インタビュー

看護の力で笑顔を紡ぐ、想いを叶える訪問撮影(いんくるふぉと代表 三瓶由季さん)

いんくるふぉと」は、茅ヶ崎市在住の三瓶由季さんが2019年に立ち上げた看護師同行の訪問撮影です。彼女自身も一人のカメラマンとしてシャッターを切ることはありますが、「同行」という二人体制ならではの良さもあると言います。

スマホなどを使い、自分たちでも綺麗な写真が撮れる時代になりましたが、プロのカメラマンが撮る写真のなかには、家族の前でしか見せない家族同士の表情があります。NICUで働いたのち、家族看護の視点を大切に立ち上げた「いんくるふぉと」について、代表の三瓶由季さんにお話を伺いました

活動のことを伺う前に、看護師になろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

三瓶由季さん
三瓶由季さん

看護師は、幼稚園の頃からの夢でした。誰かの役に立ちたいという気持ちが強かったのだと思います。

高校生のときにボランティア部の部長を務め、とても楽しく、誰かの役に立ちたいという気持ちが人一倍あることに気づきました。そのとき、職業としては看護師かなと、この道に進みました。

この活動を始めたきっかけは?

三瓶由季さん
三瓶由季さん

きっかけは、NICU(新生児集中治療室)での経験です。看護師として病院に勤めてから、小児科とNICUで6年ほど働きました。当時、1日でも早く退院させて、家族と家で過ごせるようにと頑張っていたのですが、退院後のご家族と外来で会うと、「退院後、怖くて、1回も外に出てません」とお話されるのです

障がいがあり、酸素や経管栄養などのチューブをつけている子も外へ出ることはできるのですが、病院の中と病院の外では、看護師のサポートに違いがあり、安心感やマンパワーに差が出ます。家族の不安やもどかしさ、実際に地域で生活する大変さを目の当たりにしました

そこから、なぜ撮影になったのでしょうか?

三瓶由季さん
三瓶由季さん

写真をつくるのが好きだったので、外出のサポートをしつつ、家族の写真が撮れたらと思いました

「お宮参りにも行けなかった」という話をご家族から聞いたときに、看護の力を医療機関だけでなく、もっと一般的なところでも頼れるようになればいいなと強く思いました。そこで「だったら、私が支えて撮れば良いじゃん」と、この仕事にいきつきました。

カメラマンが看護師さんだと、ご家族の安心につながるかもしれないですね。

三瓶由季さん
三瓶由季さん

お出掛けのきっかけになったらいいなと思っています。写真が好きなので、その魅力を感じてもらいたいという気持ちもありますが、写真はゴールのための手段なのだと考えています。

カメラとともに外出をする。そこから「外出、大丈夫かも」と自信がついたり、写真をあとから見て「また行きたいな」と思ってもらえたら、嬉しいです。

三瓶さんの表現で出てくる、写真を「つくる」とは?

三瓶由季さん
三瓶由季さん

構図もあるし、光もこうした方が綺麗だとか、いろいろと「こういうのが好き」があります。「こう撮ったらもっといい」というイメージがいっぱいあるので、楽しいです。

かっこいい写真も良いのですが、お母さん目線の写真など、撮りたい写真があります。手元の写真や赤ちゃんの小さい手や足、家族が目にする世界を写真に残していきたいです

写真の魅力は何でしょうか?

三瓶由季さん
三瓶由季さん

自分を外から見られることだと思います。たとえば、家族といるときの自分の笑顔って見たことないですよね。鏡を見てもわからないし、あと、家族からどう見られているのかも、自分ではよくわからないことも多いです。

カメラマンが写真を撮ることで、「家族と一緒にいると、こんな顔するんだ」「私って、こんなふうに笑うんだ」と、自分を見つめ直せる機会にもなります

それから、写真を見たあとに、ポジティブな気持ちになれる人も多くいます。「自分には家族がいるから頑張ろう」「また行きたいから頑張ろう」と、次のステップに向けたパワーになるのではと感じるのです。それは写っている本人だけではなく、家族も同じで、写真は見て元気になれるのが魅力だと思います

「いんくるふぉと」では、サポートが必要な方の写真を撮っていきたいということですが、自宅でも素敵な撮影はできるのでしょうか?

三瓶由季さん
三瓶由季さん

看護師がいるので、ご本人の状態を見ながら、自宅から出て写真を撮ることも可能ですし、ベッド上でも少し写真映えするような撮影ができます

自宅でつくる簡単スタジオは、メンバーの美術担当がベッド上やベッドサイドの壁を装飾してくれます。「こんな写真が撮りたい」を叶えられるようになっています

『いんくるふぉと』では、遺影撮影や障がいのある方の撮影にも力を入れていきたいと考えています

遺影写真を撮っていきたいというのは、どのような想いからですか?

三瓶由季さん
三瓶由季さん

終活に対してポジティブな印象をもつ人も増えてきましたが、遺影写真の撮影は「そういう時期か」と仕方なく撮る場合が多い印象があります。また、遺影写真を撮っていない人は、今までの写真をかき集めて、選ぶことになります。

遺影写真は長く見られる写真なので、その人らしさがあり、思い出とともに魅力が伝わる写真にしたいなと思います

施設に入居している人なら、自宅に帰ったタイミングで写真を残せるのもいいかもしれません。何でもない写真ではなく、その撮影した日の記憶や思い出を一緒に残せたらいいなと思っています。そうすることで、力のある写真になります。そういう写真づくりを、看護師同行があるからこそできるので、取り組んでいきたいです

三瓶さん自身もカメラマンなので、一人で行けそうですが、カメラマンと看護師の二人体制にする意味はあるのでしょうか?

三瓶由季さん
三瓶由季さん

カメラのプロと看護のプロがいる状態が理想だなと思っています。一緒にしてしまうと、サポートが希薄になってしまいます。ご家族も心配せずに一緒に撮影することができ、その時間を安心して委ねてもらえるようなサポートを心掛けています。

対象になる人が、年齢や病気、障がいなど、何らかの配慮が必要な人なので、それぞれに特性があります。仮に2時間の撮影をしたら「頑張るのが普通なんだ」と、きっと一生懸命頑張って、2時間笑顔をつくってくれるような気がします。しかし、それをやれば、その後、丸一日寝込むなど、いろいろな形で無理が出てしまいます。

病気や障がいの症状、日頃どのような生活をしているかなど、その場の様子と合わせて、看護師の視点で気づき、考えていくことで、休憩の入れ方など、無理のない撮影を提供できると考えています

障がいのある方の写真を撮りたいというのは、どのような想いからですか?「障がい」について思うことも教えてください。

三瓶由季さん
三瓶由季さん

「いんくるふぉと」の名前は、インクルーシブという言葉から来ています

私は「障がい」について、もっと普通に、自由にいられるようにと思っています。たとえば、映画館に行って、背の低い子どもは座席が高くなる座布団を使用し、当たり前に楽しむことができます。それと同じように、どこに行っても、何をしていても、あたりまえに「普通」が手に入り、選択の幅も自由になればいいなと思います

写真撮影も同じで、人によってはスタジオの指定された時間ではうまく撮れずに終わってしまう人もいるかも知れません。そういうものではなく、もっと寄り添いながらできればいいと思っていて、その人が自然と楽しめる撮影にいかに近づけられるか…そんな環境をつくっていきたいです

本当にそうですね。家族で出掛ける難しさも、そこに理由があるように思います。

三瓶由季さん
三瓶由季さん

NICUでは、家族看護を大事にしています。毎日の看護記録のなかに、家族の記録も書くことが多く、家族を含めた看護をしてきました。

それってすごく大事だなと思っていて、その想いがずっとあるので、この活動につながっているのだと思います。本人も大事だけど、家族も大事。これが「いんくるふぉと」の軸にありますね

あらためて「いんくるふぉと」が大切にしていることは何でしょうか?

三瓶由季さん
三瓶由季さん

これまで「できない」と我慢しなくてはいけなかった人が、普通にいろいろな場所に出掛けることができ、いろいろな生活ができることを目指しています。社会が変わることも大切ですが、ご本人やご家族にも、一人で抱え込まず、周りの人を頼っていいのだと実感してもらいたいです。

撮影している時間は「完全に頼っていいんですよ」と思っています。家族はケアから離れることが難しいので、その時間帯くらいは丸々委ねて、肩の力を抜いてもらいたいです。写真を提供するのですが、「ご家族も一緒に撮影されることを楽しんでください」と、その時間を提供するイメージですね

最終的に、社会がインクルーシブな発想に変わり、いろいろな場所で看護が生かされ、看護の視点でのサポートが当たり前になっていって欲しいなと思っています

最後に、今後やっていきたいことは何でしょうか?

三瓶由季さん
三瓶由季さん

個人撮影がメインなのは変わらないのですが、施設の撮影もやっていきたいです。一緒に暮らしていないご家族に、日々の生活の様子を伝えたいという想いからです。

また、以前、ご高齢の方の写真を撮ったときに「写真なんか撮らなくていいよ」と言いながら、裏で多くの服を用意して「これもいいな」「あれもいいな」と着替えている様子がありました。写真を撮られる側になるというのは、人としての喜びになるのだなと感じています

「施設の利用者さん」という大勢のなかの一人ではなく、一人ひとりにフォーカスした写真を撮ることは、自分だけが見られているという世界を生み出し、ご本人にとってもご家族にとっても良い時間になるのではと思っています。そこから、心が元気になるお手伝いをしていきたいです。

インタビューを終えて

取材をするなかで、写真のもつ魅力とともに、「力のある写真」をいう言葉も印象的でした。1枚の写真の前後には、その日の多くの時間があり、多くの想いがあります。写真のもつ力は、そこに写っているものだけではないことを気づかせてもらいました。記憶がたくさん詰まった写真たちは、人生を豊かにしてくれるように思います。

楽しい思い出も、嬉しい言葉も、私たちの記憶は残念なほど薄れていきますが、写真や映像、文章など「記録」は、その薄れていくものを優しく留めてくれます。いんくるふぉとの描く世界観が、私の大事にする取材と重なり、取材をしながら、ふと嬉しくなりました。

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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