インタビュー

対話を重ねて、相手を感じていく(せかふれアート はしもとあきこさん)

ゆったりとした雰囲気を纏いながら、アートと向き合う女性が藤沢市内にいます。イラストやデザインの仕事をしながら、せかふれアートを主宰するはしもとあきこさんです。

言葉を選びながら丁寧に世界観を伝える彼女の姿が、Ana Letterの色とも重なり、ライター養成講座を開講したときには、真っ先に声をかけてしまいました。彼女の目にはどのような世界が広がっているのでしょうか。せかふれアート主宰であり、当サイトの新人ライターでもある、はしもとあきこさんにお話を伺いました

今やっている仕事や活動のことを教えてください!

はしもとあきこさん
はしもとあきこさん

イラストとデザインの仕事をしながら、せかふれアートという教室名で活動をしています。主な内容は「子どもアート教室」と「福祉施設でのアートプログラム」です。

福祉施設でのアートプログラムとは、障がいのある方が日中過ごす福祉施設でワークショップをしたり、絵を描くのが好きな利用者の方には、公募展の作品づくりのサポートをしたりしています。

これまでも、アート関係で働いていたのでしょうか?

はしもとあきこさん
はしもとあきこさん

経歴でいうと、東京コロニーアートビリティという部署に長く勤めていました。そこは、障がい者アーティストの作品の審査や登録などをおこなっていて、Webのライブラリーを見て、作品を使用したい企業さんにはデザインの提供を、そして作家さんには使用料を還元する仕組みになっています。

全国にいる障がい者アーティストの作品が対象で、個人で作品づくりをしている人もいれば、福祉施設での活動として作品づくりをしている方もいます。多くの作家さんがアートビリティに応募してくれていたので、そこで障がい者アーティストと出会い、障がい福祉とも出会いました

子どもたちのアートと障がいのある方のアートは、違いなどはあるのでしょうか?

はしもとあきこさん
はしもとあきこさん

違い…とくに感じたことはないです。前職で、障がい者アーティストの方たちと関わったとき、常に作品を生み出し続けられる方がいて、そういう力はスペシャルだなと感じましたが、それくらいですね。

基本は同じです。私自身、障がいのあるなしではなく、誰であっても、その人その人でしか見ることができないので…そこに違いというものを、私は感じていないです

あこちゃんにとって、「アート」とは何でしょうか?

はしもとあきこさん
はしもとあきこさん

ずっと夢中で見ていられるもの。気づいたら、アートが好きになっていました。作家さんでいうと、淺井裕介さんが好きです。初めて作品を見たときの感動もすごかったし、淺井さんは言葉でも表現できる方なので、インタビュー記事などで作品への想いや哲学に触れることができ、より「アートって面白いな」と思うようになりました。

そこから現代アートに惹かれていきました。好きな作品の傾向は、自然との調和とか差別や分断をテーマにしているものが多いです。作家さんは感受性が豊かなので、つらい部分もあると思っています。「ここまで考えが至ってしまう」「ここまで気づいてしまう」「ここまで深く考えてしまう」というように、いろいろな事柄の違和感を感じとってしまう苦しさがあるように思うのです

あこちゃんも、そう感じることはありますか?

はしもとあきこさん
はしもとあきこさん

私もアート談義をしているとき、そうでした。社会への違和感などを人と話していると「あなたは感受性が豊かだから、気づくこと、考えることが多くて大変そう」と言われることがあります。

実際そうかなとも思うのですが、それでも、アートと出会えたなら全然いい、ギフトでしかないなと思っています。小さい頃から感じていた社会への違和感も、作品と出会ったり、多くの人と話したりすることで、「同じように感じている人もいたのだ」と知ることができました。アートから感じとる多くの感覚はありますが、そこが自分を救ってくれたという感覚の方が大きいです

活動のなかで、どのようなことを大事にしていますか?

はしもとあきこさん
はしもとあきこさん

せかふれアートは、目に見える完成よりも、つくっている時間を「楽しい!」と感じられることや作品づくりが終わってからの気持ちを大切にできるように心がけています。子どもアート教室だと、その日につくるものはプログラムとして決めているのですが、もし他につくりたいものが子どもたちの中で生まれたら、そちらをつくってもらうことを大切にしています。

子どもたちの「これを作りたい!」「自分は今これを表現したいんだ!」という想いは絶対にキャッチしたいなと思っています。福祉施設の活動でも同じですね。待つというか、その方の気分が乗るまで待つなど、無理やりにはやらないようにしています。

あこちゃんにとって「生きる」とは何でしょうか?

はしもとあきこさん
はしもとあきこさん

生きるとは、出会うこと

私が動くのが好きなのもあるかもしれませんが、思いがけない出会いとか、思わぬ余白に飛び込んでくるハプニングとか、その出会いが生きることを面白くしてくれるというイメージです

「障がい」についてはどのように感じていますか?

はしもとあきこさん
はしもとあきこさん

いろいろな福祉施設で、障がいのある方と出会ってきました。利用者さんと話したり、話せない方ともいろいろな方法でコミュニケーションをとることが私は楽しくて、とても癒しだし、なくてはならない時間になっています

ただそれは福祉の世界に入ったからわかったことだと思っています。福祉の世界に出会うまでは、どう接したらいいかわからなかったし、私が生活していた世界からはあまり見えない世界でした。それもあり、障がい福祉は、関わりがないと見えにくい世界だと実感しています。

今では、シンプルに「ひと」対「ひと」だなと思っていて、私のように障がいのある方と関わりがなかった人でも、いつの間にか、心が通じ合うこともあるんだよと伝えたいですね

どのように関わることがその一歩になると思いますか?

はしもとあきこさん
はしもとあきこさん

以前、ある福祉施設が県立スポーツセンターのフライングディスク大会に参加したことがあり、障がい福祉と関わりのない友人に声をかけて、一緒に見に行ったことがありました

そのとき、友人が自然と障がいのあるメンバーさんたちと会話をして関わっていて、その何気ない感じがすごく嬉しいなと思いました。そこから、他のイベントでも、その友人は、メンバーさんがつくった手作りグッズが可愛いからと、その方と会話が広がったり、打ち解けていく感じがすごくナチュラルだったのです

機会さえあれば、障がいがある云々ではなく、人として、自然と解けあって、調和していくことができる。普段の生活では、障がいのあるなしでまだまだ分かれてしまっていますが、これからの社会にはうまくナチュラルに交流できる場があるといいなと思いました

ともに生きるために必要なものは何だと思いますか?

はしもとあきこさん
はしもとあきこさん

たとえば、優さん(本記事ライター)と私は「ともに生きているな」と、私は感じています。それは何故かと考えると「対話」をしてるからだと思っています。私は、優さんがくれる安心感のおかげで、自分が思っていることを正直に話せるのです

そういう小さな対話で、日々の生活に安心感が生まれる。正直に話せる場の安心感は、大切ですね。「Ana Letter」の大切にする、相手の価値観を否定しないことや柔らかく伝えること、安心して話せる雰囲気づくりなど、そういう小さな積み重ねが「対話」につながって、それが「ともに生きる」につながるのかなと思っています

最後に、今後、やりたいことは何でしょうか?

はしもとあきこさん
はしもとあきこさん

湘南に引っ越してきて、多くの障がい福祉関係の方と出会いました。優しくて素敵な方が多く、皆さん、情熱を持って活動されている方ばかりです。そういう方々と協力しながら、藤沢や湘南エリアの福祉をより楽しく、より面白く、広い意味でみんなが生きやすい社会を作れるようにしていきたいです

それが「Ana Letter」のライター活動にも繋がっていて、先ほど話したような、この人には正直な気持ちを伝えていいんだと安心感を持ってもらえるインタビュアーになっていきたいです。私自身も福祉の世界に出会って、生きやすくなりました。福祉の世界のあたたかさが、少し生きづらいなと感じている人により届けばいいなと思っています

8月のせかふれアート

インタビューを終えて

対話をする。取材の中で話してくださった、アートとの出会いは、アートとの「対話」なのだと感じました。対話は「話す」という手段だけではありません。コミュニケーションが言語では取りにくい方と対話して相手の想いを感じていくこと、作品を鑑賞して作家さんの想いを感じていくこと、とても似ているなと思いました

ゆっくりと関わることで、深く相手を感じることができ、小さな表現を大切にできる。彼女の受け止める世界観は、彼女の魅力なのだと感じています。彼女のフィルターを通した記事が「Ana Letter」のなかで増えていくことを私自身もとても楽しみにしています。

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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