インタビュー

自分を整えることで、家庭や社会が柔らかく優しくなる(ハプラス湘南鍼灸ROOM 院長 野溝雄輔さん)

3月1日〜8日は女性の健康週間です。皆さんは女性特有のホルモンバランスやライフステージを考えたことはありますか?また、自分自身の健康について、向き合う時間は取れていますか?身体の巡りが整わないと気持ちが落ち込んだり、イライラしてしまったり、人との関わりを煩わしいと思ってしまうこともあります。

女性特有の体調をどう捉えていくのか、自分の力で元に戻していく方法はあるのか。今回は、実際に施術を受けながら、羽鳥にある「ハプラス湘南鍼灸ROOM」の野溝雄輔院長にお話を伺いました

鍼やお灸、初めてです。どのような仕組みになっているのでしょうか?

野溝雄輔さん
野溝雄輔さん

東洋医学では、「気・血・水」といって、空気と血と水分で人間の身体は守られているという考え方があります。この3つがスムーズに体内を巡っていると、身体も心も元気な状態です。

鍼灸の働きは、外から刺激を加えることで「気・血・水」の流れを良くすることです。流れを妨げるものはコレステロールのような実際の物質かも知れないし、運動不足で筋肉が硬くなって流れが悪い、また、気持ちが緊張して変に力が入ってしまっているのかもしれません。

刺激というと、痛いイメージがあるかもしれませんが、鍼灸では「心地良いな」と思える状態が大切です。その刺激が「痛い」「熱い」「もう嫌だ」となってしまうと、人は逃げたくなってしまい、体が硬くなり、効果が出なくなってしまいます。闘争する交感神経優位でもなく、緩めすぎてしまう副交感神経の過剰な優位でもなく、程よい安心安全な環境を整えておくと「気・血・水」の流れも良くなり、すごく健やかでいられるのです

「気・血・水」がスムーズに流れないと、身体はどのような調子になってしまうのですか?

野溝雄輔さん
野溝雄輔さん

人にはそれぞれバランスの波があり、自分の中で「自分らしくいられる(元気)」というラインがあります。その波のバランスが崩れると、躁状態になったり、落ち込んだりします。ある程度の範囲であれば、その状態も許せるのですが、その波が激しく大きくなると「私ではない(アンコントロール)」ラインまで振り切ってしまい、自分が自分を許せなくなってしまうのです

「気・血・水」の流れが整っていると、人や自分へ「気」を向けられるのですが、女性の場合、生理などの周期的なホルモンバランスで、「血」や「水」の流れが変わります。その影響で、気持ちも揺れてしまうのです。年齢によってホルモンの影響は異なりますが、多くの方が、1ヶ月の中で心も身体もバランスが崩れ、波うっているような状況になっています

女性の身体は、毎月のホルモンバランス、思春期・成熟期・更年期といった人生のホルモンバランスもあって、何だか整いにくいですね。

野溝雄輔さん
野溝雄輔さん

排卵後から生理がくるまでは、ホルモンの影響で血も水も留まりやすくなります。なので、もともと運動不足や緊張があり、血液の巡りが悪い人だと、さらに血や水が停滞してしまいます。

そうすると、気持ちも落ちて、行動も落ちて、判断もしたくなくなる。血液の流れが悪いから、みんな捨てたい、煩わしい、仕事も辞めたい、面倒くさい、何も考えたくない、誰かのせいにしたいという感情に陥っていきます。

これは、実際に能力が下がったわけではなく、ホルモンバランスをはじめ、身体の動かし方などが影響し、本来の自分のポテンシャルを活かせていない状態です。女性は苦しいと思います。1ヶ月の中でホルモンの周期があるので、すごく楽に活動ができる時期と気持ちが落ちる時期があります。その渦中にいると、洗濯機の中でグルグル回されているように、どうしたら抜け出せるのか分からなくなってしまうのです。「頑張れそう!」「やっぱりダメだ、2週間しか持たなかった」と、それを繰り返すこと自体がきついですよね

野溝さんの鍼灸院では、どのようなことを大切にされていますか?

野溝雄輔さん
野溝雄輔さん

ここでは、身体を動かしてもらってから、鍼灸をしています。通常の鍼灸院だと、横になってもらい、症状を聞いて施術する場合が多いのですが、うちは少し違います。

身体の不調の原因は「重心が保てない」「形が自分らしくなってない」という毎日の身体の使い方だと思うので、そこを整えることが仕事だと思っています。なので、実際の身体の動作を見ないと分かんないんですよ

「身体を整えていく」その方法として鍼灸がある。身体の力が抜けてくると、動きやすい身体になってきます。人の身体には必ず「気力の泉」あります。そこにいると、心が落ち着いて、楽になっていくのです。それを見つけ出すことも鍼灸とともに一緒にやっています。

前後左右に揺れて、ここが真ん中という点に重心を置くと、上半身がスッと軽くなり、足だけに体重が乗っている状態になります。全身を地球に預け、勝手に支えられているような心地良い感覚が生まれると、勝手にエネルギーが湧いてきて、勝手に楽になってくるのです。鍼灸だけでなく、立ってもらって、揺れてもらって「重心はここだ」というのを分かってもらい、それからケアをしていくのが私の鍼灸ですね

鍼灸でも特に、女性の健康に尽力しているのはなぜなのでしょうか?

野溝雄輔さん
野溝雄輔さん

2005年頃から不妊治療の領域に入り、女性に特化した鍼灸をおこなってきました。その後、独立し、やはり不妊治療をする女性たちを診てきたのですが、ふと不妊治療後の人生をフォローできない自分に気がつきました。その後の人生は長いのにそこで終わってしまっていいのか…女性の人生をトータルで診ていかないと、健康にはなれないのではないかと考えたのです。

たとえば、更年期はホルモンの影響を大きく受けるため、そこを整えていくと、家庭関係や仕事のパフォーマンスがすごく良くなります。暴言など吐くつもりはないのに、余裕がなくて言ってしまう人がいたら、それは本人の性格や性質ではなく、ホルモンのせいかもしれない。体調や原因を一緒に考えて「あなたのせいじゃないよ」と気づいてもらうことも、私の仕事かなと思っています

野溝さんと話すことでも体調が整うように思います。今、実際に、鍼をやってもらいましたが…不思議なくらい力が抜けて、身体が軽くなりました!

野溝雄輔さん
野溝雄輔さん

でしょう?
人それぞれ身体の使い方も違うので、効果がある点も違うのですが、力の合力点や支点になる場所に鍼をすると、そこから先の緊張がとれて、スッと流れが良くなっていくのです。使い過ぎているところの力を抜かせることが大事。

たとえば、鍼の効果で足裏の力が抜けてくると、身体は自然とクッション機能を思い出すので使いやすい身体になっていきます。刺激で、過剰に加わっている力が抜ければ、自然と自分の力で身体は良くなっていく。それを引き出すために、力を抜かせるということが大切なのです。

鍼灸で調子良くなっていってる方は、やはり大勢いるのでしょうか?

野溝雄輔さん
野溝雄輔さん

そうですね。更年期症状が出やすい方は、自分に対するコンパッション(セルフ・コンパッション=自分に対する労わり)が弱いです。「自分なんて、冷えていてもいい、疲れていてもいい。それよりも家に帰って家事をやらなきゃ」など、自己犠牲が高い方に結構多いです。

鍼灸にきて、お灸などで身体が温まるとそれだけで癒され、無理していた身体だったことに気づく方がいます。「こうすると楽だったんだ」と気づくことで、そこから自分への癒しが始まり、身体が楽になっていきます。鍼灸の効果もありますが、この「施術を受けている」という時間も、自分を労わるという大事な時間ですよね

自分の調子が整えば、本人もそれだけ暮らしやすいし、周りの方々も暮らしやすくなりますね。

野溝雄輔さん
野溝雄輔さん

そうだと思います。症状が改善すると、交友関係が広がったり、新たな発想が生まれたり「なんか最近調子がいいわ」が増えてきます。

その人がお母さんなら、本人の調子が整うことで、家庭も明るくなり、子どもたちもニコニコ生活することができる。その子が大きくなり、次の世代も朗らかな人が増えていきます。また、地域で暮らす皆さんの調子が整えば、それぞれ心の余裕が生まれ、喧嘩腰でもなくなり、地域の中で高齢者や障がい者など、いろいろな方に優しくなれる。自分を整えることが、地域を良くすることにつながります。

とくに、女性は地域の中のつながりやハブになりやすい存在なので、女性が健康になってくれることは大切だと思っています。

今後、取り組んでいきたいことはありますか?

野溝雄輔さん
野溝雄輔さん

湘南エリアの女性たちをもっと元気にしてきたいですね。保育園や幼稚園とつながり、子育て中のお母さんたちにアプローチするのもいいなと考えています。

子育て中の方は、自分に目が向かず、頑張りすぎてしまっている方も多いので、鍼灸という整え方を知ってもらい、自分の身体と心をよい状態に整えてもらえたら。お母さんの元気、そして、その先にある子どもたちの元気な毎日を、一緒につくっていきたいなと思っています

野溝雄輔さん【鍼灸師・不妊カウンセラー・シニアメノポーズカウンセラー
ハプラス鍼灸院(横浜市) とハプラス湘南鍼灸ROOM(藤沢市)<ホームページ準備中>の2カ所で展開。さまざまな情報発信や外部団体でのヘルスケア活動のほか、教育事業、リトリート事業などをおこなう。
・noteで展開「解体のみぞ新書」
・更年期女性のヘルスケアサポートグループ「MST™(Menopause Support Team)」
・4月開講 女性が診れるこれからの鍼灸師を育てるスキルアップ講座「ハプラス鍼灸大学院」
・鎌倉、高尾山、御岳山など近隣の自然環境で鍼灸や対話、瞑想などを生かしたリトリートなツアーを開催

インタビューを終えて

今回のインタビューは、実際に治療を受けながらおこないました。身体の力を抜くのが下手な私は、鍼をしてもらうことで瞬時に力が抜ける不思議さと、力が抜けると身体は楽になり、抜けていた時間分、パワーが充電できような心地良さを知りました

性別問わず、人は「自分」を後回しにし、我慢させがちです。もっともっと自分に目を向けないといけないのかもしれません

野溝さんの話にもありましたが、自分自身を整えて、柔軟な生き方ができるようになると、自ずと地域が柔らかくなり、自分とは異なる他者を許せるような世の中に変わっていきます。その方法は、戦いで、ともに生きられる社会を勝ち取るよりも、より丁寧で、より継続性のある方法ではないかと感じました。

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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