インタビュー

里親になるという選択、子どもと暮らす生活(里親のAさん、Bさん)

神奈川県では、およそ260組の里親が登録され、およそ140人の子どもたちが里親のもとで暮らしています(2023年11月現在)。皆さんは「里親」と聞くと、どのような印象を抱きますか?関わりがない人にとって、里親、里子という存在は特別なものになり、どう声をかけたらいいのかわからない気持ちになるかも知れません。

今回は神奈川県内で里親として生活をしている2名の人に、里親になったきっかけや日々感じることなどを伺いました。一人は里親歴29年で26人の里子と生活した60代女性Aさん、もう一人は里親歴10ヶ月の30代男性Bさんです。

※里親制度に関する内容は、こちらのサイトでご確認ください。

里親さんはどのようなことをしているのでしょうか?

Aさん
Aさん

社会的養護が必要な子どもたちを、家庭に迎え入れ、面倒をみています

親子関係のような距離感で関わるかどうかは、ケースバイケースです。「おじちゃん、おばちゃん」の認識の方もいるし、我が家は、たまたま「マミー」と呼んでいますが、それは里子として受け入れた彼女の家族が、私のことを「マミー」と呼んでいるので、そうなりました。

彼女は、実の両親を「パパ、ママ」と呼んでいます。子どもの状況などを踏まえて、呼び名を重ならないようにするなど、いろいろと各家庭で工夫されていると思います

名前の呼び方なども、家庭によって違うのですね

Bさん
Bさん

我が家は、あだ名で呼んでもらっています。実親さんがいるので、「お父さん、お母さん」と呼ばせてしまうと、家にいる「お父さん、お母さん」と、本当の「お父さん、お母さん」の違いがわからなくなってしまうと考えました。

家の中では、お友達のような感覚であだ名で呼んでもらい、実の両親との面談へ行くときは、「お父さん、お母さんだよ」とわかるように伝えています

Aさん
Aさん

子どもの年齢や理解力によっても、変えています

学童期である、小学生の子どもを預かったときは、「この家にいる間は、あなたのお父さんとお母さんだからね。あなたを守る家族だからね。」と話をしたこともありました。

家庭養育の大切さや必要性を感じる瞬間はありましたか?

Aさん
Aさん

子どもによって必要性も異なるように感じますが、たとえば、小さい子の場合、24時間、ひとりの養育者が面倒を見てあげられるのは大きいと思います。施設養育だと複数の養育者で見ることになりますが、家庭養育ではずっと同じ人が関われる良さがあります。

預かった子のなかには、虐待を受けた子どもたちもいたので、家庭養育を通して、大人は安心安全な対象ということをわかってもらえたらいいなと関わってきました

Bさん
Bさん

「この人はいつも一緒にいる人」という安心感を持てることが、家庭養育のもっとも大事なところだと思います

うちの子は2歳ですが、我が家に来る前は乳児院にいました。乳児院でも担当の人の顔を見ると安心して、少し離れると不安になっていたのです。家庭養育であれば「いつも一緒にいる」という安心感のなか、成長していけるなと思っています

里親になったきっかけは何だったのでしょうか?

Aさん
Aさん

私は、子どもに縁がなかったことがきっかけです。結婚して10年ほどは、夫婦ふたりで遊びや旅行などを楽しんでいましたが、私も夫も子どもに関わる仕事をしていたので、「子どもを育ててみたい」「子どもと関わり合いたい」という想いがありました

また、その頃、たまたまテレビで養子縁組のドキュメンタリーを見て、日本と海外での感覚の違いを知りました。日本は養子を迎え入れたとしても、近所や本人に対して、養子であることを気づかれないようにする風潮があります。「何だか、それは違うよね」と思っていたので、もし自分たちがその立場になったら、もっとオープンにしたいなと思い、それも動機の一つになりました

Aさんが、里子を何人も受け入れるようになっていったのは、どのような想いからだったのでしょうか?

Aさん
Aさん

最初の動機は「子どもが欲しい、子どもを育てたい、うちの子にしたい」でしたが、研修や乳児院の見学、実際に子どもたちと関わるなかで、いろいろなケースを知っていきました。知るに従って、自分の抱いていた「家庭に子どもを迎える」という細い道がどんどん広がっていったのです

そのため、1人目の子と縁があり、養子縁組をしたあとも、「この子とのご縁をいただいた場所で、他にも何かお手伝いできることがあったら」と、里親を続けるようになりました

Bさんは、どのようなきっかけで里親になったのでしょうか?

Bさん
Bさん

我が家も、子どもに縁がなかったことがきっかけです。夫婦とも「大人になったら結婚して子どもがいる」という家庭環境を当たり前に思っていました。しかし、現実はそうではなく、不妊治療もしましたが恵まれませんでした。その後、特別養子縁組を進めていたのですが、ハードルも高く、うまくいかなかったのです

私も妻も子どもと関わる仕事をしていましたが、仕事で子どもと関わるだけでは満たされず、「家のなかで子どもと一緒に暮らしたい」という想いが募り、里親という選択肢が浮かび、児童相談所に駆け込んだのがきっかけです

お子さんを受け入れるまで、どのくらいかかりましたか?

Bさん
Bさん

研修を始めてから、およそ1年で委託されました。これは早いほうだそうです。

委託を受けるには、座学の講習、養護施設の実習、家庭調査、認定、その後、乳児院実習を経て、候補の子どもとのマッチングがおこなわれます。

講習や実習のために仕事を休む必要も出てくるため、人にもよりますが、里親になるまでは時間がかかります

里親は、地域のなかで、どのくらいの人数いるのでしょうか?

Bさん
Bさん

地域にもよりますが、私たちの地区の児童相談所だと、60組ほどです

これは地域差があるので、神奈川県内でも、この地区は少ないなど特徴があります。しかし、昔に比べると、人数としては増えているそうです

里親になるまでの手続きで大変だったことは何でしょうか?

Bさん
Bさん

研修のために、仕事の休みを取るなど、スケジュール管理が一番大変でした。我が家の場合は、夫婦ともスケジュールを組みやすい仕事をしていたので、良かったです。

Aさん
Aさん

私が里親になった時代は、調査がメインでした。今もありますが、家庭環境や収入、家の間取り図など、調査的なものが多かった気がします。

里親になって良かったことは何でしょうか?

Aさん
Aさん

正直、やらなければ良かったと思うような嫌な思いもしています

けれど、こんな手紙をもらったことがあります。小学5年生の子を2年ほど預かったのですが、その子が自宅に帰ったあと、手紙をうちに置いていってくれたのです。良かったら読んでください。

〜数枚に渡る手紙には「親であり、先生であり、大切な人です」と書かれていました〜

これをもらったときは、里親になって良かったと思いました。これの繰り返しなのでしょうね。子どもとの関係で難しいことはたくさんあります。後悔することも反省することもあるし、それでも、里親を続ける理由はこれなのだと思います。

Bさん
Bさん

我が家の場合は、周りの目が変わるのが一番嬉しかったです

私の年齢だと、子どもがいる家庭が増えているので、周りから「お子さん、まだなの?いないの?」と聞かれて、苦しくなるときがありました。

「まだ」なのではなく、「もう、ない」などと答えることもできず、悶々と「まだ」と答えていました。里子を迎え入れ、「うちの子は」と言えている自分や、実子でないことがわかっていても、職場などで「Bさんちは?」と言ってもらえるのが嬉しかったです

里親をやっていて、大変だったことや困ったことはありますか?

Aさん
Aさん

「私たちには、力がない」と感じることは多いです

当然ですが、親が「これから自分が引き取ります」と言えば、突然であったとしても、親に権利があるので委託解除となります。ほか、病気などで手術が必要になったときも、その決定権は私たちにありません。

何かあったときの権利もなければ、力もない。口出しする権利もないです。親ではない以上、これはどうにもならないことですが、沸々とした思いはありますね

Bさんは、大変だったことや困ったことはありますか?

Bさん
Bさん

私も妻も子どもと関わる仕事をしていたので、正直「もっとできるだろう」と思っていたですが、無理でした

お父さんのような人、お母さんのような人になることが全然できなくて、子どもをイライラさせてしまったり、うまく誘導できなかったり…私たちは育児不適合者なのではないかと、ふたりで話し合うこともありました。

最近は「勉強するしかないよね」と、ふたりで調べて、今度はこれをやってみよう、あれやってみようと、ふたりで向き合えているのが、唯一の救いです。

Aさん
Aさん

突然、親になっているのだから、当然なのだけどね

里親は、突然、大きくなった子どもと出会うので、最初のスタートラインも違う。子どもを育てることで自分たちも育ててもらっているので、ゆっくりとね。

Bさん
Bさん

こうやって声をかけてくれる里親の先輩がいるなど、サロン(里親センター)はすごく大事な場所です

行ってみると、ほかの里親さんもいて、「みんな、同じように悩んでいるんだ」と知ることで気持ちも楽になります。「あれができない、これができない」と思うのではなく、もっと子どもを愛おしく思いながら、子育てを考えられるようになります

Aさん
Aさん

里親の仲間同士は守秘義務があるので、里親として感じる悩みや子どもの話などを、洗いざらい相談できる場所があるのは、強みですね

里親や里子に対して、周りの理解が足りない場面もあるかと思いますが、いかがですか?

Aさん
Aさん

名字が私たちと違うことで、不便な場面や違う名前で呼ばれてしまうことがあります

保育園や小学校では、事前に説明をしていても、きちんと引き継がれず、違う名前で呼ばれるなど、配慮が足りないと感じる場面があるのは確かです。しかし、それも積み重ねなのだと思っています

初めて、里親や里子と関わった先生だと、書類や手続きなどをよく知らないので戸惑われますが、2人目になるとスムーズなことが多いです。病院なども同じで、初めてだと対応に時間がかかり、すごく待たされるなどの不都合もあります。

Bさん
Bさん

私は「里親」ということで、特別視されることが気になっています。「すごく偉いことをしている」というように扱われることがあるのです。

私の場合は、自分の家庭環境をこうしたいと、個人の想いでやっているため、そこを「偉い」と言われてしまうことに、違和感を感じています

制度の仕組みを考えれば、国や地域へ貢献している意味合いもあるかも知れませんが、「偉いことをやっている」と扱われてしまうと、距離や壁ができてしまい、普通に接してもらえないのが残念です。その点、里親さん同士での関わりは楽だなと思っています。

Aさん
Aさん

私も最初の頃は、ただ自分の想いを叶えてもらっているのに、「偉い」なんて言われることはおかしいと思っていたので、Bさんの気持ちはすごくわかります

でも、今は、24時間・365日、里親であり続けるのは、ただ「子どもが好き」という気持ちだけでできるものではないので、「頑張って、いいことしてるじゃん」と思えています

Bさん
Bさん

30年後、そうなれるのかなぁ…私にとっては、それが苦しかったです。

特別なものではなく、血は繋がってないけれど、ただの3人家族と見てもらえたら嬉しいのに、そう思うときがありました

地域の皆さんに、伝えたいことはありますか?

Aさん
Aさん

里親や里子の話をしても、地域全体には伝わらないだろうなと思います。自分の周りにいる、自分の知人が知ってくれて、分かってくれる。そして、「そういう人もいるんだね」と、じわじわ広がって、理解してもらうしかないかなと思います

私自身も里親になりたいと思って、ベビーホームを訪ねたときに、初めて、その子たちの状況を肌で感じ、胸がいっぱいになりました。里親を知ってもらうよりも、養護が必要な子どもたちを見ていただき、その子どもたちにはどういう存在が必要なのかを知ってもらうこと…そこから里親を知ってもらいたいと思っています

Bさん
Bさん

里親や里子は遠い存在だと思うので、言葉で「こうです」と言っても、なかなか理解できないと思います。それよりも、生活のなかで「里親と里子だったんだ。思っていたよりも普通だね」と、知っていってもらいたいと思っています

里親制度と聞くと、親に育ててもらえない可哀想な子という印象があるように思います。関わってもらって、そうではないのだと知ってもらいたいですね

実親は事情があって直接は育てられないけれど、実親、里親、児童相談所、地域、みんなで育てていくことができているので、ある意味、幸せな制度なのかなと活動するようになってから感じています。

子どもたちにはどのように育っていってほしいですか?

Aさん
Aさん

幸せになってほしいです

「幸せ」というのは、その子が感じる「幸せ」です。幸せだなと感じながら、生きていってほしいなと思います

Bさん
Bさん

どこへ出ていっても、胸張って生きていってほしいなと思います。我が家から巣立ったあとも「頑張ってるじゃん」と感じたいですね。

「里子だから」とか、そういう外からのレッテルに負けない子になってほしいなと思います

インタビューを終えて

里親制度や養子縁組など、名前は聞いたことがあっても、具体的な内容や状況が分からない方が多いのではないでしょうか。

「よく分からない」「可哀想な気がする」「大変そうな気がする」、幸せそうであれば聞きやすいものも、なぜか負のイメージをもつと、「聞いてはいけないもの」と線引きをしてしまうことがあります。そして、その先に出る言葉が「偉い」になってしまうことも、とても分かる気がしました。

これは、障がいの分野も同じだと思います。自分とは別次元のものと分類してしまうと、関わりが終わってしまうことがあります。自分が経験していない世界のことも「へぇ、そうなんだ」と、近くフラットに知っていくことができたら、その先に、お互いの生きやすさがあるように感じます

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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