「情報」を掛け合わせて魅力を届ける。19歳で起業したローカルメディア編集長の視点(湘南経済新聞 編集長 三浦悠介さん)

2026年3月29日(日)に開催される、ふじさわ学生記者プロジェクト「ふじさわこたね」の成果発表&交流イベント。当日は、地域で「伝える」活動の第一線を走るプロの方々をゲストにお招きします。
今回はイベントに先駆け、フジマニパブリッシングの代表取締役であり、「湘南経済新聞」の編集長を務める三浦悠介さんにインタビュー。19歳という若さで起業した三浦さんの、ロジカルな視点の裏にある「言葉へのコンプレックス」と「伝える仕事の原点」に迫りました。
【原点】コックを経て19歳で起業。情報を掛け合わせる面白さ
三浦さんは19歳という若さで起業してメディアを立ち上げられましたが、そもそも、どんなきっかけだったんですか?
僕は子どもの頃からめちゃめちゃ本を読むのが好きで、いつか物書きになりたいなと思っていました。でも、それだけで食べていくのは狭き門だなと。
大学に進学するという選択肢も考えたんですが、まずは自分で仕事をしようと思って、最初はレストランのコックになったんです。藤沢OPAの下にあった『銀座コージーコーナー』のレストラン部門で、ピザやパスタを作っていました。
え!あのコージーコーナーですか。私もあのレストラン好きでした!
美味しかったですよね。でも、当時、大学に行っている友達の話を聞くと、このままコックだけで終わるのは面白くないなという焦りも出てきて。
アルバイト代を全額自分に投資して、半年間コピーライターの社会人セミナーに通い始めたんです。そこで「面白いコピー書くね」と褒められて。あるとき、セミナーの先生と昼飯を食べる機会があり、「大手の広告代理店に行きたいんですけど」と相談したんです。
そこで背中を押されたんですか?
いえ、「高卒は広告業界だと難しいから、大学に入り直すか、小さい制作会社で10年下積みするかだね」と言われました。だったら地元で自分でやろうと思ったんです。
当時、藤沢でアメリカ古着がブームだったんですが、「古着屋を紹介する広告を自分で書いて配ったらいけるんじゃないか」と思って始めたのが、最初のフリーペーパーでした。最初は『藤沢マニア』という名前だったんですが、読者さんが略して呼ぶようになって、途中から『フジマニ』にしたんです。
やりたいことを軸にしつつ、「ここならいける」を見つける視点がすごいですね。
ゼロから生み出すより、情報と情報を掛け算して出てくるものを、自分のアイデアとして広げるほうが得意だったんでしょうね。
【素顔】言葉へのもどかしさ。内向的だった少年が編集の道へ
三浦さんは、行動的でスポーツマンのようなイメージがあるのですが、子どもの頃はどんなお子さんだったんですか?
僕、球技が全然苦手で(笑)。見た目は色が黒いし行動的に見えると思うんですけど、かなり内向的な子どもだったと思います。
母親は超社交的なんですけど、父親はめちゃめちゃ職人肌のデザイナーで。僕は父の気質を継いでいるのかもしれません。子どもの頃はあまり友人たちと合わせるよりも一人で本を読んでるほうが好きで、自分の世界観の中で完結しているタイプでしたね。
そうだったんですね! 学級委員とかをバリバリやるタイプかと思っていました。
いえいえ。中学生くらいまで、自分が考えていることを言語化することにすごく難を感じていたんです。
言いたいことが言えなくて悔しい思いをしたり、早口で「何言ってるかわからない」と突き放されて落ち込んだり。そんなに順風満帆ではなかったですね。
でも、そういう言葉へのコンプレックスや、ご自身の中で黙々と向き合える職人肌な部分があったからこそ、「伝える」という地道な編集作業に向いていたのかもしれないですね。
そうですね。地味で地道な作業なので、そこは自分に向いていたんだと思います。
【視点】「取材」を通じて、自分の興味や世界を広げていく
メディアを運営する中で、「この人を取材したい!」と心が動くのはどんな時ですか?
最初はファッションが好きで古着屋さんを取材していましたが、だんだん経営の方に頭が向いてきました。
あとは、「取材」というキーワードでどこまで入り込めるかの実験みたいなところもありました。大学の中の人に「話を聞かせてください」と言ってみたり、この媒体の力が自分の世界をどこまでこじ開けられるか、チャレンジするほうに興味がシフトしていった気はしますね。
「取材」という力を客観的に見ていて、すごく面白い視点ですね。現在はWEBの「湘南経済新聞」へと媒体を移行されていますが、そこにはどんな思いがあったんですか?
やはり紙媒体の印刷代や配送のコストなど、限界を感じていた部分がありました。そんなときに、ご縁があって湘南経済新聞を引き継ぐことになって。湘南経済新聞はYahoo!ニュースに載る伝播力もありますし、何よりコストが安い。情報を広く伝えるために重要な要素だと思っています。
僕としては「最小の力で最大の効果を得る」みたいなことをやりたいなと思っています。今後は東京や横浜ではなく、このローカルで培ったノウハウを中東などの海外で生かしていくことにも挑戦してみたいですね。
【福祉との距離感】純粋な評価が「実利」につながる、アートの力
地域を取材する中で、「障がい」や「福祉」というテーマにはどんな距離感で向き合ってこられましたか?
フリーペーパーを始めて3年目くらいのときに、障がいのある方たちのアートを商品化している平塚市の福祉施設の方と知り合って、めちゃくちゃ面白いなと思ったんです。
障がい者アートってすごく人の心を動かす力があるのに、当時はあまりメジャーじゃなくて。だから、街のお店に絵を並べてもらう「街角美術館」みたいなスタンプラリーを企画しました。僕は「実利」につながることに興味があるんです。
実利、ですか。
たとえば、商品を買ってもらうとき、「かわいそうだから」とか「支援してあげよう」という目線でお金を使われるより、作り手としては純粋に作品を評価されたほうが本当は嬉しいはずですよね。
アートなら「この絵が本当に好き」とか「すごく素敵だから欲しい」というふうに、障がい云々から完全に外れた動機で人が動いてお金を使ってくれる。それが結果としてきちんとした対価、つまり「実利」につながっていくのがすごくいいなと思うんです。
大事な視点ですよね。支援のような気持ちで、障がいのある方の作品や商品が購入されていくと、そこから関係性も広がらないように感じています。
そうですね。もちろん福祉の在り方にはいろいろなパターンがあっていいと思うんです。
ただ、僕が個人的に興味を惹かれるのは、単に支援を受けて時間を過ごすのではなく、その人たちが「役割を持って社会と接点を持っている」ところですね。
役割と接点、ですか?
はい。社会的な価値をつくろうとしていて、一本のブレない軸が通っているところ。福祉への「目線を変えようとしている」取り組みは積極的に取材をして取り上げたいなと思っています。
「その場限りの支援」として消費されて終わるのではなく、上手くいった形がノウハウとして地域に蓄積され、外へ発信されていく。そういう活動は本当に面白いし、そこにメディアの価値があるように思います。
【メッセージ】相手の言葉にならない想いを汲み取る「聞く力」
最後に、3月29日のイベントで出会う学生たちや、これから取材に挑戦する若者へアドバイスをお願いします。
やはり「聞く力」ですね。取材の対象者って、お話が上手い方ばかりではないんです。
頭の中には熱い想いがあるんだけど、なかなか言葉にできなくてフワフワしている状態が常にある。それを「つまり、こういうことですか?」と少し言語化して手助けしてあげる。
こっちが喋りすぎず、いい形で合いの手を入れるのが取材の肝だと思います。
相手の言葉にならない想いを汲み取って、一緒に形にしていくんですね。
そして、聞いて終わりではなく、ちゃんと成果物にしないといけません。相手が言いたいことと自分が聞きたいことを引き出したら、なるべく早めにアウトプットして「私はこんなふうに受け取ったんですけど、間違いないですか?」と相手に確認する。
この「言葉のリレー」を意識してやっていくと、インタビューからの学びが最大化して、本当にいろいろなことを吸収できると思います。ぜひそこを意識してやってみてほしいですね。
インタビューを終えて
作品への純粋な評価が、確かな「実利」へと繋がっていく。その場限りの関わりで消費されるのではなく、上手くいった形がノウハウとして地域に蓄積されていく。三浦さんのフラットで本質的な視点に、私自身も深く共鳴しました。
媒体や言葉の見せ方は違っても、メディアを通じて地域の中に「増やしていきたい」と願う福祉の景色は似ているのかもしれない。それぞれの特性を活かしながら、私たちは地域に対して常にアクションを起こしているのだと、お話を伺いながら胸が熱くなりました。
「相手の言葉にならない想いを汲み取り、言葉のリレーをする」。三浦さんが語ってくださったこの姿勢は、これから地域へ飛び出していく「ふじさわこたね」の学生たちにとって、何よりの道しるべになるはずです。3月29日のイベント当日、学生たちとどんな化学反応が生まれるのか、今から楽しみでなりません。





