隣の人とただ笑い合える未来のため、障害を溶かす(ミカンベイビー合同会社・SFCーIFC代表 寺澤裕太さん)

2023年に結成された福祉コミュニティ型ラボ「SFCーIFC」をご存知でしょうか?現在、所属メンバーは高校生から80代の多様な属性。SFCーIFCでは「障害の未来を考えるゼミ」や「障害の未来を考える文化祭」、定期交流会、YouTube活動、アプリ開発など、【真のインクルーシブな社会】を目指した多くの活動を実施しています。
SFCーIFCはミカンベイビー合同会社が運営しています。寺澤裕太さん(ミカンベイビー合同会社代表・慶應義塾大学環境情報学部4年)は、「日本社会に良くも悪くも染みついてしまった“障害”を溶かして、みんなで「障害」とは何なのか考えていきたい」と話します。今回は、寺澤さんの活動や思い描くビジョンについて伺いました。
「障害」をゲシュタルト崩壊させる「SFC-IFC」の活動

「真のインクルーシブな社会」というコンセプトの背景を教えてください。

SFC-IFCでは、設立当初から一貫して「真のインクルーシブな社会創造」というスローガンを掲げています。
インクルーシブというのは広い概念なので、障害に限らなくても良いのですが、私はとくに障害・福祉分野に力を入れています。真のインクルーシブな社会創造の細かい説明は長くなってしまうので、ホームページ等でご覧いただければと思います。

具体的にはどういうアプローチを考えていますか?

「障害の未来を考えるゼミ(対話型ワークショップ)」や「障害の未来を考える文化祭」で実施していますが、「障害」という概念を、そのまま社会に真正面から思いっきりぶつけてしまおうと思っています。
それによって、障害をゲシュタルト崩壊させるイメージです。さまざまな障害と向き合うことで、みんなのなかで「結局、障害って何だったっけ?」と捉え直すきっかけをつくっていきたいと考えています。

たとえば、昨年開催された「障害の未来を考える文化祭」では、どのような取り組みをされたのでしょうか?

昨年開催した「障害の未来を考える文化祭」では、【障害を楽しく身近に】をコンセプトにしました。会場をいくつかの部屋に分けて、さまざまな視点から「障害」と出会ってもらいました。
「Thinking」という考えるための部屋や、障害にまつわるアートがある部屋、「Future」と題して未来に向けて活動している人たちの場所、事業所の商品が並ぶショップなど、さまざまな角度から障害を見ていただくことができました。
何かを教えるというよりも、クリエイティブにこだわり、純粋に楽しんでいただける空間・体験の中に事実としていろいろなことを並べて、最終的にそこから何を汲み取るかは来場者の方にお任せするスタンスでいます。

実施してみて、いかがでしたか?

4日間で200名以上の方にご来場いただきました。来場者の方から多くのフィードバックをいただき、すべてが宝物です。
そのなかには、次の開催を願う言葉、活動が広がってほしいという言葉、また、心を揺さぶられて「障害」について考えてくださった内容も多く、本当に嬉しかったです。今年度の実施はないのですが、何かしらの形で続けていきたいと思っています。

寺澤さんは「障害を溶かす」と表現されますが、詳しくお伺いしたいです。

一番大きいのは「正解はない」ということです。今は「障害」というと、あまりに広く色々なことを含む言葉なのに、一人ひとりの頭のなかでイメージしているものは凝り固まっていることが多い。
たとえば、普段、障害にそんなに関わらない人が「障害」という言葉を見たときに、視覚障害の方を想像するかもしれないし、車いすに乗る人を想像するかもしれない。聴覚障害当事者の人は自分のことだから当然聴覚障害のイメージが強くなる。「障害」という言葉に含まれた具体的な人やイメージが異なってしまっているため、すれ違いも起きる。取り扱いが難しい「障害」というものを一旦溶かして、もう一度みんなで「結局、障害って何だろうね」ということから考えていきたいと思っています。

「誰もが安心して人生を全うできる社会」の実現へ

寺澤さんが「障害」と向き合い続ける原動力は何なのでしょうか?

幼い頃から障害のある方と接する機会はありました。しかし、それらが明確なきっかけというわけでは正直ないです。
ただ「いろいろな人がいること」が当たり前だと思って育ちました。そのなかで、とくに障害のある方に対して、社会は風当たりが強いと感じてきました。その度に「これは嫌だな」と思い続けて、今があります。
自分が思い描く「社会はこうあってほしい」というエゴと、現実社会との差に耐えられず、それをなんとか変えていきたいという思いが原動力になっています。

いつ頃から寺澤さんの「障害」に対する活動が始まったのですか?

さまざまな出来事がつながり、高校を卒業する頃には、障害に関することを「ライフワーク」としてやっていこうと決めていました。
NPOでもビジネスでも研究でも、形は何でもいいと考えています。自分がその時にできる形でやっていこうと思っているので、その一つの形が「SFC-IFC」というコミュニティです。

SFC-IFCは、今後どのようなコミュニティになっていったら良いと考えていますか?

その時々で、最適だと思うアプローチをしていきたいと思っています。プロジェクトなのか、単発での活動なのか、いろいろと積み重ねて、必要に応じて仲間を増やしながらやっていきたいと思います。
SFC-IFC自体はコミュニティであり、会社ではないので、ラフにいろいろな方に応募していただきたいです。現在、高校1年生から85歳の方までが参加していて、年齢的にも多様性があるコミュニティです。社会にインパクトを与えることを目的としつつも、SFC-IFC自体が一つの居場所、心の拠り所になっているメンバーも多いです。だからこそ、理念や雰囲気・文化に共感してくださる方は一人でも多く入ってきていただきたいですし、それぞれの力のシナジーで、想像もできなかったことが生まれるような仕組みと継続する体制をつくっていくことが、僕の役割だと思っています。

寺澤さんは「障害」をどのように捉えていますか?

障害は障害なんですよね。特に自分のなかで定義づけをしていないのですが、今、社会のなかでいろいろな形で凝り固まっているものだと思っています。
だからこそ、個人的な視点でいうと、そのまま凝り固まったものにしておかず、「動かさなければならないもの」と感じています。

最後に、寺澤さんが描く「真のインクルーシブな社会」とは、どのようなものでしょうか?

「誰もが安心して自分の人生を全うすることができる社会」という目標を掲げていますが、そんなに難しく考えなくていいと思っています。要は「隣にいる人とただ笑い合えればいい」それだけのことです。
もちろん、現実にはさまざまな問題がありますが、僕が本質的に大切にしているのは、ただ目の前の人、隣の人と笑い合える、それだけですね。
インタビューを終えて
寺澤さんの描く世界観や実行力がとても興味深く、ワクワクしながら取材をしました。「障害という概念を、そのまま社会に真正面から思いっきりぶつけてしまおうと思う」という言葉には、強さとともに、人や社会は変わることができると信じる気持ちがそこにあるように感じました。
実際にSFC-IFCの活動は社会の一つのムーブメントになっています。社会のなかにある「あたりまえ」はこれまでの歴史がつくりあげてきたもの。それを、今後も「あたりまえ」としていくのか、新しい「あたりまえ」をつくっていくのか、それは今の時代を生きる私たちにかかっています。自分は何を選択し、どのような行動を取るのか、寺澤さんの活動はそのきっかけをくれるように思います。取材では伺えていない多くの活動があります。詳しく知りたい方は、ぜひSFC-IFCの公式サイトやInstagramへ。動き続ける先に、新しいかたちが生まれてくる。Ana Letterの活動と通ずるところもあり、パワーをいただきました。