コラム

感染拡大とストレスコーピング

不安が増える中でのストレスコーピング

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みなさん、こんにちは。小川優です。

今回は、感染症と関連したストレスをどう私たちがかわしているのか、考えてみましょう。

「今、ストレスはありますか?」という質問に対して、みなさんはどう答えるでしょうか?おそらく今の社会の状況からすると、「あります」と答える方が多くなっていると思います。これはあえて伝えずとも、緊急事態宣言や外出自粛、マスクが手に入らないなど、私たちの中に、共通して認識している不自由さがあるからです。これは、ある意味「バイアス」がかかった状態でもあります。「バイアス」という言葉は、統計や研究でよく使われるのですが、「偏り」という意味でもあり、何かに影響を受けてしまっている状態のことをいいます。たとえば会社の中で、社長がいるところで社員に「この会社は働きやすいですか?」と聞いてみます。多くの場合、会社の良さを答えてしまう方が増えてしまい、本来であれば不満があっても、正確な情報を正確な量、測れなくなってしまいます。ただし、これは統計や研究においての話であり、相談活動を大事にする私にとっては、「ストレスがある」といいやすいことは非常にいいことだと思っています

では、今あるストレスをあげてみましょう。

緊急事態宣言が出た、外出自粛つらい、感染症こわい、マスクがない、アルコールもない、感染したくない、でも外に行きたい、海に行きたい、飲み会したい、おばあちゃんに遷したくない、布マスクありえない、布マスクありえないという人ありえない、友達の価値観が信じられない、距離が近い、雨の日のバス最悪……

と、いくらでも、あげられそうです。

私たちは、ストレスを受け続けていては、身を守ることができません。そのために、ストレスをかわす方法として、ストレスコーピングがあります。かわす方法はさまざまあり、つらい出来事に対して、頭で考えて納得させる「合理化」、スポーツや芸術に打ち込む「昇華」、向き合わないと決めてその出来事を避ける「逃避」など、いろいろな項目があります。

難しいのは、感染拡大を防止するとなると、使えないストレスコーピングがたくさんあります。「もうつらいから、運動してくる!」「えーい、今日はやけ酒、やけ食いだ!」「もう頭にきた、買い物へ行こう!」「今日は友達と語り明かしたい!」

これは感染症対策だけでなく、災害時でもいえるのですが、「制限があるため、ストレスコーピングがしにくい」というのも特徴です。ストレスを発散できないことがストレスだよ、そのとおりですよね。

私は、このストレスコーピングから生み出されたバイアスが、今回あると思っています。ストレスは回避しないといけないので、仕方がないことでもあるのですが、典型的な正常性バイアスが生まれているように感じます

正常性バイアスとは、災害心理の現場や医療の現場でも使われるのですが、『予期せぬ事態と向き合った時、「ありえない」という先入観と偏見が働き、これは正常の範囲内だと、心が自動的に認識する』というものです。そうしなくては、心が壊れてしまうから、自分の理解の範囲ではなく、自動的に自分を守るという、人間のセーフティ機能のようなものです。今回、新型コロナウイルスに関して、意外と大丈夫だという説があります。これはまさに正常性バイアスの効果だと私は思っていて、生きるためのセーフティ機能は心苦しいものだなと思っています。正常性バイアスの危険性は、これまでも多くの災害現場で語られていて、逃げ遅れに繋がったり、これさえあれば大丈夫という輝かしいデマが流れたりする。正常性バイアスは、とても自分で気づくことは難しいので、その人の意見を否定するのではなく、徐々に現実と向き合う作業をしていかなくてはいけません。

ストレスを回避しなくては、私たちは生きられない。生きるための正常性バイアスで、人が亡くならないようにするためにはどうしたらいいのだろうと、頭を抱えます。私も含め、多かれ少なかれ、「これなら大丈夫」という正常性バイアスがそれぞれの人の中で、必ず生まれています。これは心が壊れるのを防ぐ方法なので、すべてを否定することはできません。ただ、それが、感染拡大を助長し、日々のストレスがまた長く続いてしまうことがないように…その人を助けるためにも、正常性バイアスについては考えなくてはいけないなと日々思っています。

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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