インタビュー

障がいを障がいとしない社交ダンスの世界観(ウチダ⭐︎ダンススタジオ湘南 内田智之さん・みどりさん)

藤沢駅から徒歩1分のところにあるウチダ⭐︎ダンススタジオ湘南では、先月3月30日に「視覚障がいのある方のための無料社交ダンス講習会」が開催されました。視覚に障がいがあることは、社交ダンスを楽しむうえで、どのような障がいになるのでしょうか?

社交ダンスの根底にある「気遣い」は、障がいを障がいとしない自然な関わりです。「つい、障がいがあることを忘れてしまいますね」と柔らかな笑顔で語る、ウチダ⭐︎ダンススタジオ湘南の内田智之さん、みどりさんにお話を伺いました

「視覚障がいのある方のための社交ダンス講習会」の開催に至った想いを教えてください。

内田みどりさん
内田みどりさん

グループレッスンは初めての企画でしたが、うちのダンススタジオでは、日常的に視覚障がいのある方とのレッスンをやっています。

夫は全盲の方のレッスンを長く担当し、私が担当していた生徒さんにも「目が見えていた頃にダンス経験があり、見えなくなってもまたダンスをしたい」と入会された方がいます。

公民館のサークル活動として「ブラインドダンス」をやっていた視覚障がいのある方もいたのですが、コロナ禍で公民館での活動ができなくなり、それを機に辞めてしまった方が多いと聞きました。「踊れる機会がない」というお話を聞いたので、「踊れる場所を提供したい」と、今回の講習会を企画しました。

全盲の方と社交ダンスをするには、どのような難しさがあるのでしょうか?

内田智之さん
内田智之さん

​全盲だからといって、特別、何か難しいことがあるわけではありません。

難しさがあるとすれば、「ちょっとステップ見てください、真似してください」という説明はできないという点です。ダンスの動きを言語化するという部分を丁寧に工夫しています。

みどりさんは、レッスンのなかでどう感じていますか?

内田みどりさん
内田みどりさん

​目の見えない方は、見えている方とは違う才能を持っているように感じています。とても勘がいい方が多いので、こちらも教えていたり、ダンスを見ていたりすると、「視覚に障がいがある」ということを忘れてしまうのです。

「社交ダンスには、もしかして目は必要ないのかも」と思うほど、目が見えていなくても踊ることができますし、 むしろ、見えていないことで上達されているようにも感じます。どなたも、とても上手に踊られています。

視覚障がいがあるのを忘れてしまうというのは、とても素敵ですね。

内田智之さん
内田智之さん

毎年、鎌倉プリンスホテルで受講生と先生が踊る発表会があるのですが、そこでも「(どの方が視覚障がいがあるのか)全然、わからなかった」と見ている方はいいますね。

フロアで踊っていると、白杖などをつくこともないので、視覚障がいがあるかないかという差もそこにはないですね。

​社交ダンスの魅力を教えてください。

内田みどりさん
内田みどりさん

​社交ダンスには音楽があって、その音楽を男性が聞いて、男性のリードを受けながら女性は踊ります。ひとりで踊るのとは違う難しさもあり、相手への気遣いも必要ですが、自分ひとりで踊るダンスよりも楽しめるのではないかなと思います。

初めて踊ると「一緒に踊るのは難しくて苦手」と思ってしまう方もいるのですが、だんだんと音楽を聴きながら、踊れるようになっていきます。「音楽とリードを受けながら踊る」という、ひとりでは味わえない体験を多くの人に知ってもらいたいです。

男性からみた、社交ダンスの魅力はいかがですか?

内田智之さん
内田智之さん

社交ダンスは種目が多いのも魅力だと思います。たとえば、発表会の衣装で説明すると、スタンダード種目はワルツやタンゴなどで、ふわっとしたドレスを着て踊ります。ラテン種目はルンバやチャチャチャ、サンバなどで、水着のような衣装を着て踊ります。

種目のジャンルがさまざまあるので飽きにくいのも社交ダンスの良さだと思います。あとは、気持ちよく踊るための「気遣い」も魅力だと思います。

「気遣い」というのは、一緒に踊っている相手への気遣いでしょうか?

内田智之さん
内田智之さん

ペアの相手に対する気遣いも、もちろんあります。自分が踊れるからといって、相手に大きい動きや踊りを要求してはいけないですね。 相手の方が初心者であれば、できる方ができない方に合わせるというのが当然です。

あと、社交ダンスは一つのフロアで何組も同時に踊ります。そうすると、他のペアとぶつからないように気遣います。仮にぶつかってしまっても、「ごめんなさい、大丈夫ですか」とお互いに言いあい、また気持ちよく踊るというのがマナーになっています。そういった「気遣いをしながら楽しむ」というのが社交ダンスの魅力ですね。

​私も先ほど、一緒に踊りましたが、赤ちゃんがいても一緒に楽しめるとは思いませんでした!

内田智之さん
内田智之さん

僕もやったことはありませんでしたが、「これ、いいかもしれない」と思っちゃいました。

内田みどりさん
内田みどりさん

​子育て中のお母さんから「赤ちゃんができて、全然外に行けなくなってしまった」とか「泣いちゃうのが気になって、カラオケボックスでみんなでお茶をしています」という話を聞きます。

それと同じように、社交ダンススクールも一つの安心して行ける場になれたらと思います。音楽と一緒に、赤ちゃんも揺れて楽しんでもらいたいです。

社交ダンスの世界観だとレッスンを受けている皆さんも穏やかに受け入れてくれるのだろうなぁと、安心感がありますね。今後も、今回のような無料講習会を開催する予定ですか?

内田みどりさん
内田みどりさん

​そのつもりでいます。無料講習会で体験してもらい、社交ダンスが皆さんにとって身近で、気軽に参加できるものになったら嬉しいです。

内田智之さん
内田智之さん

先ほど、新たに生まれた「親子で社交ダンス」もいいなと感じています。

​また、無料講習会以外にも、ブラインドダンスは5回の個別レッスンコースをつくる予定です(参照:公式サイト)。最初からグループレッスンは不安だと思うので、お客様と時間を合わせて丁寧にレッスンし、音楽を聴きながら踊る楽しさを実感してもらいたいと思っています。

​「障がい」について、どのようなイメージを持っていますか?

内田智之さん
内田智之さん

​誤解を恐れずに言うと、「何も変わらない」と思っています。もちろん、サポートが必要な場面はあると思いますが、それを含めて自然なことだと感じています。

たとえば、全盲のお客様に「じゃあ、踊りましょうか」とエスコートしようと手を差し出してしまうことがあります。そのとき、手を取っていただけないことで、「あ、そうだった!」と、改めて全盲であることを思い出す、そんな感覚です。

「障がい」ということを忘れてしまうくらい、良い意味で「普通」なのだと感じます。

​ 「障がいがあるから助けなくては」という関わりではなくて、いい意味で対等なのですね。

内田智之さん
内田智之さん

​むしろ、助けられています。こちらがステップを少し間違えてしまったりすると、「違います」とか言われて(笑)、「あ、すみません」とよく言っています。

そういった関係性は大事ですね。 ほかの障がいがある方もこちらのスクールには通われているのでしょうか?

内田みどりさん
内田みどりさん

耳の聞こえない方も来てくれていますが、その方も普通ですね。音楽は聞こえないのですが、振動で音を取っています。ビートの強い音をかけると音が響いてくると教えてもらい、「そうなんだぁ」と驚きました。

その方もステップを覚えるのも早く、音が聞こえてないのに、音が取れる…すごく不思議な感覚を教えてもらっています。

内田智之さん
内田智之さん

​ほかにも、パーキンソン病の予防やリハビリで、ダンスをやりたいと来られている方もいます。社交ダンスをやると、調子が良いみたいですね。

最後に、社交ダンスをやろうか迷っている方に、ひとことお願いします。

内田みどりさん
内田みどりさん

もし不安に思う方がいたら、「目が見えないから、○○ができないからと諦めないで、挑戦してもらいたいな」と思っています。

ずっと続けなくても、一回でもいいから「社交ダンスは、こういうのなのだな」と知ってもらえたら嬉しいです。

内田智之さん
内田智之さん

社交ダンスは音楽も魅力の一つです。映画音楽などで、「この曲で踊りたい」と言われることもあります。そういう曲があれば、それに合わせて振り付けをして、発表会に出ることもできます。

「​あの曲で踊れるんだ〜!」という感動もあるので、気軽にいらしてみてください。

インタビューを終えて

障がいを障がいとしない関わりとは、いわゆる障がいの社会モデルであり、合理的配慮です。どのようにしたら、地域のなかで「自然な関わり」として浸透するのだろうと考える日々でしたが、ウチダ⭐︎ダンススタジオ湘南では、それが当たり前のこととして根づいていました。

社交ダンスの世界では、できることに違いがあるのなら、お互いの「ちょうど良い」に合わせること、また、「誰が悪い、どちらが正しい」ではなく、どちらも「ごめんなさい、大丈夫ですか」と関わること、それらが自然と気持ちよくおこなわれているのが素敵だなと思いました

「合わせてあげた」「譲ってあげた」という発想ではない、もっと軽やかで柔らかい気遣いが、さまざまな場面にありました。社交ダンスの根底にある「気遣い」は誰に対してもおこなわれるものであり、それが、障がいを障がいとしない空間をつくっているように思います。優雅で品のある関わりは、まさに合理的配慮でした。素敵に生きる姿をして社会のなかで広がっていったらいいなと感じました

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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