者と健常者の垣根がいろいろな意味でなくなればいいなと思ったんです。
今では、そこだけに特化せず、様々なお客様にお越しいただいています。
なので、お客様の層としては、あえて障害でいうと、聴覚障がいの方、片麻痺の方、脳性麻痺の方など…、あとは、いろいろな方に来ていただいているので、普通のネイルサロンと変わらないですね。私が車椅子なので、玄関やサロンルーム、トイレなど、ハード面は比較的利用しやすいかもと、安心してもらえると嬉しいなと思います。おしゃれって障がいに関係なくて、たとえば、視覚障がいの方もおしゃれをたくさん楽しんでいらっしゃるので、点字ネイルなども準備しています。
プライベートネイルサロン Plumeria Nail
〒253−0052
神奈川県茅ヶ崎市幸町6−30−11
Tel 050-5329−0898
営業時間: 10:00〜18:00
定休日: 不定休(お問い合わせ下さい。)
ご予約はLine@か、メール、お電話にてお問い合わせいただいております。
Facebook Instagram ホームぺージ
ネイリストという仕事を通して、やりたいこと、伝えたいことは?
ネイルには本当に無限の効果や可能性があります。エピソードのように「おしゃれをする」という特別な時間にもなりますし、ウキウキ楽しくなれるんですよね。あと、今後やりたいこととしては、ネイルって障がいのある方の仕事にもできるのではないかと。
たとえば、知的障がいのある方にも、ご自身の感性を活かしてデザインを考えるなど、まだまだ見えない可能性をネイルで見つけられたらと思っています。
ネイルを自身の手にするもよし、ネイルをお仕事としてできたら、もっと喜びに変わるのではないかと思っています。障がい者の就労のひとつの種類として、ネイルも選択肢となれば嬉しいです。
他にも、さまざまな活動をされていると伺います。教えてください。
茅ヶ崎市市民活動団体「マヒナ」を立ち上げています。
障がいのあるなしに関わらず、市内で気軽に行けて、情報交換ができる「自分の居場所」のようなところが欲しかったのですが、見つからなかったため作らせていただきました。
マヒナというのは、ハワイ語で「月の光・月のあかり」といった意味があります。夜道を優しく照らす月の光のように、「マヒナ」を居場所にして、自分らしく輝いていってほしいと願い、つけました。
今後、マヒナでは学校教育現場への指導などもおこない、自分の価値観が形成されていく「子どもたち」という年代へのアプローチをしていきたいと思っています。
まだまだ模索中ではありますが、障がい者や、ご家族様が住みやすい環境を作っていけたらとも思っています。
有本さんが活動しようと思う、原動力は何でしょうか?
やはり、私がこの身体になったことには「意味がある」と思っています。
自分の身体や、自分の経験・体験してきたことを活かして、皆さんがわからない障がい者のリアルをお伝えしたい!分かってほしいという思いからくるのだと感じています。そして、やはり家族は大きいですね。自分の子どもたちに「かっこいい車椅子のお母さんでいたい!」というところが原動力ですね。
社会の皆さんに伝えたいことはありますか?
障がいに対する偏見はまだまだあるのが現状です。今回、障がい者になって見た目は変わってしまったけど、皆さんと何も変わらないままですし、心も変わらないです。
工夫すればできる幅は広がるし、そもそも完璧な人なんていないはずです。できないところはみんなで手を取り合って共生できる世の中になるといいなと思っています。
あとは、私がピンク色の派手な車椅子に乗っているのには意味があって、見た目が可愛いというのもあるんですけど(笑)、地域の皆さんにたくさん見てもらおうと思っています。知ってもらう機会、あたりまえに思ってもらう機会になればいいなと。実際に「かっこいい車椅子だね!」とか「高かったでしょ!」とか、声かけられる機会も多くて、それをきっかけにお話ができるのもいいなと思っています。私自身がそういう話しかけやすい人になることで、そこから地域を変えていきたいとも思っています。
Plumeria Nail 紹介動画♬
■ 皆さんにお知らせ ■
12月13日(日)「目黒街角Heart&Artクリスマス」エシカルファッションショーにて、有本さんは車椅子モデルとしてランウェイされます♬
インタビューを終えて
今回の取材は2人で伺うことができ、3人で女子トークを楽しむかのように、いろいろなお話ができました。
有本さんとお会いしたのは、この日が初めてでしたが、これまでも一緒に活動してきたかのように、同じ想いを共有しました。
障害と健常、障がいと一般、福祉と社会… 表現は何でも良いのですが、あるラインを越えたときに、人は簡単に分類を変えてしまうことがあります。
昨日会っていたあなたと今日のあなたは変わらないのに、その日を境に車椅子を使うようになったり、その日を境に目が見えなくなったら、私たちはジャンルの違う生き物になってしまうのでしょうか。
私たちは何も変わらない―
支援することを仕事にする福祉職から、支援を受けことができる…ある一定の権利をもつ障がい者へ、有本さんに起きたことはとても大きなことであり、簡単な言葉で結ぶことはできないのですが、ご自身の身をもって、その垣根をつなごうと活動されています。
有本さんの伝え続けるメッセージは、地域で暮らす私たちの凝り固まった頭を「いやいや、良く考えてみて、同じじゃない?」と明るく溶かしてくれるような気持ちになりました。
湘南・茅ヶ崎のプライベートネイルサロン Plumeria Nail
住所:〒253−0052 茅ヶ崎市幸町6−30−11
電話:050-5329−0898 定休日:不定休