インタビュー

「柔道やりたい!」が叶う場所、濵名道場とつながる保護者の皆さんに聞いてみた!

大磯町には、障がいのあるなしに関わらず、柔道ができる道場があります。ダウン症や知的障がいのある選手も国際大会に出場し、さまざまな経験を積んでいます。「柔道がやりたい」という想いは、障がいのあるなしに左右されるものではなく、一人ひとりの心の中から生まれます。

どのようにしてこの道場に出会ったのか、また、好きなことに打ち込めること、自分の想いが叶うことでどのような変化があったのでしょうか。3人の選手の保護者の皆さんを中心に伺いました。

小林陸選手(24歳・ダウン症)、白川夏月選手(20歳・ダウン症)、髙部勇翔選手(22歳・知的障がい)の保護者の皆さんに伺っています!

入門したきっかけは?

髙部さん
髙部さん

うちは、中学2年生のとき、体育の選択科目がダンスか柔道でした。ダンスか柔道かって言われたら…柔道しかないので(笑)、柔道を選択。そのとき、学校で、柔道を教えてくれたのが、濵名道場の三代子先生でした

その柔道の授業がすごく楽しくて、先生が「道場においで」と言ってくださったので、始めました。本人は「センスがある」ってスカウトされたって言っています(笑)

小林さん
小林さん

最初に入門したダウン症の3人のうちの1人が、当時、幼稚園生でした。その子が幼稚園の体操などで、三代子先生とつながりがあり、スカウトされ(笑)、そのお母さんから「小林さんも一緒に行ってみない?」と言われたのが、きっかけです

もともと、私は柔道が大好きだったので、「子どもたちには、いつか柔道をさせたいな」と思っていました。なので、すごく嬉しくて、「え?!この子たちが柔道できる場所あるの?!」と、こちらに来させてもらいました。

白川さん
白川さん

幼稚園のときからスポーツチャンバラというのをやっていたのですが、中学部までしかできず、高等部になったときに、何か運動させたいな…と思っていました。ただ、運動できる場所のツテもないし、分からないなと思っていた矢先、たまたま、髙部さんから勇翔くんが柔道をやっているということを聞き、誘ってもらいました

ただ、うちの子は身体が小さいから無理かなとも考えたのです。でも、柔道は大会や勝負だけでないので、礼儀とかを身につけてくれればと思い、見学と体験をしてから、こちらに入りました

柔道を始めて、良かったことは?

髙部さん
髙部さん

挨拶ですね。高校3年生のとき、特別支援学校で職安の人と面接練習をする機会がありました。職安の人が息子の斜め前に座り「ご挨拶しましょう」と言うと、息子は、身体をその人に向けて挨拶をしたのです

そうしたら、その方が「自分の方を向いてご挨拶してくださるのは髙部くんが初めてです」と言ってくださって。これは柔道のおかげかなと思いました。道場で、挨拶をしっかりとするよう、教えてくださっているので。

ただ、調子に乗っちゃって、そのあとは必ず向く!必ず向く!(笑)、職安の人に褒められた第1号と自分のことを自負していて「俺は褒められたんだ」と嬉しそうでした(笑)。…あんまり褒められることがないのです。息子たちのような特徴があると、どうしても外では怒られることばかりになってしまうので

小林さん
小林さん

うちも挨拶ですね。小学校のときの支援員さんも、入学した頃から挨拶のことをしっかりとやってくださったのですが、プラスここで、ご挨拶をしっかりと教えてもらったのが良かったです。

高等部のときの実習で「挨拶とか返事がすごくいい」と言ってくれたところに、今勤めています。息子と就職先を決めるとき、息子の一番良いところを、一番褒めてくれたとこに就職しよっかと決めた感じです。

道場の挨拶はビシッとしますね。みんな「こんばんはー!!」と、きちんと挨拶するし、どこに行っても入室退室するときは、みんな礼を忘れないのですよ

白川さん
白川さん

うちの子も滑舌は悪いけれど、「ここは礼をしなきゃいけない」とか「ここは何かしっかりしなきゃいけない」とか、そういうのは分かってやっていますね。ただ、ああいう性格なので、人を見る力が出ちゃったというか(笑)

最初、智男先生と会ったときは、きちっとしてるわけですよ。「この人には、忠実にしなくてはいけないな」って。でも慣れてくると、ああやって砕けてしまうので…だから、人を見る力がついたのかな、逆に(笑)

本人ももう少しきちんと喋れれば、相手に伝わるのですが、なかなか思っていることを上手く伝えられないので。でもそれを、柔道で身体を動かしながらやっていってくれればいいかなと思っています

挨拶や礼儀以外にも、成長を感じることはありますか?

小林さん
小林さん

体つきが変わりましたね。ダウン症の子って筋肉が柔らかいとか、あんまりつかないとか言われたのですが、だいぶ筋肉がつきました。全体的にモチモチしていたのが、触ると硬いし、背中も大きくなりましたね。

あと、小さな交差点で車とぶつかってしまう事故があったのですが、上手く受け身が取れたようで大事に至らなかったということもありました。柔道が身体にしっかりと身についてるのかなって思いますね。

髙部さん
髙部さん

濵名道場にお世話になるようになって、困っている人に自然と声をかけたり、お手伝いができるようになりました。これは道場でも、私生活でも。

誰かの助けがないと生きていけないという想いがある中、「自分も誰かにお手伝いができる!」「自分にも役に立てることがある!」と自信が持てるようになってきたのだと思います

柔道の技術面の向上だけでなく、心の成長も日々アップデートしている気がします。

ケガの心配などは?

白川さん
白川さん

うちは、ケガの心配はしていなかったです。スポーツをやれば、当然、ケガをすることもあると思っていたので。

ただ心配だったのは、自分で着替えができないことでした。これは、始める前に先生にも相談したのですが、自分で帯が締められないので、そこが心配でした。そうしたら「それはちゃんと面倒を見る」と言ってくださったので…うちの心配はそこだけでしたね

髙部さん
髙部さん

うちの子はガーッとなると手を出してしまうタイプだったので、むしろ柔道を習うことで相手をケガさせてしまうのではという心配がありました

だけど、先生が柔道の練習の中で、柔道以外のときは絶対に手を出してはいけないことを教えてくれているので平気でした。「身体は凶器になるから、それは絶対にダメ」「普段はやっちゃいけない」と。柔道をやる前は、ガーッとなるタイプでしたが、それもなくなりましたね

小林さん
小林さん

柔道を道場の練習以外でやってはいけないことは、健常のお子さんにも、同じように伝えてくれています。「障がいがあるから危ないとか、ないから平気とかではなく、みんな遊びでもやってはいけない」と。

最初、ダウン症の3人だったので「ダウン症は首がやはり心配です」と、首の関節が弱いことなどをお伝えしました。でも、すでに先生は勉強なさっていたので、全部分かってくれていました。整形外科の先生に聞いてくださっていたり、ご自身でも勉強をされていたり…さらに「これからも勉強していくので、そういうことは気をつけます」と言ってくれたのです

投げられるとき、他の子だったら、受け身を教えて上手くできるようにするのですが、この子たちはコミュニケーションの問題で上手くいかないかもしれないから、投げられるときは首にスッと手を当てて先生が押さえるとか、首を強化する練習とかはやらないとか、いろいろと気にかけてくださるので、心配はなかったです

ほかの保護者の方にも、お話を伺いました

15歳の選手のお母さまに伺いました!

Q.きっかけは?
もともと体操や水泳は習わせていたのですが、息子が「柔道、やりたい」と言ってきました。うちの子にできるところあるのかなと思って、水泳の友人に聞いたら、スペシャルオリンピックスっていうのがあるよと教えてもらい、調べて、ここに辿り着きました

柔道は楽しいみたいで、道場で褒められると、家でもすごく嬉しそうにしているので、親としても「あ、柔道、楽しんでるなぁ。良かったなぁ」と思いますね

Q.柔道を始めて変わったことは?
礼儀と体幹ですね。今までは、ダラダラって感じでしたけど、ピシッとすることが増えた気がします。

あと、この前、卒業式だったのですが、卒業生として自分の名前が呼ばれたときの返事がすごく大きくて…こんなに、はっきりと言えるようになったんだって思いました

Q.ケガの心配などは?
障がいのある子が1人もいないような、近所の道場だったら心配だったかも知れないのですが、見学に来たら、こういう雰囲気の道場だったので、心配はなかったですね

見学に来たとき、障がいのある子もピシッとちゃんと正座して、挨拶しているのを見て、すっごく驚いたのを覚えています。うちの子にできるのかな?とも思いましたが、ここに通わせたいなぁという気持ちになりました。

31歳の選手のお母さまに伺いました!

Q.きっかけは?
相模原市の先生のところに行っていました。そこは、偶然、チラシを見て「柔道教室があるんだ」と知って、入った感じです。こちらに越してきて「柔道を続けられるところ…」と思って探していたら、ここを見つけました。うちは遅くて、中学1年生から柔道を始めています。

Q.柔道を始めて変わったことは?
挨拶とか、部屋に入るときにお辞儀するとか、そういう基本的な生活面のことがしっかり身についたなと思います。本人も柔道を楽しんでいるので、良かったなと思います。

16歳の選手のお母さまに伺いました!

Q.きっかけは?
中学2年生から始めました。中学の部活で、柔道部がすごく強くて、全国大会などに行っていたのですが、そこへの憧れがあったのか、本人が「柔道、やりたい」と言ってきたのです。ただ、なかなか、その部活の中で同年代の子たちを一緒にやるのは難しいかなと思い、中学の部活には入りませんでした。そこから、1年間ほど、ずっと「柔道をやりたい、やりたい」と言っていました。そうしたら、中学の柔道部の先生から濵名道場のことを教えてもらい、それをきっかけに入りました

Q.やってよかったことは?
柔道は大変みたいですが、「休む」と絶対に言わないのです。行きたくないとか、休みたいとかって絶対に言わないで必ず行くし、今も乱取りの稽古とかも、どんどん自分から「お願いします」という感じでいくので、やっぱり、やりたい気持ちがすごく強いのかなって思いますね

Q.柔道始めて変わったことは?
生活自体は大きな変化はないのですが、自信というのでしょうか…「やりたいって思っていたことができるようになった」というのが大きいですね。いろいろなことをやりたくても、実際、すぐに壁にぶち当たって難しくなったり、諦めたりという経験の方が多いのですが、やはり、好きなことをやれるということで、ちょっと自信も生まれてきてるのかもしれないですね

インタビューを終えて

「やりたいと思ったことができる」これは、どのくらいの人に叶っていることなのでしょうか

お金や家庭環境、文化やルール、自分の性格や心の調子、身体の機能的な面…いろいろな理由で「やりたい」が叶わないことがあります。『障がい』も叶わない理由の一つになります。そもそも、ダウン症や知的障がいがあるということで「柔道なんて、できないのではないか?」という心のブレーキ、道場を探しても断られてしまうことも多い実際…本人にとっても、保護者にとっても、たくさんの「我慢」がそこにあるように思います。本人が我慢をすることもつらいのですが、子どもの希望を叶えてあげたいのに、我慢させなくてはいけないという保護者の「我慢」は殊更苦しいと感じます。

一歩前に進んで、実際にできたとしても、また違う壁が生まれ、戦うような気持ちと諦めたくなる気持ちと向き合い、「我慢」という選択肢がちらつく。「やりたい」が叶わない苦しさは、障がいのある人に限った話ではありませんが、社会の中にある壁は、少しの工夫やお互いの少しの一歩で叶えられるものがたくさんあります。少しでも「叶う」機会を増やせるような社会にしていきたいですね。

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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