コラム

むぎむぎ通信 vol.5「甘味のある珈琲とカボチャプリン」

代表が書くコラム、柔らかく紡ぐ「むぎむぎ通信」です。

今回は、お勧めしたいカフェ、小田急線本鵠沼駅から歩いてすぐのところにある「ROUND CAFE」のお話です。

今年度、藤沢市自閉症児・者親の会の新年会が「ROUND CAFE」でおこなわれたと聞き、とても興味がありました。自閉症児・者親の会の新年会であれば、さまざまなタイプの自閉症の方がいる空間です。

今の社会を見ていると、残念ながら、まだインクルーシブとは言えず、「誰がどこにでも気楽な気持ちで行ける社会」ではないと思っています。障がいのある方の行ける場所は、ある程度限られているのが実際であり、気楽な気持ちで行くためには、その場所が「障がいに対して理解があるかどうか」が気になってしまうものです。

参加した方から、喫茶店のマスターは障がい者施設で働いていた経歴があると聞き、私のなかで「なるほど」と納得しました。この「なるほど」と思ってしまうことすら、妙に切ないのですが、私にとっての「今の社会」はこういう捉えです。

「障がい者施設の元職員さんが本鵠沼でカフェ」「障がいのある方も行きやすい」、このキーワードが揃ったとき、Ana Letterで取材をしたいという想いが沸々と湧いてきました。

記事で紹介ができたら、これまで喫茶店へ行くことを躊躇していた人も行けるかもしれない。新しく行ける場所の選択肢が増えるかもしれない。

そして、「ROUND CAFE」の下調べを始めました。下調べをすると、障がい福祉に親しい内容があるかなと考えましたが、そういった情報はなく、コーヒーと音楽にこだわった落ち着いた空間であることが載っていました。

そこには、最近、流行りのように使われている「障がいのあるなしに関わらず」や「どなたでも」という表現もなく、マスターと障がい福祉との関係も書かれていないのです。

「とにかく、行ってみよう」と、生後5ヶ月の娘を連れてROUND CAFEを目指しました。

当日は雨が途中から降ってきてしまい、娘は抱っこ紐の中から初めての雨を経験。「早く帰らなくては行けないな…」と少し焦りながら、喫茶店に向かいました。

「赤ちゃんを連れて、喫茶店でゆっくりするのは難しいし、テイクアウトかな」と頭で考えながら、店内に入ると、たまらなくコーヒーの良い香りが広がっているのです。そして、店内の照明、木目調の壁、ドラムやコントラバス、壁に貼られた写真やポスター、そのすべてが何とも心地よく感じられました。

ここで、コーヒーを飲みたい。娘には申し訳ないのですが、テイクアウトするという発想は1mmもなくなり、バーカウンターのなかにいるマスターに声をかけました。

「赤ちゃんと一緒なのですが、今落ち着いていて泣かないと思うので、店内で飲んで行っても良いですか?」すると、マスターは笑いながら「泣いたっていいよ」と、さらっとした答えを返してきました。

あえて、何かを強調することもなく、赤ちゃんは泣くことが自然なのだから、泣いたって泣かなくたっていいのだと言われたような気がしたのです。

私の感覚を振り返ると、静かで落ち着いた店内だからこそ、娘が泣いてしまうことに遠慮をしました。そして、泣かないようにすることが礼儀のような妙なマナーを自分のなかに持ったのだと思います。

初対面での空間ですが、嬉しいことにマスターと常連さんとお話をすることができました。ROUND CAFEは、私の取材したいものがたくさん詰まった空間でしたが、マスターは笑顔で「俺はインタビューは受けないよ(笑)」とお断り。そのつれない感じが何とも魅力的だなと感じつつ、「インタビューは受けないけど、感じたことを記事にして良い」と言ってもらえたので、今、コラムで綴っています。

ROUND CAFEの魅力は、「自然」の捉え方だと思います。地域に、子どもやお年寄り、障がいのある人など、さまざまな人が暮らしていることが自然であると「自然」の軸をそこに置いています。

それならば、美味しいコーヒーを飲んだり、ちょっと立ち寄りたくなれば、誰でもROUND CAFEに来るのは自然なこと。赤ちゃんが泣く、座れないから立ち歩く、大きな声を出す…そういった人それぞれの自然なことが違うことも、自然なこと。それを守ってくれているのが、ここのマスターのように思いました。

社会のなかには、まだ「自然」の軸が、「障がいのある人がいない状態」にセットされている場所があります。だんだんと、この軸が変わっていくことが地域のなかで多くの人が暮らしやすくなる方法だと思っています。

「障がいに対して理解がある」「障がいのあるなしに関わらず」などの言葉が不自然だったと感じられる社会にしていきたいなと思いました。ROUND CAFEは、さまざまな人が自分らしく、自然体で行くことができる喫茶店です。落ち着いた空間は行きづらいと思っていた方もぜひ行ってもらえたらと思いました。ちなみに、私のお気に入りは、甘味のある珈琲とカボチャプリンです。

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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