インタビュー

温度感を大切に言葉だけではない関わりで、相手の想いをカタチにする(コルコバード 松村正承さん・及川詩麻さん)

藤沢市鵠沼海岸には、ホームページ制作やデザインをおこなう株式会社コルコバードがあります。「Ana Letter」もコルコバードの皆さんにつくっていただきました。松村社長との出会いは、藤沢市内の福祉施設の中でした。

クリエイターの皆さんは相手の反応を感じ取りながら、言葉だけではない関わりで、クライアントの想いをカタチにします。その感性は、障がい福祉の現場にいる方々と似ているのかも知れません。「福祉との出会いは大きい」コルコバードの松村正承さんと及川詩麻さんにお話を伺いました

コルコバードでは、どのような仕事をしていますか?

及川詩麻さん
及川詩麻さん

コルコバードでは、いろいろなクライアントさんから依頼を受けて、ウェブサイトやグラフィックデザイン、チラシなど、多岐に渡るデザインをしています

私はディレクターという立場で、お客さんとのコミュニケーションを担当しています

松村正承さん
松村正承さん

僕は社長ですが、もともとはデザイナーで、デザインの仕事をずっとやってきました

2003年に、この会社をつくってからはデザインの仕事もやっていますが、プロデューサー的な立場でアートディレクションをしながら、他のメンバーと一緒に案件にあたることもあります

この会社はどのような想いでつくったのでしょうか?

松村正承さん
松村正承さん

お客さんと直接コミュニケーションをとり、その温度感を大切にしながらお客さんが喜ぶものをつくりたいと思い、この会社をつくりました。

以前はフリーランスのデザイナーでしたが、そうすると、お客さんとの間にプロダクションが入ることが多くなり、お客さんと話す機会はほとんどありません。クリエイターとしての原点なのでしょうか。やはり、温度感をきちんと感じとって仕事をしたいという想いが湧いてきたのです。

なので、仕事のほとんどが直接の取引になっているのがうちの会社の特徴で、アイデンティティとして守っていきたいものです

やはり、クライアントの方と会って話すのは大切ですか?

松村正承さん
松村正承さん

クリエイティブなものは、すごく主観的な要素が大きいと思います。イメージを会話の中で少しずつ引き出して、相手の反応を感じとりながら進めていきます。こうかな、こうかなとやっていくと、お客さんが求めているものが少しずつカタチになっていきます。それが理想ですし、それを大事にしているのがコルコバードです。

仕事は多岐に渡っていて、たとえば、ウェブサイトといっても、システムが必要なもの、コンテンツメイキングが必要なもの、公開した後のSEOや発信の工夫などさまざまあります。

お客さんは、その目的を明確にして相談に来るばかりではありません。会話を通して、目的に合ったアプローチを提案するのも、我々の仕事だと思っています。デザインだけでなく、コンサルティングの要素も大きいように感じます。

仕事の醍醐味は何でしょうか?

及川詩麻さん
及川詩麻さん

いろいろな人に会えるのが面白いです。私は、すごく恥ずかしがり屋なので緊張しますが、この仕事のおかげで、さまざまな業種の方とお会いできていると思っています。

あと、私はインタビューをしてサイト内の文章を書くことも多いです。それを読んで「良い文章を書いてくれてありがとう」と喜んでいただけることもあり、好きなことをやりながら、人の役に立てるのは本当に嬉しいなと思います

松村正承さん
松村正承さん

私も恥ずかしがり屋なのですが(笑)、この仕事には「人と関われる喜び」があります。今年で20周年ですが、良いお客さんとのつながりに感謝しています

仕事をしているといろいろなお客さんと出会います。当然、苦しい思いや泣きたい思い、どんなに良いものをつくっても、良いと言ってもらえない環境もあります。

その精度をあげたいという想いから、直接お客さんとやり取りをして20年。語弊がある表現ですが「気の合う」お客さんとのつながりが増えました。我々のことを「面白い」と思ってもらえる関係が強くなってきたように思います。福祉業界と出会えたことも大きいです。つながりがつながりを生み、気持ちよく仕事をさせてもらえる環境ができています。お客さんとの関係性や築いてきたお客さんとの信頼関係が一番の資産だと思っています

それから、スタッフの人間性も誇りです。良い子たちが集まって、良いお客さんと良い関係性を築いてくれて、今すごく良い環境なのではないかなと思っています。

仕事のなかで、大切にしていることは何でしょうか?

及川詩麻さん
及川詩麻さん

「ちゃんとやる」は大前提。でも「ちゃんと」だけでは、うまくいかないこともあると思っています。私たちもお客さんも、誰でもできないことや苦手なことはあります。そこにあまりピリピリせず、良いかたちで進められたらと思っています。

弱いところを責めたりせず、仕事をしたいです。私は少し怒りっぽいのですが、なるべく優しく…というのが大事なポイントです。ちゃんとした良いものをつくり、間に合わせるのは基本ですが、その根底には優しさが必要だなと思っています

松村正承さん
松村正承さん

クリエイターとしては常に「サプライズ」を届けたいと思っています。そこが、我々の付加価値になってくると思うので、どんな世界観を提供できるか、どういうふうに驚いてもらうか、というのはありますね。

「デザインできてきたな、うん、まぁ、こうだよね」という雰囲気でも、仕事としてはオーダー通りでOKかも知れません。でも、僕にはそれは屈辱的で、そこから10%でも20%でも上乗せして、ほぉ!と心を動かしたいですね

ビックリさせたい、驚かせたい、感動させたい。こちちのちょっとした一言でお客さんの何かが開くような瞬間があります。一方的な感動ではなく、そこから新しいステージに入り、話し合い、よりよいものをつくっていく…次のステージに誘いたいというのが常にあります

大切にしている生き方や生きがいはありますか?

及川詩麻さん
及川詩麻さん

プライベートでは、子どもの成長が生きがいです。あとは、無理しないようにしたいなと思っています。この会社へ転職するときも、電車通勤は嫌だっだという理由がありました。

「無理しないで、自然体で楽に生きられるように」というのがポリシーです。子どもにもそういうふうに生きてほしいと思っています。

松村正承さん
松村正承さん

無理しないというのはすごく大事ですね。我々、クリエイターは感性が強いからか、繊細で弱かったり、人間関係で惑わされてしまったり、影響されてしまうことも多いです。僕も若い頃はそうでした。

それもあって、過剰な負荷がかからない職場環境をつくりたいと思っています。やりたいと思えば思うほど、無理をしてしまうものですが、そのやりたい気持ちと無理してしまう部分をどう折り合いをつけるかが重要です

僕が一番大切にしているのは「自由」です。最近、自由とは何だろうと考える機会が多くなりました。昔に比べ、多くの人が「自由」を手を入れている反面、戦争などとの距離も近くなっています。いろいろなデバイスを手に入れて、自由を手に入れているのに、なぜだろうと思うのです

多様性についてもそうです。多様性に対して世の中が寛容になったとは僕は感じていなくて、多様性がオープンになっただけで、本当に寛容になっているのだろうかと疑問があります。自由で、多様性が本当の意味で実現できる環境を構築していけたらいいなと思っています

コルコバードさんは、障がい福祉関係のデザインなども多くつくられていますが、障がいや福祉について、思うことはありますか?

及川詩麻さん
及川詩麻さん

大人になってから、関わるようになりました。それまでは意識しないで生活していたと思います。たとえば、通学をするときに障がいのある子が一緒のバスに乗ってくると「いるなー」と思うだけでした。嫌に思うことはなかったけれど、少し怖いなとは思っていたかもしれません

ここの会社では、お客さんに障がい福祉で働いている方も多かったので、話を聞く機会も多くなり、今は当時と全然違います。見守っていればいい、あの人はあの人で日常生活を送っているのだろうと、フラットな気持ちで考えられるようになりました

障がいや福祉と関われて良かったです。「みんな個性があっていい」と思えたことで、自分のことも許せるようになりました。私は何でも完璧にやらなくてはいけないと思いがちな人でしたが、いろいろな人に頼ったり、支え合ってやっていけばいいと、自分の考え方が柔らかくなった気がします

松村正承さん
松村正承さん

「誰が、障がい」とか「何が、障がい」とか、気にならなくなりました。支援する側とされる側という考え方自体が違うという話を聞くことができ、何かしてあげているのではなく、逆に「してもらっている」、得ているものが大きいとも教えてもらいました。

この仕事で福祉と関わるまでは、目に見えるものや情報などのわかりやすいもので、いろいろなことを判断してきたのだと思います。重度障がいのある方の施設とも関わっているのですが、言葉ではない、「目で見る」だけではないメッセージがそこにあるのを知りました

実際、そこのスタッフの方も、寝たきりで全く喋らない方とコミュニケーションをとっていて、僕もそこへ行くと、その方からのメッセージが何となくわかる気がするのです。

目に見えるものだけがこの世の全てではなく、もっとフラットに見ていけば、もっと見えるものがあるのではないかと感じます。クリエイターとして、そういった福祉の世界をどう表現していくのか、これからも考えていきたいです

いろいろな人がともに暮らしていくために、必要なものは何だと思いますか?

及川詩麻さん
及川詩麻さん

想像力でしょうか。すぐに決めないことが大事なのかなと思っています。「あなたはこういう人だ」とすぐに決めず、いろいろな面があるのではないかと考えることで、違っていても一緒に生きていけるかなと思います。

私は、あまり話すのが得意ではないので生きづらいです。話さなくても大丈夫で、雰囲気だけで温かさを感じられるような社会になったらいいなと思います。ママ友とかも全然できなくて「ともに生きられていないなー」と思うのですが、住んでいて居心地がいいと思えたらいいなと思いますね。それは誰でも一緒なのではないかなと感じています。

松村正承さん
松村正承さん

福祉と関わる方が聞いたら「ともに生きる共生社会」という言葉がおかしいと言われてしまいそうですが、「障がいがある」という考え方はどうなの?そもそも障がいとは何なの?という話をよく聞きます。勝手に人が線引きしたものだよねと。

実際に僕もそうなのだと感じています。わかりやすい線引きに発想を委ねてしまうことが、共生社会の妨げになっているのだと思います本当の意味で、社会全体が多様性に対して寛容になれば、もっと暮らしやすくなるのだと思うのです。

「本当の意味で」というのが、難しいですよね。自分でも気づいていないかも知れないし、どういうものが共生社会なのでしょうね。

松村正承さん
松村正承さん

「寛容になれ」というのもおかしいし、重要なテーマですね。法律ができて満足、では意味がないし、本質となると一人ひとりがどう考えていくのか、どう育ってきたのか、どういう考え方に触れてきたのかというところも関わってきます。

一概に言えないのですが、自分のことばかり考えず、自分が生きているのではなく、自分が生かされているのだという発想のなかで、周りとの関わり方を考えていければいいのかなと思います

及川詩麻さん
及川詩麻さん

先日、福祉施設の方にインタビューをしたとき「障がいのある方も関わる機会は大事だからと、施設に人を呼ぶのは、何だか見世物にしているような感覚もある」という言葉が印象的でした。

関わりたいと思うのなら関われる機会を、自分が行きたいと思うなら行けるように…その方がどう思っているのかが大事なのだと思います。それぞれの希望を、一つずつ叶えられればいいのかなと感じました

松村正承さん
松村正承さん

僕もそういう発想はすごいなと思ったし、その通りだなと思いました。障がいのある方だからこういうことしたいでしょ?というのも一方的な話で、我々だって、外に出るのが好きな人もいれば、休みの日はずっと家でゴロゴロしていたい人もいる。みんながみんな、天気が良いと出掛けたいわけではないですし。

そう考えると、あんまり難しく大きく考えずに、一人ひとりが、自分の目の前のことに対して真摯に向き合っていくことができれば、そのまま集合体として社会はできあがっていくのかなと思います

最後に、今後どのようなことをやっていきたいですか?

及川詩麻さん
及川詩麻さん

もう少し頭を柔らかくしていきたいなと個人的には思っています。マイペースなタイプですが、少しずついろいろなことに挑戦していけたらいいなと思います。

今日話しながら、「自分はこういうこと考えていたんだな」とわかることもありました。ゆっくりとした会社ですが、お客さんとの関係を大切にしながら、少しずつ挑戦もしていきたいと思っています

松村正承さん
松村正承さん

会社としては、福祉と関わっていきたいという気持ちがあります。福祉の直接的な支援ではないけれど、我々ができることがあるように思っています。福祉の事業を進めている方々の後方的なサポートとして、もっと深く関わっていきたいと思いますし、広くやっていきたい、シンプルにもっと役に立ちたいという想いが常にあります

うちのスタッフは長く働いてくれている子も多く、メンバーも固まっていますが、今後はまた新しい、少しバランスが悪くて突出した才能を持つクリエイターたちを出会って、育てていくというのも楽しみだと思っています

コルコバードのスタッフはキャンディ?

取材の合間に、及川詩麻さんが「私、毒舌ですよ、結構」と話すと、松村正承さんはこんなふうにスッタフの皆さんのことを話していました。

松村正承さん
松村正承さん

詩麻さんの毒舌は、世の中でいう、コーヒー味のキャンディくらいだね。ほろ苦いくらいの毒舌(笑)

うちのスタッフはみんなそうです。一人ひとりにいろいろな味があって、ゆず風味の子もいるし、でも、みんな基本キャンディ。そういうスタッフと働けて、お客さんと良い関係を築けているのは、醍醐味です。それだけで、この会社を続けていく価値はあると思っています。

インタビューを終えて

共生社会やインクルーシブ、いろいろな言葉が飛び交い、「一緒に関わること」が正解のような印象があります。コルコバードのお二人と話しながら、ともに生きることは、一人ひとりが何かに制限されることなく、自分らしく自然体でいられることなのだと実感しました。

遊びたいと思ったときに一緒に遊べる場所があり、話したいと思ったときに話せる場所がある。自分の楽な距離感で人と関わり、生きていくことができる。これは障がいのあるなしに関わらず、意外と叶っていないのではないでしょうか

「いつだって自由に参加していいよ」と社会は思っているかも知れませんが、そこにいる人も、そこにある環境も、本当の意味で準備ができていないのだと思います。さらにいえば、来ないという選択肢にも、私たちは寛容になれていないのかも知れません。人それぞれの生き方や選択、それぞれの自由と楽さを感じ合えるようになりたいなと思いました

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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