インタビュー

ひとりじゃないよ、一緒に生きた大切な生命(アンズスマイル代表 押尾亜哉さん)

茅ヶ崎に住む友人から「実は、すごく支えてもらったんだ」とアンズスマイルを教えてもらいました。アンズスマイルでは、流産や死産、乳児死など、赤ちゃんとお別れした方に特化した心のケアをおこないます。あなたは苦しいとき、誰に相談しますか?その内容により、必ずしも1番近くにいる方ではないかも知れません。

アンズスマイルには、オンラインなどを通して、天使ママ、天使パパが集まります。代表の押尾亜哉(おすおあや)さんがおこなうグリーフケアとはどのようなものか、当事者にしかわからない「我が子を亡くす」とはどのような気持ちなのか、伺ってきました

※流産や死産などでは、亡くした赤ちゃんを「天使」と表現し、その保護者のことを、天使ママ、天使パパといいます。

亜哉さんが「アンズスマイル」を始めたきっかけは?

押尾亜哉さん
押尾亜哉さん

私自身が経験者なのです。もうすぐ18年になるのですが、1年に2回流産をし、その後、不妊治療の過程でできた子を妊娠30週(8ヶ月)で死産しました。突然破水をして、まだ30週でしたので大きい病院に移ったのですが、翌日、心拍が低下してしまい、緊急帝王切開で出産するも、間に合わずに死産になってしまいました。

当時、誰にも話せないし、死産した人も周りにいないし、相談窓口もないし、相談できるピアサポーターも静岡にはありませんでした。ネットで探すと、東京でサポートする団体があったので、静岡から東京まで何回も通って、少しずつ、心の回復をしていったのです。

2年後に下の子が生まれた頃には、だいぶ回復してきていました。その後、死産から6年後くらいに、ふと「こういう経験したのは、私だけじゃないはず」とネットで探すと、経験者の方が多くいて、それなら、自分の身近にも絶対いると思いました。支え合える場をないならつくればいいと、静岡県初のピアサポーターの団体をつくったのがアンズスマイルです

アンズスマイルでは、カウンセリングをおこなっているのでしょうか?

押尾亜哉さん
押尾亜哉さん

そうですね、2つの柱で活動しています。一つは、流産や死産、乳児死を経験された方への個別のカウンセリングやコーチングです。もう一つは、ピアサポーターの育成をおこなっています。赤ちゃんを亡くした方で「私の経験を誰かの役に立てたい」という方がすごく多いのです。

あとは、今年から始めたのですが、サポートできる人を増やすため、カウンセリングもできる「コーチ養成講座」をやっています

オンラインでも個別カウンセリングが受けられるようですが、「オンラインの良さ」は何でしょうか?

押尾亜哉さん
押尾亜哉さん

コロナ禍になり、リアルでのお話会ができなくなったため、オンラインに変更したのですが、オンラインならではの良さがあることに気づけました。

オンラインは、直接会えない距離の人とも、リアルタイムに画面ごしに話ができるので、リアルとそう大きくは変わらない良さはあります。電話とは違い、顔を見ながら話せるのが良いですよね。

さらに相談される方は「外に出られない」という人が多いのです。そうすると、オンラインなら自宅で受けられますし、家の中で一人でいることも多いので、受けやすい環境ではあるのかなと思います。

流産や死産をされた方は、どのような思いになっているのでしょうか?

押尾亜哉さん
押尾亜哉さん

大きな特徴としては、「無事に産んであげられなかった」と罪悪感を感じている方が多いです。女性は妊娠した時点からお母さんなので、赤ちゃんに対する愛情や愛着がものすごく強いです。そうすると、我が子を亡くしたショックと、その子に申し訳ないという罪悪感が強くなります。「どうしたら良かったのか?」「何が悪かったのか?」と原因を探したくなるのですよね。

ほかにも、「母親になれなかった。社会からもう認められないんじゃないか」と思っている方もいらっしゃいます。子どもを亡くした悲しさだけではない、とても複雑な感情があります

もちろん、時間とともに、悲しみは薄くなり、穏やかになっていくけれど、決して忘れることはないですね

亜哉さんは、どのように寄り添っていくのでしょうか?

押尾亜哉さん
押尾亜哉さん

私の場合は、最初は「共感」をさせていただきます。同じような経験をしているからこそ、自分の経験をお話したり、いろいろな天使ママさんの事例をお伝えしたり…つらさの渦中にいると、「今の自分の状態」がどうなのか、わからないことが多いです。なので、一般的な「今の状態」をお伝えして、段階的に心はどのような変化を辿るのか、お伝えしていきます

あとは、やはり亡くしてしまったという気持ちがすごく強いのですが、「亡くしちゃったのではなく、自分を選んできてくれたんだよ」というお話もさせてもらいます。「少し視点を変える」というのは大事ですね。「亡くなっちゃった、亡くしちゃった…」と思っている視点から「え?私、選ばれたの?」と変化すると、見え方が変わってきます。

「選んできてくれた」と思うと、短い時間だったかもしれないけれど、その時間を一緒に生きたよねと思えるような気がしました。

押尾亜哉さん
押尾亜哉さん

そうなのです。「亡くしちゃった」という発想の中にいると、「何で、亡くしてしまったのだろう?」「何で、私がこういう目に遭ってるんだろう?」という感情のまま、ずっとループしてしまい、抜けられなくなってしまいます

そこを抜けるためにも、「私のところに来てくれた」「妊娠できた」ということを、「それって、良かったことだよね」と一緒に話していきます。悲しいところから一歩進んでもらうための会話をしていく感じですね。

ご夫婦で同じ気持ちになっている方が多いのでしょうか?何となく、夫婦間で温度差ができてしまう気もするのですが・・・

押尾亜哉さん
押尾亜哉さん

それはありますね。先ほど話したように、ママの方は妊娠した時点から、子育てが始まっています。しかし、ご主人は、実際に生まれてから育児される方が多いので、とくに、初期の初期で流産されると自分は父親になったという感じが全くなかったりするのです。だんだんと奥さんのお腹が大きくなって、胎動も感じるようになって少しずつ、「父親」と言う意識ができてくるので。なので、夫婦間のズレは生じてしまいがちです

あと、女性は感情を分かってもらいたい生き物で、男性は解決を求める生き物です。それもあって、ご主人が「元気づけてあげたい」「自分が頑張らなきゃ」と思って、おこなった励まし行動が、奥さんには「悲しんでないんじゃないか」と映ってしまうこともあります。励ましが傷つけることにもなってしまうのですよね。

支えてもらいたいし、支えてあげたいし、気持ちは同じなのに、苦しいですね

押尾亜哉さん
押尾亜哉さん

最近、当事者に手にしてほしい冊子「希望のみちしるべ」をつくりました。そこには、まさに、ご主人を含め、ご両親など周囲の方に伝えたい内容も載せています。結構、励まそうと思って周囲から言われた言葉にママは傷ついているのです。なので、控えてほしい言葉や嬉しい言葉かけを書きました。

冊子を開いてもらうと、「今、悲しんでますよね」という気持ちへの寄り添いから、先輩天使ママさんからのメッセージ、それ以外にも、流産・死産したあとの手続き、入院中にできることや絶対にやってもらいたいことなどを書いてあります。死産だと死産届出さなきゃいけないし、火葬しなきゃいけない、いろいろとやらなくてはいけないこともあるのです。

なぜ、冊子「希望のみちしるべ」をつくったのでしょうか?

押尾亜哉さん
押尾亜哉さん

流産や死産された方が「この先、どうしたらいいんだろう」と思ったときに、自分から情報を探しにいかないといけないのですよ。探せる人はいいのですが、中には苦しくて探せない人もいます。もう探す元気もない人、あえて探さない人もいたりするのです。向き合うというのは苦しいことなので、探そうと思うと、つらくなってしまってしまうのです。

そういうときに、この冊子が病院にあればと思いました。流産も死産も「赤ちゃん、亡くなっています。残念ですが」と言われるのは、100%病院なのです。その病院で「時間があるときに読んでみて」とこの冊子を渡してもらえたら、一つ情報を手に入れることができます。自分から探すのではなく「もらう」ということができたら、何か一歩、進めるきっかけになるのではないかなと思ったのです

※冊子「希望のみちしるべ」に関する情報は、インタビューの下のほうにあります。

流産や死産から心はだんだんと変化してくるかと思いますが、アンズスマイルでは、長期的な支援をしているのでしょうか?

押尾亜哉さん
押尾亜哉さん

人にもよりますが、リピーターさんが多いのが特徴です。長い方は、3年ほど毎月セッションさせてもらっています。この方は、グリーフケアというよりもコーチングの領域になっています。 ※心の回復プログラム(アンズスマイルHP)

最初のセッションは流産・死産のどうしようもない悲嘆から始まったのですが、だんだんと回復し、今は「これからどうやって自分らしい生き方をしていくか」というコーチングの方へ移っています。日常の悩みなどを伺いながら、物事の捉え方など、コーチの視点で一緒に考えていくという関わりです

今、苦しい渦中にいる方に、どのようなことを亜哉さんは伝えたいでしょうか?

押尾亜哉さん
押尾亜哉さん

ひとりじゃないよ、ということをすごく伝えたいですね。泣きたいときは泣いていいし、助けて欲しいときは、助けてって声をあげてほしいなと思います。全国にたくさんのサポーターが増えてきていますので、「この人と合いそうだな」「この人と話してみたいな」って思ったら、そこにコンタクトをとってほしいです。

自分の気持ちを外に出さないと複雑な悲嘆といって、うつ病や不安障がいになってしまう方もいます。なので、我慢はしないでほしいです。近くに相談できる人がいなかったら、遠くの他人でいいのです。それだったら話しやすいと思うので

ぜひ、誰かにお話してほしいなと思います。つらいことと向き合うのは、すごく嫌だとは思うのですが、時間がかかっても、それが一番の近道なのです。話をしながら心が癒えていき、そこからまた、赤ちゃんに来てもらいやすい心の環境をつくっていく…その一歩一歩を、一緒につくるのが私の仕事だと思っています

冊子「希望のみちしるべ」プロジェクト(以下、団体サイトより引用
赤ちゃんを亡くし、落胆されている方達に向けて、悲嘆のこと、心のこと、赤ちゃんにしてあげられること、手続きのことなど、“みちしるべ”になるような事柄が書かれています。
この冊子は同じ道をたどってきた先輩天使ママ達で作られています。

全28ページ(冊子の概要はこちら
※流産・死産・乳児死に詳しい大学の先生に監修に入っていただいております。
冊子を置きたい!冊子が欲しい!という方は、お問い合わせはこちらまで。
 メール:希望のみちしるべプロジェクト
     michishirube.project@gmail.com

藤沢市が紹介する相談窓口

流産や死産などを経験された方が相談できる窓口は複数あります。藤沢市のホームページにも、いくつかの窓口が紹介されています。

インタビューを終えて

流産や死産の経験は広く語られることなく、ひっそりと当事者の中にあることがあります。インタビューの中で「時間とともに悲しみは薄くなり、穏やかになっていくけれど、決して忘れることはない」と亜哉さんは語ってくれました。

悲しみが癒えるには、さまざまなステージがあります。ときに、周りの明るさや励ましで苦しくなることもあります。「こうすれば、人は元気になる」「私はこうだったから、きっとあなたもそうだ」と、自分の価値観で相手を侵さないようにしたいなと思います

これは何事においてもそうかも知れませんが、優しい刃ほど、跳ね除けることが難しく、跳ね除ければ、跳ね除けた罪悪感にまた傷ついてしまうもの。相手を想う大切さを教えてもらいました

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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