インタビュー

「その人」の背景を知りたくて。音楽好きの記者が大切にする、等身大の視点(タウンニュース社 藤沢編集室 編集長 磯谷拓さん)

2026年3月29日(日)に開催される、ふじさわ学生記者プロジェクト「ふじさわこたね」の成果発表&交流イベント。当日は、地域で「伝える」活動の第一線を走るプロの方々をゲストにお招きします。

今回はイベントに先駆け、「タウンニュース藤沢版」の編集長である磯谷拓さんにインタビュー。福島県から好きな音楽を求めて上京したという磯谷さんの、熱く駆け巡る「伝える仕事の原点」に迫りました。

【原点】音楽ライターから営業マンへ。再び「伝える」世界へ

磯谷さんは今、地域の方々をたくさん取材されていますが、学生時代はまったく違うことをされていたと伺いました。

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

そうなんですよ。実は僕、下北沢に住んでいて、反骨心むき出しの激しいバンドが好きだったんです。髪の毛も、ものすごい長くて、自分でも趣味でギターを弾いたりしていて(笑)。


その頃、地元のレコード屋さんに地域ライターの募集があったんです。まだ世には出てないけど「こいつら絶対来るぞ!」みたいなバンドを、好き勝手にコラムに書いて紹介するアルバイトをしていました。人生振り返ってみたら、あの時代が一番面白かったなと思って。

そこから、どうやって今のタウンニュースさんに辿り着いたんですか?

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

僕は結婚が早くて、20代前半で結婚してもう子どもを育てていたので、家族を養わなきゃと給湯器メーカーの営業マンになったんです。工務店の社長さんを回って「うちの給湯器使いませんか」って営業をしていました。

千葉や東京を回って、神奈川の県西部を担当したときに、営業先の社長さんの事務所にタウンニュースの切り抜きがよく貼ってあったんですよ。「なんだこれは」と惹きつけられて、すっかりハマってしまいました。

営業先での偶然の出会いだったんですね。

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

はい。それから、あるとき、紙面に求人広告を見つけて。昔感じていた、文章を書いて誰かに見てもらう「面白さ」を一生の仕事にできたら最高だなと考えたんです。

それに、名刺1枚あれば、地域の面白い社長さんたちと年齢も肩書きも飛び越えてフラットにお話しできるじゃないですか。それがすごく魅力的で飛び込みました。

【素顔】「いろんな人の話を聞いて死ねる人生がいい」。聞き手に徹する記者の姿

音楽ライターから営業マン、そして記者と、いろいろな場所へ飛び込んでいく行動的なイメージがありますが、学生時代も含めて、どのような性格の方なんですか?

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

いやー、僕暗いですよ、基本的に。みんなには意外って言われるんですけど、田舎者だからなのか、家とかでもずっと本を読んでいますね。

子どもたちも大きくなったので、今は飼っているちっちゃい犬に静かに語りかける感じで過ごしています。

激しいバンドが好きだったと伺ったので、てっきりワイワイするタイプなのかなと思っていました!

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

ないです、ないです(笑)。ただ、ギターをやっていたのにも理由があって。

やっぱりボーカルが一番目立つじゃないですか。目立ちたいわけではないけど、目立ちたくなくはないんです。二番目ぐらいがいいかなって。だからギターなんです。

「目立ちたくなくはないけど、二番目」っていうのが、なんだか磯谷さんらしくて素敵です!昔から聞き手に回る居心地の良さみたいなものがあったんでしょうか?

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

そうですね、人の話を聞くのは本当に好きなんです。営業時代、上司や先輩に連れられて行ったスナックで、ママさんの「二転び三転びするような人生ドラマ」を聞くのが好きだったんです。

今も、高校生から100歳近いご夫婦まで、年齢も肩書きも様々な人の人生に触れさせてもらって、完全に聞き手になっていますね。

聞き手として人の人生に触れられる、記者という仕事がまさに天職だったんですね。

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

そうですね。人生100年時代なんで、ずっと給湯器売ってていいのかなって考える時もあって。それはそれでいいんですけど、もっとなんか、外の世界を見てみたかったんでしょうね。

いろいろな人の話を聞いて死ねるような人生がいいなと思って。人と会って喋るのが好きなんでしょうね。だから僕、取材の予定でカレンダー真っ黒なんですよ(笑)。

【視点】AIには出せない、その人ならではの魅力を探して

「この記事を書きたい!」「この人を取材したい!」と心が動くのはどんな瞬間ですか?

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

パッと目を見たときに、「あ、この人ご苦労なさってるな」と背景を感じるような方は、やっぱりお話を聞きたくなりますね。

今はAIを使えば、それらしい記事は簡単につくれちゃう時代です。AIに「どんな質問をしたらいいか」を聞けば、みんなが思いつくような無難な10個の質問を出してくれます。でも、僕はそこに自分のこだわりを入れたくて。

磯谷さんなりのこだわり、ぜひ聞かせてください。

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

その無難な10個以外の、自分の生身の頭からひねり出した2〜3個の質問をぶつけたいんです。

「僕にしか見えていない部分を紹介できれば一番いいかな」と。それを引き出して記事にして、読んでくれた方から「いい記事だったね」と反響をもらう。それが生きがいになっていますね。

【福祉との距離感】「美味しいから行く」。フラットな共生社会の形

地域メディアをやっていると「障がい」や「福祉」という切り口に出会うこともあると思いますが、どんなふうに感じていますか?

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

僕自身は、障がいや福祉に対して「アレルギー」みたいなものは特にないですね。

以前、横須賀編集室にいた頃に、ふと入ったうどん屋さんが、重度障がいのある方がつくっているお店だったんです。身体の大きな男性だったんですが、その大きな身体で力強くこねてつくるうどんが、すごくコシがあって本当に美味しくて。

「美味しい」が最初の入り口だったんですね。

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

そうなんです。フリーペーパーだと単なるお店の広告として紹介してしまいがちなんですが、僕は「共生社会」という側面に焦点を当てて取材させてほしいとお願いしました。

ご本人の思いをしっかり聞いて記事にしたところ、地域の方からすごい反響があって。次の日にはお店が大行列になっていたんです。

伝えることで、街が動いたんですね。

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

そういう地域のドラマにしっかり光を当てたいんですよね。小学生向けの「こどもタウンニュース」で福祉をテーマにしたときも、盲導犬のことやパラスポーツなどを紹介しました。

子どもたちから見たら、盲導犬も多分ただの「犬の散歩」に見えてしまう。だからこそ、小さいうちから福祉や障がいのある日常に触れて、自然と「免疫」を持ってほしいなと思っていて。

日常の中で自然に触れる機会があるのは素敵ですね。

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

今後は藤沢でも、就労継続支援B型の事業所が運営している、安くて美味しいお食事処を紹介するマップをつくりたいと思っています。市役所に入っているお店や、駅前の事業所など、お弁当やパスタが本当に美味しいところがたくさんありますよね。

今は物価高ですし、「美味しいから行く」「食べて応援する」といった自然な循環がつくれたらと思っています。誰もが普通に、気軽に行き交う。そういう等身大の「共生社会」の姿を、紙面を通して伝えていきたいです。

【メッセージ】まずは街に出て、いろんな人と出会ってみよう

最後に、3月29日のイベントで出会う学生たちや、これから取材に挑戦する若者へアドバイスをお願いします。

磯谷 拓さん
磯谷 拓さん

言語化したり記事にしたりするのって、テクニックが必要で難しいと思われがちです。でも、一番大事なのは「伝えたい」と思う心です。

そのためには、まずは家から一歩外に出てみること。街の景色を見て、いろんな人と喋って、「これおかしいな」とか「あの取り組み素敵だな」と肌で感じること。不器用でも荒削りでも、まずは感じて「伝えたい!」と思えれば、技術は後からいくらでもついてきます。だから、まずはぜひ街に出て、いろんな人に出会ってほしいなと思います。

インタビューを終えて

「このうどん、美味しい!」そんな純粋な感動から始まったうどん屋さんの取材を、単なるお店の紹介ではなく「共生社会」という側面に焦点を当てて記事にした磯谷さん。

同じ出来事や出会いであっても、どう光を当て、どう伝えるか。メディアの立ち位置やアプローチによって情報の色が変わり、そこから社会の景色も少しずつ変わっていく。それこそが「伝える」ことの奥深い面白さであり、メディアが担う大きな役割なのだと改めて実感しました。

いよいよ明日は「ふじさわこたね」の成果発表会。「まずは街に出て、いろんな人と出会ってみよう」と語る等身大の磯谷さんと、これから地域へ歩みを進めていく学生たちが交わることで、どんなトークセッションが繰り広げられるのか。明日、会場で皆さんとご一緒できるのが今からとても楽しみです!

まだお申し込み、間に合います!

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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