何もない箱から、自然とつながりが生まれる(みんなの居場所・れいんぼ〜かふぇ 鈴木理恵さん)

みんなの居場所・れいんぼ〜かふぇは、藤沢市内で4ヶ所の「居場所」を開いています。藤沢市北部では、御所見スマイルカフェ、用田ひだまりるーむ、湘南台ゆーすりびんぐ、藤沢市南部には、れいんぼ〜かふぇ江の島があります。
また、2023年4月からは藤沢市(子育て企画課)と一緒に、居場所を開きたい人向けに『子どもの居場所スタートアップサポート講座』を実施しています。「居場所は誰にとっても大切なもの、地域のなかにたくさんあって選べることが大事」と語る、みんなの居場所・れいんぼ〜かふぇ代表の鈴木理恵さんにお話を伺いました。

藤沢市内でやっている4つの居場所のそれぞれの特徴を伺います。まずは、藤沢市北部の2ヶ所を教えてください。

御所見スマイルカフェは、第2月曜日に開催しています。午前は「登校に関するおしゃべり会」として、不登校のお子さんがいる保護者や不登校に関心のある大人が集まり、午後は「子育てひろば」と「フリースペース」として、赤ちゃんから小・中学生の放課後の遊び場になっています。17時半から19時半は、そこで子ども食堂をやっています。
用田ひだまりるーむは、第1、第3木曜日の10時から16時まで、どなたでも参加できる空間をつくっています。結果的に、赤ちゃん連れの「子育てひろば」や、学校に行っていない小学生が遊びに来てくれています。

残りの2ヶ所についても、教えてください。

れいんぼ〜かふぇ江の島は、2024年2月から始まり、毎週水曜日に「子育てひろば」と「フリースペース」を開催しています。2025年の春以降、火曜日も開いていけるように準備を進めています。
同じく、2024年春から始めたのが、湘南台ゆーすりびんぐです。おもに不登校・ひきこもりなどの生きづらさを感じている若者のフリースペースとして始めました。きっかけは、御所見スマイルカフェの「登校に関するおしゃべり会」のお子さんたちがユース世代になってきて、「出かける練習ができる場所があるといいよね」という声が出てきたためです。
2025年春からは、場所を湘南台市民センターの調理室に移して、調理プログラムなどもやっていく予定です。簡単レシピなどを通して、一人暮らしの準備などの自立につながれば良いと思っています。

対象者をあまり絞らず、どなたでも来られるようにしているのですね。

よく「対象を絞ったほうがいい」と言われるのですが、すべてつながっているので、枠で区切ることができませんでした。
今は、時間ごとに、何となく対象者を区切りつつも、実際はいつ誰が来てもいいようにしています。そのスタイルがちょうどいいかなと感じています。

確かに対象を絞ると、「自分は対象外ではないか」とか「対象であると認めることがつらい」ということもありますよね。

そうですね。湘南台ゆーすりびんぐは、これまで対象を「生きづらさを抱えた若者」としていたのですが、この春から「10代、20代の若者の居場所」に変えています。
対象として示すのではなく、結果的に、そういう子たちが来てくれたらいいなぁと思っています。

居場所をつくろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

直接的なきっかけは、コロナ禍です。それまで、小・中学校でいじめ防止プログラムという授業をやっていたのですが、2020年は感染予防の観点から、授業の予定が白紙になりました。
また、当時、息子が高校2年生だったのですが、コロナの影響で、自習する場所がなかなか見つからず、地域のなかに自習室をつくろうと思ったのです。そこで、長後食堂をお借りして自習室を始めました。自習室は放課後から夜だけなので、午前中はそこでお母さん向けにアロマワークショップをしながら、子育ての話ができる場所をつくっていきました。
PTAの経験から、お母さんたちの悩みを聞く機会が多いのですが、スクールカウンセラーや地域の相談窓口を紹介すると、「そういう相談窓口はハードルが高い」と言う人が多いのです。それもあり、おや?と思ったときに話せる場所をつくりたいと考えました。女性はとくに手作業をしながら話すのが好きなので、子育て相談のできるアロマワークショップから始めました。

居場所では「相談」という感じではなく、さりげない関わりを大切にしているのでしょうか?

そうですね。気づくとママたちが輪になって、「最近、子どもが眠ってくれなくて」「ご飯を食べなくて」「反抗期で…」といった会話が自然に始まることがあります。
そこで何か解決をするとか、答えをもらうというよりも、「うちはこうしているよ」とか「こんな話聞いたよ」など、アイデアの交換をしています。あと、話すことで気持ちを発散できる場にもなっているのだと思います。

鈴木さんは、関わりのなかで、どのようなことを大事にしていますか?

役割を固定しないことも大切にしています。来ている人も、自分が相談する側になることもあれば、相談される側になることもあるような空間にしたいと思っています。
これは、子どもと大人の関係も同じで、大人が子どもに何か言うばかりではなく、大人も子どもから教わるなど、関係性が一方向にならないようにしたいと思っています。
また、アドバイスはもらいたい人もいれば、もらいたくない人もいます。そういう心理的な境界線を超えないようにすることも大切にしています。あと、おもてなしをしすぎないようにしています。

おもてなしをしすぎないとは、どういうことでしょうか?

「居場所」という箱だけ用意するようにして、来た人にあれこれ手出しをしないようにしています。
SOSを出すのが苦手そうな人には、「お願いと言ってくれたらやるよ」とか「お母さんたちも言っていいんだよ」などと伝えることはありますが、こちらから察して、たくさん動きすぎるというのはあまりしていないです。

「箱だけ用意する」というのは、工夫の一つですね。

これは参加者だけでなく、そうすることで、運営する側もハードルが下がると思っています。
箱だけあって、人が何人かいれば、自然とそこにコミュニケーションが生まれてきます。 私の場合、それを俯瞰的に見ていて、必要なときに声をかける程度にしています。

居場所を運営するうえで、用意しているものなどはありますか?

それなりに、おもちゃを用意したり、イベントなどをやったりもしていますが、たとえば、用田ひだまりるーむは座布団しかない場所ですが、それで、みんなひたすら何時間でも遊べるのです。
子どもの本来の力を活かすためには「何もない」というのもすごく大事だと考えています。おもちゃや本があることで、その子の「好き」を知れたり、共有できたりするのですが、何もなくても大丈夫です。それに、運営側も持ち物が少ない方が活動を継続しやすいので、おすすめです。

つながりや楽しさが生まれる方法は、いくらでもあるのですね。

用田ひだまりるーむやれいんぼ〜かふぇ江の島では、持ち込みランチがOKなので、お弁当を持ってきたり、近くで買ってきたりして、そこで、わいわい食べることで輪が広がっています。また、親子で来ることで、子どもの成長を分かち合うこともできます。
先ほどのおもちゃの話につながるのですが、0歳の子から中学生まで、座布団だけで十分遊べるのです。積み重ねてみたり、並べてみたり、その上を走ってみたり…みんな汗だくになりながら、楽しそうに遊んでいます。子どもは、そういう力を持っていますね。

参加されている方は、どのような印象ですか?

繰り返し、来てくれる方が多いです。その日の気分で、あちこちの居場所に参加してくれる人も多く、「4ヶ所、コンプリートしました!」という人もいます。
場所によって特徴が異なり、御所見スマイルカフェの子ども食堂は参加人数が多く、込み入った話はしにくいです。なので、ゆっくり喋りたいときは用田ひだまりるーむに来てくれるなど、使い方を工夫してくれている印象です。
Instagramなどを見て参加してくれる人もいれば、友人を誘ってきてくれる人もいます。また、子ども食堂の方は、最初、親子で来ていた子たちがだんだんと子どもだけで参加することも増えています。
一番印象的だったのは、隔週開催の用田ひだまりるーむに来てくれているお母さんが「2週間頑張れば、ここで聞いてもらえると思って、2週間頑張りました」と言ってくれたことがあり、その言葉を聞いたとき、居場所づくりをやっていてよかったなと思いました。

「ここにくる」というのが楽しみでもあり、心の支えにもなっているのですね。

普段の日常はひとりで戦っているようでつらいときもあるかもしれませんが、それは「居場所」で話せるネタになると思って、この場所に来ることを目標にしてもらえたらと思っています。
日頃の出来事を吐き出してもらってリセットすることで、少し家で優しくできたり、少し頑張れたり…、そういう場としてつかってもらえたらいいなと感じています。

どのような方に利用をしてもらいたいですか?

「どなたでも」と思っています。居場所やつながりは、みんなにとって必要なものなので、とくに、こういう方につかってもらいたいと決めていないです。
ただ活動の根元には、事件の被害者も加害者もつくらない社会の実現や自死防止への想いがあります。なので、孤独を感じている人や自分に自信がない人、自分のことをあまり好きではない人と知り合えたらいいなと思っています。

鈴木さんにとって「居場所」とはどういうものでしょうか?

「居場所」はどこでもいいのですが、それぞれ、3ヶ所くらいは行ける場所があるといいのかなと思っています。
1ヶ所だけだと、そこがうまくいかなくなったときに、この世の終わりのように感じてしまうことがあります。よく「自立とは依存先を増やすこと」と言いますが、そういうものの一つになれたらいいのかなと感じています。

「居場所」の目的は何だと思いますか?

さまざまなことの未然防止だと思っています。孤独感やそこから派生する虐待のような状況を防げているかもしれないと思いながらやっています。
また、「死にたい」という気持ちを話してくれる子もいます。親や先生には言いにくい気持ちを吐き出せる場として、孤独感から生まれるさまざまなことの未然防止につながっていると思います。
そのためには、小さな居場所が地域のなかにたくさんあることが大切だと思っています。

行ってもいい場所が地域のなかにあるというのは、生きていくうえで大事ですね。

居場所は、行っても行かなくても平気だし、予約制でもありません。
予約してしまうと体調不良でキャンセルするのも面倒だし、申し訳ないという方もいます。ワークショップなどは予約制になりますが、基本的に居場所を利用するための予約は不要で、無料で参加できるというスタイルを貫きたいなと思っています。

最後に今後の目標を教えてください。

居場所はみんなにとって必要なものです。地域のなかにたくさんあって行く場所が選べる、というのがいいなと思っています。
藤沢市内で「居場所を開きたい」という人も結構いるので、そういう人たちの背中を押したいなと思っています。また、将来的にシングルマザー向けシェアハウスをやりたいという夢があります。最終目標は…世界平和ですね!(笑)
インタビューを終えて
つながりが好きな人もそうでない人も、地域のなかに「行ける場所」があるのは大きいと感じています。鈴木さんの話す「行っても行かなくてもいい」というのは、心を楽にしてくれるのではないかと思います。
人の輪は不思議なもので、気にし始めると「行かない」ことも気になってしまうものです。だけど、気にしなくて大丈夫。居場所は人と人がゆるくつながることができ、自分のために、その時間と場所を使っていいところです。
みんなの居場所・れいんぼ〜かふぇが開く4ヶ所の居場所以外にも、藤沢市内にはさまざまな居場所があります。自分に合う「行ける場所」を何ヶ所か見つけていけるといいなと思いました。