付き添い入院の課題と柔軟でグラデーションのある支援(順天堂大学准教授 入江亘さん)

子どもが入院をすると、保護者の付き添いが必要になることがあります。付き添うことが子どものケアにつながる反面、保護者の精神的負担、環境的負担が大きいという現状があります。付き添い入院の課題は、医療者が頑張ること、ご家族が頑張ることなのでしょうか。
付き添い入院の課題について、小児看護の経験や研究者としての視点から「人も社会も、もっと柔軟さが必要だろう」と語る、順天堂大学医療看護学部准教授の入江亘さんにお話を伺いました。

小児看護の経験から大学の先生になろうと思った、入江さんの背景を教えてください。

大学進学の際、「人の健康をより良くするには、何が必要なのだろう」と関心を抱き、看護の道を選びました。そのなかで臨床での実践とともに、良い環境や良いケアをつくっていくためには研究も大事だと感じていました。
病院に就職してからも、何か物事を解決する手段として、研究をもっと活用したいと感じるようになりました。私は小児看護の領域で働いていましたが、たとえば、「薬が飲めない」「処置をすごく嫌がってしまう」などの状況を改善するとき、現場で試行錯誤してやってみたものの、主観的な評価をしていることも多く、もっと俯瞰して、多くの方に説明するためには研究が必要だと思いました。
その後、大学院に進み、腰を据えて研究していきたいと思い、大学の教員になりました。

入江さんの専門は、小児看護になるのでしょうか?

小児看護です。その中でも、臨床の小児看護といって、病院などで医療を必要とする子どもの看護が専門になります。
子どもの緩和ケアやがん看護の領域に関する研究に取り組んでいます。

入江さんが2023年4月に開設したサイト「Family-PON(ふぁみぽん)」についても、教えてください。

Family-PONでは、ご家族の療養中の一日の過ごし方、ご家族の生活上の工夫や困りごとの体験談、専門職からの情報提供を載せています。
子どもが入院すると、ご家族もたくさんの影響を受けます。たとえば、付き添い入院中に、きょうだいの運動会があったとしても、多くのご家族は「看護師さんは医療のことを相談をする人」と思っており、家のことを相談するのをためらう方もいます。看護師は医療だけでなく、その人の生活やその人の全体を見る職業なので、そのことを伝えたい気持ちもあり、立ち上げました。
また、お子さんが入院しているご家族は、何か腑に落ちないことがあると、自分の理解を深めるためにネットを使うことも多いです。この「ネットを使う」というのが善し悪しで、ご家族の不安が大きくなってしまうことがあります。ネットの世界でも、ぬくもりがあり、安心しながら知りたいことを探せる場所があったらいいなと思っています。

「小児がんの子どもを持つご家族への生活支援サイト」となっていますが、対象は小児がんになるのでしょうか?

小児がんでの入院をもとに作成していますが、いろいろな経路からアクセスがあります。小児がんに限らず、ご家族がお子さんのステロイド薬の内服で副作用を調べていてこのサイトを見つけてくださったり、「子どもが入院する、仕事をどうしよう…」と困っているときに、サイトへアクセスされているようです。
さまざまな経路から「Family-PON」にアクセスしてもらい、「生活を支援する」という情報につながってくれたらいいなと思っています。

必要な方に、このサイトが届くといいですね。

子どもが入院すると、ご家族はすぐに家庭内のさまざまな調整をすることになり、大変になっていきます。
理想としては、病院で医療者が説明をするときに「お家の調整で、参考になるかもしれないサイトがあるよ」と少し添える資料として活用していただけたらと思っています。
「こういうのを知りたい」と思っている方に届くといいなと考えています。

今回のテーマでもある「付き添い入院」の話を伺っていきます。そもそも、子どもが入院するという場面は、どのようにやってくるのでしょうか?

入院するときの状況はさまざまですが、子どもの場合、手術や検査の予定入院もありますが、緊急入院になるケースが多く、「もう付き添い入院しかない」と、急に付き添い入院が始まってしまうことがあります。
なので、ご家族は急に生活の調整が必要になる特徴があります。手術をするための入院であれば、仕事などを調整して入院日を迎えられるのですが、緊急入院だとそうもいかないので、入院期間の長さに関わらず、とても大変になるご家庭が多いです。

ご家族の付き添いが必要かどうかというのは、どのようにして決まるのでしょうか?

制度としては、付き添うかどうかは、ご家族と医療者が話し合って決めることになります。話し合い後、「付き添いたい」というご家族の申し出を受け、医師が許可をして付き添い入院ができるようになります。
つまり、制度上は、子どもが何歳であっても、「付き添わなければいけない」という状況はおきない、看護師が子どもに必要な支援を担う、という設計になっています。

小さい子の入院では必ず付き添い入院になるのかと思っていました。

制度上は今話したとおりですが、現状は多くの場面で付き添い入院がおこなわれています。
もちろん、病院の立地により、家には帰れないから病院で過ごすしかないと付き添う方もいます。また、近くにホテルがあったとしても、金銭的な面から付き添いを選択する方も多いです。
加えて、合意の仕方に課題がある場合もあります。付き添い入院が多くの場面でおこなわれていることで、医療者もご家族も「付き添うことが当たり前」と捉えているときに起りがちです。付き添い入院は子どもの心を安定させ、治療にも良い効果があるのですが、付き添い入院がご家庭の選択ではなく、「しなければならない」になってしまっている場合もあり、それが課題となっています。
また、病院によっては、「付き添わないことが当たり前」になっているところもあり、そうすると、付き添いたいのに付き添えないという課題もあります。

子どもの入院に付き添うご家族は、どのような環境で付き添うことになるのですか?

環境は病院によってさまざまですが、付き添うご家族は、ベッドや食事をはじめ、生活に必要なものが揃っていない環境で生活をすることになります。
たとえば、ご家族が病室の床で寝ていたり、子ども用のベッドに一緒に寝ていたりすることもあります。また、付き添うご家族のための食事は病院から提供されないところが多いため、買いに行かなくてはいけません。長く子どもから離れるのも大変ですし、院内の売店には、おやつ程度しか売っていない場合もあります。
また、個室ではなく大部屋での入院の場合、プライベート空間が一層守られにくい環境になります。

付き添い入院は、長い人だと、どのぐらい長いものなのでしょうか?

長い人は、年単位です。「そこで暮らす」というイメージです。
小児がんなども長期入院になることが多いのですが、1回の治療が1ヶ月から1ヶ月半ほどかかるので、その期間を入院して、それが終わると、数日、自宅に戻り、また、病院に戻ってきて治療をするという流れです。
入院期間の長さに関係なく、ご家族が置かれる環境の悪さを捉えていかないといけないと思っています。

また、環境面だけでなく、心理面にも苦しさがありますよね?

そのとおりです。子どもの病気にもよりますが、「この先、この子はどうなっていくのだろう」と、これまで描いてきた将来像が見えなくなっていく場合があります。また、目の前にある検査や処置、食事、睡眠…に追われ、冷静に考える時間がない場合もあります。
そうすると、付き添い入院の環境がつらくても、ご家族から「この環境をどうにかしてください」という話にならないことが多いです。その話をする余裕もなければ、医療者に依頼するのはとてもエネルギーを使うことなので、したくてもできないというのが実際かも知れません。
ご家族の置かれている状況への理解がもっと広まる必要があると思っています。医療現場のマンパワーの限界もあるので難しさもありますが、状況を見据えた家族支援が必要になります。

「医療者」と「家族」という立場で、言いづらさが生まれるのはわかる気がします。

医療者も子どもの最善を目指して、「ご家族とパートナーシップを結びたい」と考えているのですが、医療を提供する側・される側という立場から、無意識のうちに対等ではない関係性が生まれてしまう場合があります。
ご家族も「文句にならないように、クレームにならないように」と遠慮されるため、パートナーシップとしての関係をつくる難しさも感じています。そこにある立場だけで、すでにフラットな関係にはなりづらいので、より一層、医療者側がどのような態度で関わるかは大事だなと思っています。

付き添い入院における本質的な課題は何だと思いますか?

今のところ、二つあると思っています。
一つは、ご家族の権利擁護です。医療者は「子どもの権利を擁護する」という発想を強くもっています。ただ、子どもとともにある「家族」をどう見てるかという視点には幅があります。
「子どものケアに協力するのは親に必要なこと」と考えているのか、「ご家族の環境を整えないと子どもに良いケアはできない」と考えるかで、一つ一つの態度や振る舞いに違いが出てくると感じます。
ご家族の置かれている立場や環境をどう考えるかがとても重要で、ご家族の権利も擁護していくという発想が必要になってくると考えています。

もう一つは何でしょうか?

もう一つは、社会制度の変革です。付き添い入院の問題は、医療者とご家族だけで解決するのは難しいです。
小児医療の現場は、成人診療科と同じ看護師配置のことが多いのですが、子どものケアにはさまざまな面で、十分な準備や配慮のための人手が必要になります。現場はすでに限られた人員でできる限りのケアをおこなっているため、「もっと頑張る」では本質的な解決につながりません。もっと、子どもと家族にあたたかい環境を社会でつくっていく必要があります。
また、子どもの入院は多くの病院でおこなわれているため、地域に関係なく、付き添うご家族の生活環境の質を確保する必要もあります。社会全体の課題として捉え、家族を支える制度の構築が必要だと考えています。

医療者として、家族に対してはどのようなケアが必要だと考えますか?

普通のことだと思いますが「ご家族の生活も気にする」ことだと思います。
たとえば、付き添いをしているご家族が「少し買い物に行きたい」と言ったときに、「何時に帰ってくるんですか」と声をかけるのか、「ゆっくりしてきてね」と言うかでは、そこにある印象が変わってきます。
ルールの幅や会話の雰囲気、とても些細なことですが、その違いで大きな差が生まれてくるのだと思っています。同じルールに基づく対応だったとしても、そこにある雰囲気や言葉かけこそが「ケア」です。相手の状況や悩み、大切にしていることを捉えて、そこに対して応じようとしているかどうかが大切だと思います。
付き添い入院というと親御さんに注目が集まりますが、家で待っているきょうだいもそうですし、家族全体を捉える必要があります。そういうことを、ご家族、医療者、社会で考えていくことが大事だと思っています。また、私自身も家族支援の大切さを、ひとりの研究者としてもっと広げていきたいです。

障がい福祉の分野で起きていることも同じように感じます。そのときの表情や言い方、とても細かい部分こそが大切なのだと思います。

ルールを柔軟にすることも大切だと思っています。
生活に関わるような処置の場合、看護師がやったほうがいい場合と付き添いしているご家族にやってもらったほうがいい場合もあります。これは、一律にルール化できるものではなく、そのときの子どもの状況やご家族の状況などにより、変わってきます。
「ここからは医療者、ここからは家族」「何歳まではOK」など、ズバッと切るのではうまくいかないように感じています。ルールを決めたほうがお互いの共通理解になると思いますが、ただルールに従うのではなく、そのなかで一人ひとりに合わせた、柔軟でグラデーションのある支援を考えていくことが必要なのだと思います。

その発想はすごく大切ですね。最後に、地域のなかでできることは何だと思いますか?

付き添い入院に限ったことではないのですが、当事者である方に、必要な情報がきちんと届くことが大切だと思っています。
付き添い入院する人は、子どものいる家族全体で見ると数%いるかも知れませんが、多くの方に共通した課題というよりは、社会に気づかれにくい問題でもあります。
そのご家庭はとても困っているのに、情報も少なく、支援の手も届いていないことがあります。数の大きいケアだけでなく、数の少ないところにも目を向けて、「こうした方がいいよ」「窓口はあそこにあるよ」と情報提供していくことが社会に求められていると思います。もっともっと、子どもと家族にやさしい社会に変えていかないといけないと思っています。

本当ですね。この社会は、情報を必要としている少数の人たちが、もっとも情報が届きにくい状態になってしまっていますよね。

そうなのです。自分がその立場になったら、誰かとつながることさえも大変な作業になります。そういうノイズを極力小さくしていきたいと考えます。
稀なケースであれば、むしろ情報を蓄積できるとも思っているので、地域のなかで上手に情報提供をしていくことが大切だと思います。そこには、柔軟さもとても大事だと思っています。
行政の手続きのオンライン化など、手続き面だけでも少し柔軟になれば、助かるご家庭が多くあります。これは小児医療の領域だけはなく、多くの方にとって利益があることだと思います。昔はシステムの構築が難しかったものも、今の時代ならできることも増えていると思うので、柔軟になってほしいです。
インタビューを終えて
些細なところにこそ、大切なものが詰まっていると感じています。入江さんからお話を聞くなかで、病院内にある医療者とご家族の関係性は、学校にある教師とご家族の関係性とも似ているところがあると思いました。
人と人が関わるうえで、ルール以上に、そこにある「些細な関わり」が重要になるように思います。また、大変な思いをしている渦中の人が大変な作業をしなくてはいけないという社会構造は、そろそろおしまいにしなくてはいけません。
どの分野もそうですが、すでに頑張っている人に、もっと頑張ってもらうことで成り立っているものは、構造自体を考え直さなくてはいけない局面を迎えていると考えます。社会のなかには課題が山積みですが、「知る」「意識を向ける」という、多くの方の一歩が大切になってくると思っています。
今回は、高校時代の同級生への取材でした。同じ「看護の道」を選んだ同志として、社会に伝えていきたいというパワーをいただきました。