インタビュー

女性をエンパワメントするクリニック(藤沢女性のクリニックもんま 院長 門間美佳さん)

藤沢駅北口から徒歩4分のところにある「藤沢女性のクリニックもんま」では、思春期の子たちを対象にしたユースクリニックを開催しています。また、第1土曜日の午後2時から午後5時には「誰でも気軽に立ち寄れる、ユースフレンドリーな若者のスペース!」をモットーにした、オープンユースクリニックを無料開放しています。(※次回は、6月8日(土)です)

オープンユースクリニックでは、若者たちがネイルやカラー診断を楽しみながら、日頃の何気ない話をしていました。女性をエンパワメントすることを大切に新しい取組みを展開する院長の門間美佳さんにお話を伺いました

ユースクリニックを始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

門間美佳さん
門間美佳さん

きっかけの一つは、身近な地域で起きた新生児遺棄事件です。思春期を迎えた若者が身体のことや性的なことを誰にも相談できず、困り、犯罪者となってしまうのではなく、気軽に相談できる場所をつくりたいと考えました。

そこで、2019年の「藤沢女性のクリニックもんま」開院と同時に、ワンコイン(500円)で受診できるユースクリニックも開設しました

参考にしたのは、スウェーデンのユースクリニックです。スウェーデンでは幼い頃から性教育をおこない、ユースクリニックが身近にあります。生理痛や避妊など、生活のなかの困りごとをすぐに相談できる場所で、日本にもそういう環境があったらいいなと思い、つくりました

実際にユースクリニックを開設してみていかがでしたか?

門間美佳さん
門間美佳さん

「困っている人、いらっしゃい」と開設しましたが、最初は相談に来る子は少ない状況でした

私たちにもっとできることはないかと考えた結果、困っている人を対象にするのではなく、誰でも来ることができる場所をつくろうと始まったのが、無料の「オープンユースクリニック」です

気軽に話せる空間を大切にし、そのなかで「生理痛で困っていない?」「HPVワクチン打った?」「彼氏との関係で困っていることない?」と会話が広がっていくようになりました。

オープンユースクリニックも、ネイルやカラー診断などもあり、若い子たちが順番待ちをしていますね!

門間美佳さん
門間美佳さん

ここは、診察とは異なる空間です。ネイルなどをしていると、自分の身体をケアされている気がして、心がひらきやすくなります。

来てくれているネイリストさんは爪心理士の資格も持っているので、上手に話を聞いてくれますし、爪の状態から鉄不足や生理の話にもなります。思春期の子たちが行きやすいネイルや美容などを切り口に、私たちがつながり、女性の健康をトータルで守っていくことを大切にしています

ユースクリニックでは、どのような相談が多いのでしょうか?

門間美佳さん
門間美佳さん

何気ない相談が多いです。月経痛やPMS(月経前症候群)などの相談もあれば、「彼氏と卒業旅行へ行きたいが、お母さんの反対もあるから迷っている」「彼氏がコンドームをつけてくれない」など、親に相談しにくい内容を話に来る子もいます。

他にも「ダイエットを始めたら、生理が来なくなった」「PMS(月経前症候群)のときに彼氏と喧嘩して、別れ話になりそう」など、さまざまです。

ユースクリニックから診療につながる子もいると思いますが、そのときに大切にしていることは何でしょうか?

門間美佳さん
門間美佳さん

主導権を相手に渡すことです。婦人科の診療は内診などがあり、抵抗がある子も多いです。実際、経膣エコーで診ないと分からないこともありますが、それを前提にすると、来なくなってしまう場合もあります。

婦人科に継続的に来てもらうことが重要なので、「経膣エコーのほうがわかることは多いけど、心の準備もできてないだろうし、嫌なら経腹エコーでもいいよ。ただ同じ値段でちょっと得られる情報が少ないんだよね。どうしたい?」と聞いています。

選択肢があるというのは大事ですね

門間美佳さん
門間美佳さん

そうです。これは、思春期の子だけでなく、どの年齢の方でも同じです

治療の選択肢を提示し、本人の意思で、ホルモン補充療法やピル、漢方などを選んでもらうようにしています。「自分で自分のことを決められる」というのはとても大事です

私たちは、身体を治す以上に、その人が自分で生きていけるという力をエンパワーするのが大切になります。目の前にある病気を治すことに固執しすぎて、「絶対、内診しなきゃダメ」とか「絶対ピル飲まなきゃダメ」などと、伝えないようにしています。

「障がい」について思うことはありますか?

門間美佳さん
門間美佳さん

婦人科の分野では、障がいがあることで、生理のお手入れができず、血を流したまま歩き回ってしまう例などがあります。また、うまく伝えられないだけで、気分や症状の変調がホルモンが原因となっている場合もあります

気分や症状の変調をカレンダーにつけてみて、その症状が生理前に集中している場合、ピルの内服やミレーナを子宮に入れることで、症状が落ちつく可能性があります。ホルモンによる調子の悪さは、本人の頑張りでどうにかなるものではありません。

怒ったり泣いたり暴れたりしてしまう原因を、婦人科で改善できることもあります。ぜひ、ご相談いただきたいと思っています。

ホルモンの影響は大きいのですね。

門間美佳さん
門間美佳さん

多くの女性が、不調の原因がホルモンだと気づかないまま、日々、苦しく生活しています

毎月の月経に伴うホルモンの変化もありますし、加齢に伴う変化もあります。ホルモンが原因で活動的に動けないことで、家族から「怠けている」と思われたり、「私が悪いのかな」と自分を責めてしまう人もいます。

ホルモンの影響は個人差があり、少しホルモンを補充することで良くなる人もいます。その人の状況に合わせ、調整をしています。

門間先生は、なぜ、女性をターゲットにする医療を展開しようと思ったのですか?

門間美佳さん
門間美佳さん

このクリニックを開院する前は、大きな病院の産婦人科にいました。忙しく、お産とオペに向き合う日々でした。がんや筋腫など手術が必要な患者さんも多かったので、病気を診て、病気を治すという関わりが多かったです。

その後、私自身も子育てをするようになり、病棟ではなく外来で働くようになりました。今までの忙しさと違い、専門性が発揮できていない気持ちになり、私自身も生きる力を失っていました

そして、その外来で「病気ではないけど、何だか具合が悪い」という人と出会うようになっていきました。そこで、改めて、大変な思いで日々を過ごし、生きる気力を失っている人が多くいることを知りました

そのときに、患者さんの不調の原因は、一人ひとりのなかにあるのではなく、社会のなかにあるように感じました。そこから、私は医療の立場から、女性の自尊心を高めたいと思うようになっていきました

今後、藤沢市でどのような空間をつくっていきたいですか?

門間美佳さん
門間美佳さん

若い人が集まるところでユースクリニックを開いていきたいと思っています

産婦人科の領域に関係した悩みは、なかなか相談しにくい風潮があります。それにより、誰にも相談できずに抱え込んでしまう若者が生まれてしまっています。それを防ぐためにも、若者が安心して集まれる場所を地域のなかにつくり、そこで相談できるようにしていきたいです。

最後に、クリニックの目標を教えてください。

門間美佳さん
門間美佳さん

私たちの大きな目標は、女性が自分の力で自分のことを決めていけるよう、エンパワメントすることです

「会社でうまくやっていけない」「夫に自分の想いを伝えられない」「自分らしく頑張れない」など、さまざまな理由で自尊心が下がってしまっている人がいます。私たちのクリニックでは、そのような方に、医療を通して、「自分の力で決めて生きる」サポートを続けていきたいです

医療上の大事な情報はすべて伝えて、自分で決定できることを支えていくことで、女性が元気に生きられるようにしていきたいと思っています。

インタビューを終えて

思春期の頃、婦人科の領域は、不思議なくらい「恥ずかしさ」が優先され、私自身も誰にも相談できず、話題にもできなかったのを覚えています。また、女性ホルモンで自分自身の心が乱れることも「自分のことなのにコントロールできなくて…」と、自分の責任であるような気がしてしまうものです。

医療職からもらう「あなたのせいじゃない」という言葉は、私たちの心を堪らなく軽くしてくれます

心が軽くなると、初めて、自分自身を取り戻すことができ、迷子になった自分の気持ちを見つけることができます。「自分なんて」と思っているすべての世代の女性、恥ずかしさが先走って自分のことを相談できないユース(若い世代)の皆さんが、少しでも心が軽く、自分らしくなれる場所が増えたらと願っています。

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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