仲間とともに、人と健康と環境を守る大切さを伝える(ecostore papalagi 理事 池田知與子さん)
藤沢駅南口徒歩4分のところにプラスチックフリーのお店「ecostore papalagi」があります。店内を見渡すと、添加物の入っていないお菓子や化学物質不使用の洗剤の量り売り、くりかえし使える生活用品、有機栽培の野菜など様々なジャンルの商品がずらり。
ここで働く池田知與子(ちよこ)さんはもともとお店のファンだったそう。働こうと思ったきっかけや最近の活動、エコな暮らしと福祉のつながりについて知與子さんに伺いました。
「ecostore papalagi」(以下エコパパ)はどんなお店ですか?
美しい海中世界に魅せられた武本匡弘さん(当時のエコパパ代表)たち、4人のダイバーが設立しました。
使い捨ての消費をやめ、人と地球に少しでも負荷をかけないライフスタイルを提言しています。天然成分由来の繊維でできたスポンジや何度洗っても使えるシリコンバッグ、天然素材のブラシ類など、ノンプラスチック製品は250品目ほど取り揃えています。
エコパパはストアだけではありません。海と人をつなぐため、海を通じ、自然の素晴らしさを体感してもらう活動もしています。ネイチャーセミナーや船の乗船会なども開催していて、環境活動家育成のためのフィールドワークも行っています。
エコライフ不動産という不動産事業部門もあり、できる限り、年配の方や障がいのある方もアクセスしやすい不動産を目指しています。立場や経済的事情、年齢や人種にかかわらず、安心できる住まいを見つける権利を尊重し、物件探しに時間がかかるケースの居住支援も行っています。
知與子さんがエコパパで働きはじめたきっかけは?
もともとはエコパパのお客さんでした。お店でヨットの体験乗船会のお知らせをしてもらったので、ダイビング仲間と一緒に参加したのです。
乗船会に参加したとき、環境問題に対する想いに共鳴しました。その後エコパパのウェブサイトを見たら、スタッフ募集をしていて、「こんな素敵なお店で働けたら嬉しいな」と思い、応募しました。
環境問題などには、もともと関心がありましたか?
子どもの頃から関心があったと思います。生まれ育ったのが茅ヶ崎の北側、山がある方で、自然が好きだったし、外で遊ぶのも好きでした。でも、だんだんと開発により自然が壊され、宅地になっていき、それを見ているのが悲しかったのを覚えています。
大人になってからも自然や生き物に関心を持ち続けていて、ウミガメがゴミに苦しめられていたり、ホッキョクグマが住む場所がなくなりやせ細っているところをメディアで見て、解決のために行動したいと考えるようになりました。また、『プラスチック・フリー生活』という本と出会い、生活を変えていくきっかけをもらいました。
個人でできることを無理なく実践しようと、生活用品をシフトチェンジしていく過程で、姉から「すごくいいお店があるよ!」とエコパパを紹介してもらったのです。私は過去に、アトピーや喘息が薬でコントロールできないことに疲弊していた時期もあって、環境に負荷をかけない生活は身体にも良い影響をもたらすことにも、魅力を感じていました。
エコパパの活動で「福祉の世界につながるな」と感じるところはありますか?
内装は徹底的にアレルギーフリー仕様にしています。化学物質過敏症、シックハウス症候群の方も思う存分お店で楽しんでほしいからです。店内の壁は無添加の漆喰でできています。また、新品の家具は接着剤などが揮発しきっておらず身体へ影響があるので、古家具を使うなどの工夫もしています。
エコパパのセミナーで、数回、手話を学ぶワークショップを開催したこともあります。講師の方に来てもらって、スタッフも参加して、お客さんと楽しく勉強しました。
あと、今すぐにエコパパで雇用することは経営的に難しいのですが、障がいがあるなど社会的に弱い立場の方たちと働くのは当然のことと考えています。資本主義社会では、組織全員が売上目標に向かって働きますが、そうすると多様性がいびつになります。どんな領域も、多様性が社会基盤を強くすると考えています。生物多様性も、人間社会もそうです。
すべての人がアクセスしやすい不動産を目指しているのはなぜですか?
エコパパでは「衣食住は全て、人の命と健康、地球環境に直結している」と考えています。
現在、多くの不動産仲介業者は歩合制を導入しています。契約してはじめて利益が発生するため、確実に契約できる人が優先される。物件探しや手続きに時間がかかるケースは、門前払いされることさえあるのです。 エコライフ不動産では、自分たちの仕事の仕方によって、社会的弱者をつくってしまわないよう、心して励んでいます。
現実の経営は厳しいものもありますが、理想を目指して「必要としてくれている人のために仕事をしたい」と日々奮闘しています。ストアと不動産事業部は同じミッションを持っており、車の両輪のような関係性にあります。
知與子さん自身の、福祉や障がいについての想いがあったら聞かせてください!
大学で心理学を学んでいたとき「障がいのあるなしはみんなグラデーション」という話がありました。その言葉がとても自分にフィットして、今でも心に残っています。
私の母は、障がい者支援施設に勤務して17年になります。母から話を聞いていて、楽しいことや喜びはあるけれど、現場の大変さなど、いろいろな制限の中で働くことの苦しさも感じていました。人手不足などが解消されて、働く人がもっと余裕を持てる環境になると、利用者さんも支援者さんもよりハッピーなのかなと思います。
エコパパで働いていて、嬉しかったことは?
スタッフやお客さん、気候危機に立ち向かう仲間に囲まれて過ごせていること、自分もその一員になれたことです。そして仲間といるからこそ、知識や情報をアップデートできる環境なのもありがたい。一人だと限界があるので…。
仕事にやりがいと意義を感じるから、通勤のときは気分が良いです。今ここで働けていることに、この上ない幸せを感じます。
知與子さんが考える、初心者でも取り組みやすい環境活動は何でしょうか?
まず、買い物するときに、なるべくプラ製品ではなく天然素材のものを選ぶこと。またはプラ包装されていないものを選ぶこと。
あとは、お家の電力を再生可能エネルギーに変えること。これは環境へのインパクトが大きいので、多くの人が切り替えれば、かなり効果的なものです。環境活動家のセミナーや勉強会に参加することも、意識が変わるきっかけになるかもしれません。
知與子さんが今、注力していることは?
今、武本匡弘さんとともに『エコパパの本(仮)』という本を執筆しています。エコパパがどういう経緯で、何を大切にしたくてできたのか、どんな活動をしているかを紹介する本です。今地球がおかれている状況や、私たちがどう行動したら良いかについても書きたいと思っています。
書いてみて気づいたのは『人に伝えることの難しさ』です。こちらの想いを詰め込みすぎても良くないし、でも届けたいことはたくさんあるし、その兼ね合いが難しい!でも、この本を書く上で出会った人たちにいろんなアドバイスをもらって「前向きに、楽しく作ろう」と考えるようになりました。
いよいよ完成に近づいてきたので、ワクワクしています。どう届けられるか模索し続けて、一人でも多くの人に届けたいです。
今後どんな活動をしていきたいですか?
エコパパで働けていることが、自分の生活にフィットしているし、納得感や満足感があります。なので、活動の幅を広げるよりも、ここで知識や経験を深めていきたいです。
商品やひとつひとつの活動の良さをもっと伝えられるようになりたいですし、スタッフやお客さん、仲間とともに、人と健康と環境を守っていきたいと思っています。
インタビューを終えて
よく「安心して暮らせる社会にしていこう」というフレーズを耳にします。自分だけが安心して暮らせる社会は存在しませんが、『地球上に住むすべての人、生き物が安心して暮らせる社会』というと、果てしない道のりで、何から手をつけたら良いかわからないとも思えます。
しかし、一人では難しくても、目の前にある問題ひとつずつに向き合い、仲間と手をとりあえば変えられることはたくさんあります。
福祉の世界観も、自然環境の問題に対する価値観も、『命を大切に想う』という根っこの部分は共通しています。知與子さんのパパラギでの活動は、今後も多くの命に寄り添い、多くの人の生活に『安心』をもたらすものだと思っています。