コラム

むぎむぎ通信 vol.21「トイレットペーパーと、小さな『私の出番』」

代表・小川優が綴る、日々のなかの気づきや、心に灯ることばのコラム。

育児、地域、仕事。小さくて、ゆっくりで、ささやかなものに宿る“光”を見つめる連載です。

娘は1歳2ヶ月になりました。
1歳を過ぎた頃からでしょうか、娘のなかで大きな変化がありました。

それは、「役割」の芽生えです。

少し前まで、私がトイレに行こうものなら「置いていかないでー!」とばかりに泣いて後を追ってきたのですが、しだいに、トイレは「泣く場所」ではなく、「一緒に入る場所」へと変わっていきました。

ただついてくるだけではありません。
私がトイレに入ると、後から「てくてく」と入ってきて、パタンと扉を閉める。
そして、トイレットペーパーの先っぽを、小さな体で一生懸命背伸びをしてつまみ、少し引いて長くしてから、私の手に渡してくれるのです。

「はい、これ使うんでしょ?」

そう言わんばかりの、ちょっと得意げな「ドヤ顔」。
私が「ありがとう」と受け取ると、満足そうにニヤリと笑います。

さらに最近、思わず吹き出してしまった出来事がありました。
そのとき娘は、お気に入りのおもちゃで遊ぶのに夢中でした。私がトイレに行くと、いつもより少し遅れて参上。

今回は扉も閉めず、トイレットペーパーだけをスッとおろして私の手に渡すと、また「てくてくてく」とおもちゃの元へ戻っていったのです。

彼女は、「紙を渡す」という自分の役割を果たすためだけに、わざわざ来てくれたのです。
その仕事人っぷりに、思わずトイレの中で笑ってしまいました。

思い返してみると、娘が見つけた「私の出番」は、あちこちに存在しています。

寝るときに寝室の電気をパチンと消すこと。
お風呂の扉を閉めること。
自分のお菓子を、私の口に「あーん」と運んでくれること。

誰に教わったわけでもないのに、彼女は生活のなかで「自分がやるべきこと」を見つけ、それを果たすことに喜びを感じているようです。

「役割」を持つというのは、人が生きていく上で、ものすごく大切なことなのだと思います。

「ありがとう」「助かったよ」と言われること。
「ここは私の出番だ」と思える場所があること。
それは、「自分はここにいていいんだ」という、確かな自信と安心感につながっていきます。

トイレットペーパーを引っ張り出す娘の小さな背中を見ながら、ふと思いました。

これはもちろん、子どもだけの話ではない、と。

障がいの有無や、年齢に関わらず。
どんな状況に置かれている人であっても。
誰もが心のどこかで、「自分の出番」を探しているのではないでしょうか。

「ここは私がやるよ」「任せてね」と、少し誇らしく胸を張れる瞬間。
それがたとえ、ささやかなことであっても、誰かが「ありがとう」と受け取ってくれれば、それはその人を支える大きな「役割」になります。

小さな手から渡されたものを、こぼさないように受け取れる社会でありたいですね。

さて、今日の彼女はどんな「出番」を見つけるのでしょうか。
彼女が一生懸命見つけたその「出番」を、近くで大切に受け取っていきたいと思います。

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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