インタビュー

長後に広がるこだわり空間!「福祉らしくない」を選んだ理由(K’s Root 代表 塚原健太さん)

小田急線長後駅から歩いて1分30秒、「長後で1番オシャレカフェ」を書かれた看板と、生パスタがおすすめという文字に心が躍ります。2021年11月にオープンした「K’s Root」へ伺い、お話を伺いました

代表の塚原健太さんは、茅ヶ崎市にある自立援助ホーム「湘南つばさの家」に勤め、そこでの想いをもとに、このお店を作りました。就労継続支援B型事業所であるが、いわゆる「福祉」らしさを感じない店内。そこにも塚原さんの想いが込められています

可愛いお店ですね!「K’s Root」は、どのようなお店でしょうか?

就労継続支援B型事業所としてやっています。店舗と作業室で分かれていて、どちらもB型なのですが、店舗のほうは、福祉施設という印象ではなく「一般的な飲食店に見えるように」ということを大事にしています。来店されるお客様も「近所に新しくできたカフェ」と認識している方も多いのではないかなと思っています。

作業室ではアクセサリーやカゴなどを作っています。利用者さんのやりたいことに合わせて、作業を選んでもらっているので、店舗での接客や厨房業務をやる方、作業室でアクセサリー作りをする方などさまざまです。人前に出るのはちょっと…、接客は荷が重いな…と感じる方もいますので、作業室にいる利用者さんのほうが多いように思います。

塚原さん
塚原さん

今、利用されている方は、何名くらいでしょうか?

18人です。見学や体験でここを気に入ってくださる方が多く、とてもありがたいです。

今は身体障がいの方はいらっしゃらないので、精神障がいの方、知的障がいの方になります。とりわけ、精神障がいの方が多いですね。中には、精神障がいや知的障がい、発達障がいなど、いろいろな障がいを複合的に抱えている方もいます。

塚原さん
塚原さん

ここでは、畑の作業などもやっていると伺いましたが…

うちの畑は、農作業の良いとこ取りのような感じです。近くの農家さんのご厚意で畑を貸してくださり、肥料や畑を耕すという重労働の部分は、その農家さんがやってくださっています。

なかなか土に触れる機会や自然に触れる機会は少ないので、畑を貸していただき、本当に良い経験をさせてもらっています。自然に触れて、自分で植えた野菜が育って大きくなっていくのは良いですね。種蒔きから収穫まで参加した利用者さんは「小さい種がこんなに大きな大根や人参になるんだね!」と、すごく感慨深いものがあったようです。そういった自然と関わる経験を通して、少しずつ癒されていき、心のつらい部分が減っていってくれたらいいなぁと思っています

塚原さん
塚原さん

「K’s Root」は、どのような想いからスタートしたのですか?

私自身、もともと児童福祉の世界にいたので、そこでの経験や想いが原点になっています。昨今、発達障がいや知的障がいのボーダーといわれる、子どもたちが話題にあがります。人数として増えてきているのか、はたまた、診断をしてきちんと取り組むという社会の流れが影響しているのかは分かりませんが、前職ではそういった子どもたちの将来について、考えることが多かったです。

なかなか支援してくれる家族もいない中で、どうやって先の人生を生きていくのか…、今の自分にできることは何だろう…と考えました。他にも、施設の子たちだけでなく、何らかの障がいのある方や生きづらさを感じている方たちが、家から出なくなってしまう状況に、少しでも何かできないかと考え、K’s Rootをつくろうと思いました。

塚原さん
塚原さん

このお店は、やはり、施設を出たあとの方が多いのですか?

いえ、施設を出たあとの方たちもいますが、それだけではありません。

K’s Rootを始めて分かったのは、想像した以上に、こういう場所を必要とする方たちが地域の中に多くいるということです。実際、ここを利用されている方たちは、施設を出たあとの子たちではなく、むしろ、そうではない方たちのほうが多いです

塚原さん
塚原さん

前職の自立援助ホームのお話も、聞かせてもらっていいですか?

私がいたのは「湘南つばさの家」という男子ホームで、15歳から20歳までの男の子たちを受け入れて、そこで生活をしながら自立を目指していくという青年寮です。児童養護施設からの依頼で入所するケースや直接の依頼で入所に至るケースがあります。

生活をしながら自立を目指すので、彼らも外で仕事をして貯蓄をしていきます。お金があると考えなしに使ってしまう子もいるので「生活には、これだけお金がかかるよね。自由に使えるお金は…」と、一緒に生活費などを計算して学んでもらい、自立援助ホームを出たあとも、自分で生活の基盤を整えられるように関わってきました

自立援助ホームから出ていくことになれば、児童福祉の対象ではなくなり支援対象ではないのですが、自立援助ホームの大きな特徴は「それでも、関わりはずっと続けていく」というものです。なので、施設を出たあとのOBの子たちと関わることも多かったです。

何かつまずくこと、困ることがあれば助けるから、いつでも相談に来てほしい。その想いは、「K’s Root」にも繋がっています。うちの利用者さんにも「いつかここを離れ、一般就労につながったあとも、うちは関わり続けるから、困ったことやつまずくことがあれば、いつでも相談に来ていいんですよ」と伝えさせてもらっています

塚原さん
塚原さん

一般就労して、そこでサヨナラではなく、ずっと関係は続いていく…そこに前職の想いが生きているのですね

障がいの有無に関係なく、人生、生きていれば、つまずくこともあるし、困ることもたくさんあると思うのです。そういったときに、相談できる人がいるのは大切ですし、相談できる相手が多いに越したことはないので、K’s Rootもその一人になりたいです

もちろん、自分でいろいろなコミュニティを築いて、力強く生きていってくれたら嬉しいのですが、仮にそれが上手くいかなくても、「今困ってるんだよね」と、お茶の一杯でも飲みに来てくれて、話してくれたらなと思っています

塚原さん
塚原さん

相談できるって大切なことですね。

いろいろな人で、その人を支えていくことが大切だと思っています。それは福祉が必要かどうかに関わらず、私たちも同じです。友人や家族、会社の上司や同僚、周りにはいろいろな人たちがいて、支え合いの中で私たちは生きています

もちろん、対人関係が難しくて、なかなかコミュニティを築くのが難しい方もいらっしゃいますが、つらいと誰かに吐き出すだけでも、少し救われることがあると思うのです。

人に話すと、実は解決策があったり、実は自分が思うほど大変ではないかも知れない。一人で抱え込むと、悩みごとが自分の中で大きくなってしまい、人生の一大事になってしまうこともあります。大きく膨らんだ悩みごとで、さらに追い詰められてしまう…悪循環になってしまうので、相談できる人や場所があるというのは本当に大事ですね。

塚原さん
塚原さん

K’s Rootで皆さんと関わる中で、「働く」大切さなど感じますか?

「働く」ことが大切かといわれると、難しいですね。

人は誰でも「誰かから認められたい」という気持ちがあると思っています。私たちもそうですが、自分がいる意味を感じられる、誰かから必要とされているのを感じられる、そういう想いが大事なのかなと思います。そういう意味で「仕事」は分かりやすいシンボルのように感じます。役割がそこにあるので、「働く」は動機になりやすいのかなと。

そういう意味では、仕事は大事だと思いますが、働くことが本当に大切なのかと考えると、難しいですね。K’s Rootに来ている方たちには、ゆくゆくは一般就労を目指してもらいたいけど、人それぞれのタイミングや生き方があるので、必ずしもそうでなくても良いのかなと思うときもあります。ただ、社会は、やはり役割や仕事があって成り立っているものなので、根本的には大切で必要なものです。なので、それぞれが社会の中で何かしらの役割を見つけてもらえたら嬉しいです

塚原さん
塚原さん

このお店が「福祉らしさ」をなくしているのには、理由があるのでしょうか?

利用者の方によっては、福祉的な要素が強くなると、自分の居場所ではないと感じる方もいます。たとえば、これまでバリバリと仕事をして鬱病などを発症された方の中には、日中活動の場は欲しいけど、福祉感の強いところは自分の行く場所ではない…と感じる方もいます。

K’s Rootsに来ている方も「3年間引きこもっていました」「5年間何もしていませんでした」という方もいらっしゃいます。その中のお一人が「いくつか見学は行ったけど、自分がいる場所だと思えなかった」とおっしゃっていました。

居場所を見つけられずに引きこもってしまい、社会との接点がなくなり、どんどん孤立していってしまう…それなら、福祉らしさが薄い場所も必要なのではと感じるのです。養護施設を出た子たちもそうでした。福祉っぽくない場所に行きたいと思う若い子たちもいる…そのためには見た目も大事だ…、それなら、極力福祉色の薄い場所を作りたい。そう思い、ここを作らせていただきました。

塚原さん
塚原さん

いろいろなタイプの就労継続支援B型事業所があるのは、大事ですね。

バリエーションは大事ですね。福祉らしさが出ているほうが安心する、そのほうが通いやすいという方たちも当然いらっしゃいます。なので、福祉感があることもすごく大事ですし、必要なことです

しかし、中には、福祉っぽくない場所を探してる人もいる。日中の居場所として、福祉色の薄い場所を探しているのなら、K’s Rootsなんてどう?と思っています

塚原さん
塚原さん

最後に塚原さんが大切にしている考え方を教えてください。

K’s Rootsから話題がそれてしまうのですが、「人に興味を持ってもらいたい」と思います
興味を持って「なぜ、その人はそう思うのだろう?」「なぜ、その人はこういう行動を取るのだろう?」と、自分以外のいろいろな人に興味を持ってもらいたいです。

人それぞれ考え方が違うのは、当たり前のこと。違うからといって、拒絶して否定するのではなく、「なぜそうするのか」を知ることは決して無駄ではないと思っています。知った上で、「自分は自分の生き方でいきますよ」というのは、すごく良いことだと思うのです。

「そういう考え方や価値観もあるんだ」と自分とは異なる考えを知ることで、もっと寛容な世の中になるのではと思っています。障がいがあるから「何をするか分からない」「怖い」と終わらせてしまうのではなく、仮に衝動的になってしまう人がいたとしても、なぜ、そういう衝動に走るのか…とかね。

特性を理解して、何でも許してくれという話では決してなく、許せないものは許せない場合もあると思います。ただ、知ろうとしないで、自分の中の思い込みや決めつけで、他人を否定したり、最初から突っぱねちゃったりするのはなぁって思っています。知ってみたら意外と面白いとか、障がいに限らず、人と人が関わっていく上で「興味を持つ」って大切だなと思っています

塚原さん
塚原さん

インタビューを終えて

人に興味を持つこと、それに尽きるのかもしれません。世界が広がることは豊かになること。人を知り、その人の生き方を知る。好きになってくださいという押し付けではなく、そういう考え方、そういう生き方もアリなのだと、「OK」が増えるような広がりが生まれていったらなぁと思います

「OK」が増えていくことは、自分が楽になる方法でもあります。福祉のあり方もきっと同じだと思います。福祉っぽさがあること、ないこと、今どきはこうである…いろいろな発想がありますが、すべてに置いて「こうあるべき」はなくていい。いろいろなカタチを「それもアリだよね」「それも大事だよね」と、感じられる…そういう心のゆとりが私たちの中に生まれることが必要なのだと感じました

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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