インタビュー

一人ひとりの「困りごと」に寄り添い、ともに歩む、藤沢市発達相談支援センター「にじのわ」の想い

誰もが安心して自分らしく生きられる社会を目指し、この春、藤沢市に新たな相談機関である、藤沢市発達相談支援センター「にじのわ」(湘南台駅西口徒歩10分)が誕生しました

これまで相談先が見つからなかった方々、そして地域で支え合うためのヒントを求めている方々へ。地域全体で「発達の凸凹」を理解し、支援の輪を広げる「にじのわ」の取り組みとその根底にある想いを、にじのわ職員の米澤巧美さん、佐藤直子さん、鈴木美由紀さんに伺いました

「にじのわ」は藤沢市の新たなつながりの場

今回、藤沢市で2カ所目となる発達相談の専門相談窓口「にじのわ」が開所されたと伺いました。まず、その背景や目的について教えていただけますか?

佐藤直子さん
佐藤直子さん

「にじのわ」では、藤沢市にお住まいの15歳以上の発達に心配のある方、発達障がいのある方、ご家族、関係者の方々の困りごとについての相談をお受けしています。また、発達障がいに関する研修や地域での支援が受けられるように、地域の支援体制づくりなどにも取り組んでいきます。

まさに地域のニーズに応える形ですね。「グレーゾーン」のお子さんたちの相談もあると思いますが、相談方法も教えてください。

佐藤直子さん
佐藤直子さん

まず、電話やメールでご連絡をいただき、その後、一度来所していただいて、そこから支援を進めていくという流れになります。メールでのご相談を希望されるの方もいるのですが、お会いすることでわかることも多くあるので、やはり一度はお会いするようにしていますね。

支援の羅針盤「アセスメント」:「にじのわ」の4つの柱

4つの柱について伺います。まずは「アセスメント」を教えてください。

米澤巧美さん
米澤巧美さん

アセスメントはさまざまな軸がありますが、一言で言うと「その人の実態を把握すること」です。そのためには、インフォーマルなアセスメントとともにフォーマルな客観的な指標をいくつか用いなければなりません。

「にじのわ」ではアセスメントキットをさまざま用意しており、お子さんから成人、重度から軽度、知的障がいの有無など、その方に合わせた指標を用いれるよう、多くのものを揃えています。

アセスメントによって、その人自身の「特徴」を知ることができるのですね。

米澤巧美さん
米澤巧美さん

指標を使うことで、発達の特性、得意なこと、苦手なことなどが数値化されたり、グラフ化されたりします。支援する人も関わる人も、ご本人もご家族であっても、自分のことを客観的に見るのは難しいものです。

そういったときに、一定の物差しで測ってみる。見えないものを共通の物差しで同じ場面を見て測ってみる。これがアセスメントだと思います。

アセスメントから始まった個別の支援は、どのような流れで進んでいくのでしょうか?

米澤巧美さん
米澤巧美さん

今足りていない支援は何か、支援のアイデアもアセスメントは導いてくれます。ご本人がうまく言語化できていない支援のニーズを捉えて、支援計画の立案や修正をおこなっていきます。

次に「コーディネート」という役割について教えてください。

米澤巧美さん
米澤巧美さん

コーディネートは、「取り扱い説明」である支援計画を、誰がどういう役割分担で取り組むのか、誰が何を用意して、誰がどう本人を支援していくのか、といった段取りを決めていくことです。各事業所がおこなう場合もありますし、私たちがその段取り決めをお手伝いすることもあります。

ご本人の支援方法を、ご本人に関わる支援者同士で共有していく。支援の内容が足りない場合は「こういった支援ができたら良いよね」と考えて、整えていきます。ご本人を中心に支援計画を立て、手順を記録し、振り返っていく…そのすべてをコーディネートと呼びます。いわば「仲間づくり」ですね。

ご本人を中心に支援を組み立てていくのですね。

米澤巧美さん
米澤巧美さん

それが「本人中心主義=パーソン・センタード・アプローチ(PCD)」という考え方です。支援を組み立てる際、ご家族や福祉事業所の都合に寄ることなく、ご本人を中心にすることが大切です。

私たちはアセスメントをもとに支援を組み立てることで、ご本人を中心とするに支援の輪をつくっています。

「コンサルテーション」は、どのようなものでしょうか?

米澤巧美さん
米澤巧美さん

コンサルテーションは、事業所等で対応が困難なケースなどについて、事業所の職員の方々に対して、必要なアドバイスなどをおこなっていきます。

アセスメントの補助やご本人のニーズ、支援が効果的におこなわれているかを分析し、支援のPDCAサイクルを一緒に見ていきます。

最後の柱、「研修・情報発信」は、発達障害に関する知識の普及啓発ということでしょうか?

米澤巧美さん
米澤巧美さん

研修は三層構造と捉えていて、知識の普及啓発は「第一層」です。しかし、知識だけで世界は変わりません。啓発啓蒙はもちろん大事ですが、これには落とし穴があり、技術が増えないのです。

支援を受ける方が求めているのは、正しい理解と確かな支援技術なので、評論家が増えても仕方ありません。「第二層」として、コンサルテーションやコーチングといった技術の普及が大事になってきます。そして「第三層」は、危機的なケースへの介入です。

三層構造を捉え、対象となる事業所や利用者が求めていることを、私たちにできる形で、研修や情報発信していくことが重要だと思っています。

「発達の凸凹」は、誰もが持っている

「発達の凸凹と向き合う」というのは、ご本人もご家族も心労のあることだと思います。にじのわ職員の皆さんは「発達の凸凹」をどのように捉えられていますか?

佐藤直子さん
佐藤直子さん

来所された方には「アセスメントで、その方の強みや弱み、得意なこと、不得意なことが分かってくるので、どのように暮らしていくのが良いかが見えてきます」とお伝えしています。そして、それは周りにいるご家族や関係者の方も知っておいたほうが良いと話しています。

あわせて「決して凸凹の部分が悪いことでもないし、それをマイナスに捉えることはないですよ」とお伝えしています。凸凹と聞くと、発達障がいの特性という印象が強くなってしまいますが、定型発達の人でも凸凹はあるので、それと同じように考えていいと伝えるようにしています。

「凸凹はみんなあって当たり前」という感覚も広めていきたいと思っています。

鈴木美由紀さん
鈴木美由紀さん

私は、凸凹を知ることで自分の強みを知ることができると思っています。

不安ばかりではなく、得意なことや優れていることを知るきっかけになるのかなと感じます。普段の生活では、なかなか自分の強みに気づけない人も多いと思いますが、「にじのわ」を利用することで「自分の強みってこれだったんだ」と気づける場所になればいいなと思っています。

最後に、地域の方々に伝えたいことはありますか?

米澤巧美さん
米澤巧美さん

発達障がいや自閉症、知的障がいが、ご本人やご家族だけの問題と思っているとしたら、そうではないことを地域の方々に伝えたいです。生きづらさや生きにくさは「理解」と深い関わりがあります。ご本人とご家族の理解だけでなく、周囲の方々の理解や地域の環境そのものが、その人の特性を障がいにするのか、障がいではなく強みに変えるのかという点と関わっています。

発達障がいの方々のことを「障がい」にするもしないもこちら次第なのだということを知ってもらいたいです。ズケズケと言ってしまう人は何かそう言わなきゃいけない理由があるのかもしれない…改札でピョンピョン飛び跳ねている人は何か困っているのかもしれない…自分とは異なる人間と捉えるのではなく、自分ごとにすることから啓発していきたいです。

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インタビューを終えて

藤沢市に新たに発達支援センター「にじのわ」が開設しました。「相談をする」という一歩は勇気のいるものですが、その頑張りが「生きやすさ」へとつながっていきます。自分を知り、生きやすさのヒントを考えていくためには、専門的な仲間と出会っていくことも大切です。支援する側、される側ではなく、自分の人生を自分で豊かにするために、頼もしい仲間として、「にじのわ」の職員の方々と出会っていただきたいなと感じました

取材では、障がいを「障がい」としてしまうかどうかは、周りの人や環境次第であるという言葉が印象的でした。「にじのわ」開設を機に、地域全体で「みんなにとって生きやすい社会をつくる」という発想が広がっていったら良いなと感じています。「みんなにとって生きやすい」を考えるときの「みんな」とは、単に多数決ではなく、個々の「生きづらさ」を知ることから始まります。

9月には今回インタビューを受けてくださった米澤巧美さんが講師を務める【発達障がい啓発講座「学齢児の発達障がいを考える〜周囲の理解と支援の手立てについて〜」】という講座が藤沢市役所で開催されます。皆さんが発達障がいを知るきっかけになったら嬉しいです。

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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