地域の中で楽しくつながり、「知る」機会をつくる(チアフル代表 久住奈美さん)
2020年12月に設立した「チアフル」は地域の中で、障がいを知る機会、関わる機会をつくり続けています。代表の久住奈美さんのお子さん、マレちゃんはダウン症で、来年の春には小学校に入学します。就学は嬉しい反面、障がいの有無に関係なくお友達と関われる機会が減ってしまうのではと複雑な心境もあります。
どのように子どもたちはつながり、仲良くなっていくのでしょうか。チアフル誕生から2年が経ち、見えてきた世界や想いについて、チアフル代表の久住奈美さんにお話を伺いました。
チアフルは、どのような活動をしていますか?
チアフルは、みんなで楽しくつながれる場所をつくっています。障がいのある子もない子も、どんな個性の子も、一緒に遊んで楽しく過ごし、お互いを知っていけたらと思っています。お互いを知ることは、とても大切です。
「知る」といっても、障がいを理解してもらうための教育とは違い、あくまで、みんなで楽しめる場づくりをしています。
2020年12月に団体をつくり、少しずつですが「障がいの有無に関係ないつながりって必要だよね」と思ってくれる人が増えてきているように思います。
チアフルは、パーククリーンやボッチャなどを多く開催していますが、障がいのある子たちの参加も多いのでしょうか?
障がいのある子の参加はそれほど、多くありません。子育て自体が大変で、行きたいけれど来られない人もいるし、これまで経験してきた地域でのつながりで傷つき、外に出る勇気がない人もいます。また、「インクルーシブ」と聞いた瞬間にひいてしまう人もいます。
考えや想い、事情は十人十色。無理なくお互いの考えを尊重し合えたらいいなと思っています。ただ、チアフルと同じ想いであっても、来たくても来られない人もいます。そのことを知っていただくことも大切だと思い、活動のときにお伝えするようにしています。
チアフルが大事にしていることは何でしょうか?
子どもたち同士の関わる機会を大人が邪魔したくないなと思っています。子どもたちの関わりを見ていると、お互いにいろいろな感情になりながら、相手を理解していきます。「障がいを理解する」とも少し違う気がするのですが、自然と「○○ちゃんはこんな子」と慣れていき、一緒に楽しめる遊びを見つけて、つながっていく感じです。その姿に、むしろ、私たち大人が学ぶことが多いと思っています。
私たちの活動は「茅ヶ崎にインクルーシブ公園をつくっていただきたい」という想いからスタートしました。ハード面は行政にお願いするしかできませんが、ソフト面の課題として障がいのある子とない子の触れ合う機会が少ないので、チアフルでは“ともに遊び・ともに学ぶ”環境をつくることを大切にしています。
関わる機会を大人が邪魔する…、つい大人があいだに入ってしまうこともあるのでしょうか?
ありますね。大人のほうが、障がいを意識してしまうことが多いです。障がいのない子の親は「自分の子が、障がいのある子を傷つけたらどうしよう」と、障がいのある子の親は「自分の子が周りに迷惑をかけたらどうしよう」と考えがちです。その親同士の遠慮が、子どもの関わりを止めてしまうことがあるなと感じるのです。
うちの子も一時期、批判的なことを言われることがありました。そうすると、言った子のお母さんは「そんなことを言っちゃダメ」とすぐに止めてしまうのです。その気持ちはわかるのですが、それを止めないでほしいなと思っています。
子どもたちは何らかの違和感や不快感を感じて、それを言葉で伝えてくれているので、まさに、障がいのことなど、お互いを知るための大事な始まりだと思うのです。「障がいのある子にそんなこと言ってはいけない」ではなく、「そっか、どうしてそう思ったの?」と、その子に寄り添って、知るチャンスをあげてほしいなと思います。
実際に、マレちゃんが嫌がられてしまう場面もありましたか?
そうですね。マレは人との距離感がめちゃくちゃ近いので、「やだやだ、マレちゃん来ないで」と言われたことがありました。距離感が近いのが苦手な子にとっては当然です。でも、関わっていくうちに理解なのか、慣れなのか、諦めなのか、「マレちゃんは、こういう子」と思ってくれたようで、今では普通に遊んでいます。
他にも「マレちゃん、いつも積み木崩しちゃうから、僕もうヤダ」と言われたこともありました。そのときは、「ごめんね、一緒に遊びたいのに遊び方がわからなくて崩しちゃってると思うから、積み木の積み方を教えてあげてくれる?」と伝えました。すると、その子が教えてくれたみたいで「今日はちゃんと一緒に遊べたよ」と報告に来てくれたり…そうやって、少しずつ理解してもらい、今があります。
ただ、マレだけ人の邪魔をしていいなんてことはないので、「マレが邪魔してきたら、強く怒っていいよ」とも言っていますね(笑)スパルタな母で可哀想かも知れませんが、大切なことだと思います(笑)
関わりを通して、子どもたちは変化していきますね
そうですね。あと、うちの子は滑舌が悪くてまだおしゃべりが苦手なので、一緒に遊ぶのが難しいこともありました。言葉がなくてもコミュニケーションを取れる子もいれば、取れない子もいるなどさまざまです。
ただ慣れなのか、だんだんと子ども達のヒアリングが上手になり、今では「マレちゃん、今、○○って言ったんだよ。マレちゃんのお母さんなのに何でわからないの?ダメじゃーん!」と教えてくれる子もいます(笑)
障がいのない子からすると、うちのマレは「不思議な子」で近寄りがたいことがあるかも知れません。でも、一緒に関わることで、「ただのお友達」「面白い子」に変化していったのを感じます。
障がいのあるないに関係なく、人と人とのつながりの中には気の合う人合わない人がいて当然です。だから、「障がいのある人のことも好きになりましょう」とは思わないけれど、「障がいがある人=嫌な人、怖い人」とはならないように、と思っています。チアフルでは、基本は子ども同士で解決できるように見守りますが、必要に応じて大人がフォローするようにしています。
マレちゃんのお友達は、マレちゃんのことをどのように思っているのでしょうか?
これはチアフルではなく、保育園の話になってしまいますが、よき理解者のひとりのお友達は、障がいがあるから優しくしてくれているのではなく、「ただの仲良しのお友達」として関わってくれています。その子のお母さんがすごく理解のある方なので、きっと、いろいろな場面でうまく説明して育ててきてくれたのだと思います。
そのお友達が手作りの絵本をつくってくれました。マレとそのお友達が遊んでいるという内容の絵本で、「こうえんであそんでるよ」とか、「おさんぽにいったよ」「てをつないだよ」と進んでいきます。最後のページには「いつも、いてくれてありがとう」と。「いる」という存在していること自体に「ありがとう」と言ってくれるのだと嬉しく思い、私が泣いてしまいました(笑)
マレの保育園の園長先生は「子どもたちにとって保育園は、立派な社会。大人たちの社会のミニチュア版のようなもので、さまざまな子がいるのは当たり前のこと」といつもおっしゃってくださっています。そのおかげか、理解してくれるお友達はとても多いです。
親として、マレちゃんを見ていて、どうですか?
マレは生まれてすぐから注射をしたり、「筋力をつけるのが難しいから、ほかの子の何倍も頑張らなくてはいけない」と言われていたので、日頃から筋トレやリハビリなどをすごく頑張っていました。娘もそうですが、障がいのある人は難しいことに直面しながらも、リハビリや治療をとても頑張っていてすごいなと尊敬します。私なら、こんなに頑張れるだろうか…と考えるほどです。
マレと関わりのある方々は、親の私でも気づかないことに気づいて、褒めてくれることがあります。マレ自身が落ち込んでいるお友達を励ましていたり、他の人の力になっていたりすることもあるよと教えてくれるのです。手をお借りすることも多くありますが、周りの人との関係性を自分でどんどん築いていることに感心します。無駄に心配しすぎているのは親だけなのだと気づかされます。
先日伺ったイベントでお披露目された「チアフルの紙芝居」がすごく素敵な内容でした。どのような内容か紹介してもらっていいですか?
今は紙芝居ですが、もとは「絵本」でした。マレとお友達の成長の差が大きく開き始めた年少の頃に「取説えほん」をつくったのが始まりです。それを仲の良いお友達に配って、保育園でも読み聞かせをしてくれて…そうしたら、子どもたちは「マレちゃんだけ、絵本があってずるい」という話になりました(笑)。そこかーい!って感じですが、それをきっかけに「マレちゃんってこういうのが苦手なんだね」と知ってもらえました。
チアフルでは、その絵本を楽しめるように少し内容を変えて『みんながぴかぴかぴかりん』という紙芝居にしました。文章は、チアフルをいつも応援してくれている友人に子どもでもわかりやすい日本語に変換してもらっています。「障がいをわかってください!」という表現は苦手なので、一人ひとり違うけれど、みんな人間は同じだよという内容になっています。
チアフルの活動では「障がいのある子たちに最初から特別な配慮はしない」と聞きますが、どういうことなのでしょうか?
イベント会場の周辺情報として、駐車場やトイレの情報などは出しますが、イベントに来てもらってから、何に困っているのかということをみんなで知って、みんなで考えるようにしています。
最初から「配慮しますよ!」とやってしまうと、知る機会が減ってしまうように思うのです。どうしたら、みんなで遊べるのか?どうしたら、みんなで楽しめるのか?ということを、その場で一緒に考えることが大事だと思っています。
子どもたちが関わりを通して、相手を受け入れて理解していくように、大人も「障がいのある子は、こう!」と障がいを知ってもらうのではなく、一人の「人」として知ってもらい、コミュニケーションをとりながら、知り合っていくことを大切にしています。子どもたちの関わり方から学ぶことがたくさんあります。どんな人でも、地域の人として、ともに生きられる環境につながるといいなと思います。
最後に、チアフルの今年度の活動を教えてください!
今年度はすごいですよ〜!毎月イベントを開催していきます!
茅ヶ崎市のげんき基金に採択されたこともあり、楽しいイベントを用意しています。恒例のパーククリーンやボッチャなどもありますが、今までやったことのないイベントも多いです。詳しいことは内緒ですが、SNS(facebook、Instagram)で発信していきますので、多くの方に参加してもらえると嬉しいです。子どもたちが楽しめる内容を中心にいろいろと用意していますが、大人の方もぜひ一緒に楽しみに来てください!
企画など大変さもありますが、毎月やらないと、インクルーシブの意味がなくなってしまうので頑張ります!ちなみに、毎月のイベント以外にも、他団体とコラボして企画する催しも増えています。4月は多様な交流会と題して、共生社会に近づくゲーム「ワンダーワールドツアー」をやりました。これは私としてもおすすめのゲームなので、子どもにも大人にもやってほしいなと思っています。
インタビューを終えて
チアフルがつくる空間は、とても自然です。「さぁ、障がいのない子、障がいのある子、交流しましょう」と、交流を目的とした色分けさせた混ざり合いではなく、子どもたち一人ひとりが自由に遊んでいます。
大人は見守り、気づきのパスを投げられたら素敵ですが、私たち大人も「自然な混ざり合い」が得意なわけではありません。障がいのある子とない子が一緒に遊ぶことは特別であるように感じ、「簡単な遊びにしなさい」「助けてあげるのよ」などと、優しいようで少し差別的で、仲良しのようでお世話係のような、何とも残念な関わりを促してしまいそうです。
人と人が一緒に過ごすとき、みんなで楽しめるようにちょっとした気遣いをするのは大切です。だけど、相手を知ろうとせずに気遣いすぎるのは、壁になってしまうのかも知れません。子どもたちは、障がいがあるかないかではなく、その子がどんな子なのだろう?と関わっていきます。「大人がその関わりを邪魔してしまうことがある」久住さんのその言葉に納得するとともに、私たちの固定観念で、手をつなげない壁をつくってしまわないようにしたいものです。