インタビュー

発達の「気になること」を気軽に理学療法士に相談できる大切さ(つきのわ代表 宮﨑さやかさん)

子どもの発達は個人差があるとわかっていても、「うつ伏せが苦手」「向きぐせがある」など、発達に関する悩みは日々のなかで生まれてきます。発達の「気になること」を相談したくても専門家に気軽に聞くことは難しく、SNSを見ては不安になる…そのような毎日を笑顔に変えてくれるのが「つきのわ」です

子育て支援空間つきのわは、藤沢市をはじめ、湘南エリアを中心に子どもの発達を、気軽に子ども専門の理学療法士に相談できる空間をつくっています。「不安を抱きながらお子さんと過ごすのではなく、楽しく遊びながら過ごしてもらいたい」そう語る、つきのわ代表(子どもの理学療法士)の宮﨑さやかさんに活動への想いを伺いました

宮崎さんは、どのような活動をしているのでしょうか?

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

おもな活動は「出張相談」と「親子クラス」です。

出張相談では、ご自宅に出張して、マンツーマンでじっくりとお子さんの発達やご自宅でできる遊びなどを提案しています。訪問することで、家のなかの環境を見ることができるので、そのなかで「今できていること」「これからできると良さそうなこと」をお伝えしています。

親子クラスは、マンツーマンではなくグループでの集まりです。同じメンバーで定期的に集まり、みんなで楽しく発達を追いながら、月齢や発達に合わせた遊びをおこなっています。

つきのわでは、「理学療法士に気軽に相談ができる」という点を大切にされているようですが、その理由を教えてください。

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

お子さんの成長や発達で悩んでいる親御さんはたくさんいるのですが、実際に理学療法士などの専門家に相談ができている人は、ほんのわずかです。多くの親御さんは「気になること」があっても、我が子に合ったしっくりとくる答えに出会えず、毎日モヤモヤしながら子育てを続けている方が多いです。

お子さんの発達の「気になること」をタイムリーに、特別な施設に行かなくても、気軽に専門職へ相談できる、そして、解決できる…それを実現したく、この活動を始めました。 

確かに「これは個人差なのかな?遅れなのかな?何かしたほうがいいのかな?」と不安になり、ネットで調べることが多いです。

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

そうですよね。ネットの情報は多くて拾い切ることもできなければ、お子さん一人ひとりの状態は違うので、それが自分の子に合っているのかどうかを判断するのもとても難しいです。

また、赤ちゃんと過ごす時間はあっという間に過ぎていきます。せっかくの可愛い時期をモヤモヤと不安な気持ちで過ごすことも、わからないことをわからないままにすることも、どちらももったいないなと思ってしまいます。がんばって医療機関とつながっても、0歳の時期は「様子を見ましょう」と言われてしまうことも多いのです。

「様子を見ましょう」も、何をしたらいいのか不安になる言葉ですね。

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

0歳では判断がつかず、様子を見るというのも間違えではないのですが、私はこの「様子を見ましょう」といわれる時期がとても大事だと思っています。

発達支援の世界では、1歳半健診で発達の遅れを指摘されて、専門機関とつながる方が多いです。私も療育センターや訪問看護ステーションで子どもの発達支援やリハビリを携わってきましたが、親御さんから「もっと早くつながりたかった」「0歳の頃から『様子を見ましょう』と言われて、ずっと不安だった」などという声をもらいました。

「様子を見ましょう」と言われている間も、お子さんたちは成長しているし、お母さんたちは悩んでいます。その期間に「遊び」を通してできることはたくさんあるので、その子なりの成長に合わせた、その子のためのアプローチを大切にしています。

「つきのわ」は今年で4年目ということですが、活動の幅は広がっていますか?

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

出張相談や親子クラス以外に、藤沢駅近くにある小児科「かるがも藤沢クリニック」で発達支援の個別相談やベビークラスの講師を担当させていただいています。

また、発達の相談を気軽にできない…と悩んでいるお母さんたちはさまざまな地域にいるので、「仲間づくり」として、育児支援者向けの発達セミナーをオンラインで実施しています。子どもの運動発達のことがわかる支援者を増やすことが、その先にいるお母さんや赤ちゃんの笑顔につながると思い、がんばっています。

近隣の逗子市や茅ヶ崎市の子育て支援センターからは、ご依頼を受けて、子育て支援センターのなかで保護者の方からお子さんの発達に関する相談を受けています。「ちょっと気になる」という些細な相談を気軽にしてもらえたらと思うので、藤沢市でも同じようにできたらいいなと思っています。

宮﨑さんが大切にしていることは何でしょうか?

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

How to を教えるのではなく、お母さん自身が情報に縛られず、自信を持って育児をできるようにすることを大切にしています。「こういうときはこうしましょう」ではなく、「こういう状態になったときに、どういうことが考えられるかな」とお話をしていき、お母さんたちのなかで選択肢がいくつか出てきて、これやってみよう、あれをやってみようと工夫できるようになっていったらいいなと思っています。

また、さまざまな相談がありますが、そのなかでも「この子はそのままにしておくと発達がゆっくりになってしまいそうだな」「ちょっと凸凹してしまいそうだな」という子たちを早めに見つけ、必要な場合にはきちんと専門機関につなげることも意識してやっています。

どのようなお子さんやご家族の方と出会うことが多いですか?

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

一番多いのは、情報に溺れてしまっているお母さんです。「これをやっていると発達障がいになる」と言い切るような情報ばかりをSNSで見てしまい、「このままでは自分の子はどうなのか」と不安になって、相談に来てくださることが多いです。

ほかには、「今の自分の子に合う遊びを知りたい」と来てくださる方や、すでに療育センターなどで発達訓練を受けている方が自宅でできることをもっと知りたいなど、セカンドオピニオン的に利用してくれることもあります。

活動を通して感じること、やってきてよかったなと思うこと何ですか?

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

一番、良かったなと思うのは、「相談して良かったです」と言ってもらえることです。

緊張や不安に溢れていた表情が柔らかくなり、ほっとされている姿を見れたとき、この仕事をやっていて本当によかったなとやりがいを感じます。

訪問ならではの良さは何でしょうか?

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

いっぱいありますが、一番はご自宅の環境を知れることです。自宅のなかでできることはたくさんあるので、「これ使えるよ、あれ使えるよ」と提案ができる良さがあると思います。無駄に買い足さず、ご自宅にあるもので調節することを大切にしています。

また、ご自宅は、お母さんとお子さんが一番安心できる場所なので、外よりご本人のできることを発揮してくれやすいなと感じています。その子の本当の姿が見られるし、お母さんの本当の姿も見ることができます。外でお話しするよりも、いい意味で距離をぐっと近くしてお話ができるのが出張相談の良さだと思っています。

今日、我が家も宮﨑さんに来てもらいましたが、宮﨑さんが帰ったあと、私だけになってもケアが継続できるように「ひとりでできるかどうか」を練習させてもらえるのもありがたいなと思いました。

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

そこはとても大切にしていることです。「理学療法士が来たからできたけど、帰ってしまったらできなくなった」というのは、一番提示してはいけない内容です。

リハビリもそうですが、必ずハンズオフするのが大切です。セラピストがこうやって介助したら、この子はこの遊びができるけど、その手がなくなったら遊べませんというのは全くリハビリになっていないので、最終的にハンドオフするというのは意識しています。

宮﨑さんにとって「障がい」とは何でしょうか?

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

「障がい」と聞いてしまうと、すごく壁を感じたり、「何かしてあげないといけない」と感じたりする人が多いと思うのですが、そう思わずに「その人によって捉え方が違うんだな」と感じてもらえるといいなと思っています。

発達障がいの子たちでいえば、感覚の感じ方はお子さんによって違います。私たち大人も感じ方は人それぞれ違いますよね。感覚の感じ方や見え方、聞こえ方…その人なりの感じ方があって当然です。

「発達障がいだから」と特徴のように捉えるのではなく、「その子なりの感じ方があるんだな」と周りの人が知ってくれれば、「障がい」というハードルがすごく下がるのではないかなと感じています。

「障がい」を知るではなく、「その人」を知ることが大切ですよね。

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

そうだと思います。「障がい」と聞くと、やはりインパクトが強くなってしまうのか、その人を捉える前に「障がい」という言葉だけが先についてしまうイメージがあります。

その子の見えている世界を知っていくと、「そうだよね、こういう音は苦手だよね」とか「一気に情報が入ってきたら落ち着かなくなるよね」とか「私も似たようなことあるな」と気づけるようになっていきます。ただ、その度合いも人それぞれで、私たちが思う「苦手」のレベル感が違い、「とてつもなく苦手で耐えられない」ということもあります。

それを知ることで、その人にとって落ち着ける環境、安心して過ごせる環境は何だろうと考えることもできるし、「障がい」に対して構えたり、「障がい」という言葉が一人歩きしなくなるのかなと考えています。

相手を「障がい」と捉えてしまうと、関わりがそこで終わってしまう感じがありますよね。日頃の活動で、何か気がつくことはありますか?

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

障がいという話からは逸れるのですが、お子さんの立場になれない、そこへの理解に至らない大人が最近多いのかなとも感じます。これはネットやSNSの影響もあると思います。

ネットで「How to」を調べて、「こうなったら、こうすればいい」と思っている方が多く、お子さんがなぜ泣いているのかを想像できないのかなとも感じます。

「How to」は便利だけど、考えたり、想像したりするのが、消えてしまっている感じでしょうか。

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

便利グッズが増えてきたという背景もあるように思います。「バウンサーに乗せれば泣きやむ」「これに入れたら寝る」など、いろいろな育児の便利グッズが増えました。

それでピタッと泣きやむ子も もちろんいますが、障がいの話と同様に、100人の赤ちゃんがいたら100通りの感じ方や反応があります。なので、どんな育児の仕方も「絶対」という方法があるわけではないのが当然です。

なぜ泣くのかな、どんなふうに今赤ちゃんは感じているのかなと相手の立場を想像して考えることが大切で、そういったことを意識できれば、「泣くから、これをやろう」ではなく「まずは相手の気持ちを知ろう」という発想になってくるように思います。

最後に、今後の目標は何でしょうか?

宮﨑さやかさん
宮﨑さやかさん

藤沢市に限らず、ほかの地域でも、気軽に身近な場所で発達相談ができる人や場所が増えていくのが目標です。

子育て支援センターや小児科など、お母さんと赤ちゃんが集まるところで、「この日にここ行けば、少しモヤッとしていることを相談できる」という空間をもっとつくっていきたいです。また、その環境を広げていくためには「私がやる」ではなく、「仲間づくり」も引き続き、大切にしていきたいなと思っています。

インタビューを終えて

取材と合わせて、私も我が子の発達を見てもらいました。当時6ヶ月を迎えた娘は、寝顔りをうたず、背ばいといって仰向けの姿勢のまま、足の力で進んでいってしまう状態でした。ネットで検索すると「背ばい、やばい」という記事が多く、「子どもの発達は人それぞれ」と思いつつも、「背ばいを止めた方がいいのか」「移動できるようになったねと応援したほうがいいのか」、選択できる関わりが正反対であったため、何がより良いのかが分からなくなっていました

娘に対して宮﨑さんは「意欲的だね、このお家は上に楽しそうなものがあるから見たくなっちゃうよね」と話し始めました。成長発達は宮﨑さんの話すように「How to」ではなく、本人のもつ性格や家のなかの環境、関わりなど、さまざまな影響を受けながら、娘なりの「楽しい」を日々つなげて、できることを増やしているのだと実感しました。つきのわの活動は理学療法士としての専門性と宮﨑さん自身の人間力が、多くの方の視野や発想を柔らかく広げているのだろうと、感謝とともに感じました。

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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