インタビュー

「私、これでいいのかな?」ちょっと自信のないあなたのそばに(児童文学作家 こまつあやこさん)

身体の成長はそれぞれ違うもの。しかし、私たちはどこか「標準的な成長」を求め、標準に入っていることに安心感を覚えます。お話を伺ったのは、藤沢市内在住の児童文学作家こまつあやこさんです。

こまつさんは、2017年に処女作『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』で第58回講談社児童文学新人賞、『ハジメテヒラク』では日本児童文学者協会新人賞を受賞しました。昨年10月に出版された『ポーチとノート』では、主人公の未来(みく)が、初恋など女子高生ライフを満喫しながら無月経症に悩みます。18歳まで一度も生理がないことを原発性無月経といい、こまつさん自身もこの病気でした。思春期ならではの想いや、本の世界が私たちにくれるものについて伺っています

本との出会いは、いつ頃だったのでしょうか?

6歳くらいだと思います。小さい頃、小児喘息で身体が弱くて入院しがちでした。そのときに病院のベッドで、童話や折り紙の本を見ていたことを覚えています。

小学1年生くらいまでは、年に4回ほど入院してしまうこともあり、母によると、通算12回入院したらしいです。1回の入院は、だいたい1〜2週間でした。

こまつさん
こまつさん

当時、どのような童話が好きだったのですか?

ファンタジーが好きでしたね。小学生向けのシリーズで、『まじょ子シリーズ』という童話があるのですが、魔女の女の子が出てくる可愛いお話で、そういう日常を忘れられるような本が好きでした

こまつさん
こまつさん

物語の魅力と聞かれたら、いかがですか?

たくさんあると思うのですが、その中の一つとして、いろいろな言葉やいろいろな表現と出会えることかなと思っています。

自分がハッとするような一文や、「私、こういうこと思っていたんだ…」と自分の気持ちを言い表してくれるような一文と出会えることもあります。そういう一文が自分を支えてくれることもあるのかな、なんて思います。

こまつさん
こまつさん

思い出に残っている言葉や本はありますか?

森絵都さんの『カラフル』という本です。印象的なセリフがあり、その内容は「人生はせいぜい数十年だから、少し長めのホームステイだと思えばいいんだよ」というような言葉です。

主人公が中学3年生で、私自身も中学生のときにリアルタイムで読んでいたので、それを読んだときに、すごく気持ちが軽くなったのを覚えています。何かつらいことがあったときも、「そっか、ホームステイだと思えば、そんなに思いつめなくてもいいんだな」と、乗り越えられたことがたくさんあります。

私も10代の人の小説を書いていますが、この本は、そのきっかけをくれた1冊ですね。

こまつさん
こまつさん

『ポーチとノート』はどのようなお話ですか?

身体の悩みをもつ女子高生の主人公が、初めての恋に出会い、自分の身体と心に向き合って成長する物語です。

いろいろな考え方や生き方をする女性を登場させたいと思って書きあげたので、そこも楽しんでもらえたら嬉しいです。あと、国際語のエスペラントを取り入れていまして、それも物語を全体的におおらかに包み込んでくれているキーワードになっているかなと思います。

書いていて楽しかったのは、主人公と親友のガールズトークです。自分の学生時代を思い出すようで、とても楽しく書きました。

こまつさん
こまつさん

本の中で、勇気を振り絞ったり、親には言えないけど友達に相談してみたり、その細かい一つ一つの心の動きに「思春期ってそうだよね」と共感しました。思春期の悩みは、ご自身の経験とも繋がってくるのでしょうか?

本のあとがきにも書きましたが、私も主人公の未来(みく)と同様に、原発性無月経で18歳まで1回も生理がありませんでした。当時はやはり誰にも言えませんでした。親は知っていたのですが、なかなか、それを親子で向き合って話すのもできなかったですね

今思えば、学校の保健室に相談もできたと思うのですが、当時は思いつきませんでしたし、思いついても勇気が出ず、相談できなかったと思います。

ひとりで悩み、高校3年生になって「さすがにまずい」と思い、ひとりで病院に行きました。病院に行く前には、さすがに親に相談しましたが、親も「行ってきたら?」みたいな感じで。私もあまり付き添って欲しいと思わなかったのかもしれないですね。ひとりで行きたかったのかもしれないです

ただ、病院の先生からは「染色体などを調べるので、次は親御さんと一緒に来てください」と言われ、次は母と一緒に行った感じです。

こまつさん
こまつさん

そこから、治療はどんなふうに進んだのですか?

1回薬でちゃんと月経が起きるかどうかを確かめましょう、となりました。

結局、染色体に異常はなく、薬を使えばちゃんとくるということで、その後は漢方薬治療でした。そうすると、順調ではないけど、一応、生理がくるので、何年間か薬を飲みながら治療をしていましたね。

こまつさん
こまつさん

「一生、生理がないわけではない」と分かった瞬間、安心できましたか?

いろいろなパターンを考えていたので、拍子抜けしたというか「あ…そうなんだ」という感じでしたね。

染色体に原因があるという方もいらっしゃるので、「もし自分がそうだったら、これからどうしようかな…」「そうだったら、結婚はせず、子どものいない人生を歩むのだろうか…」とか、高校生ながらに考えていたので

こまつさん
こまつさん

性の悩みは、なかなか言い出しづらいものですよね。

最近は、そういう話題もオープンに話す風潮になってきて良かったなと思うのですが、それでも、なかなか話しづらいものですよね。とくに、我が家の場合はとても話しづらかったです。

大人になってから知ったのは、母は母で、お友達とか職場の人に相談してたみたいなのです。だけど、私とは向き合えなくて、なかなか親子はすれ違った感じでしたね。他のことは何でも話せるのに、この話題は…という感じでした。

こまつさん
こまつさん

作品を読んでいると、暗くなるのではなく、元気や勇気をもらえるのが印象的です。こまつさんの想いの根底に「人を元気にしたい」というものを感じるのですが、どうでしょうか?

むしろ、自分を元気にしたくて書いているところもあります。悩んでいた頃の自分を励ましたいという気持ちもありますし、書くことを通して、自分の中にある何かが一つ消化されるという感じでしょうか。自分が元気になるような終わり方の物語を書くことで、他の人も元気になってもらえたら、それは一番嬉しいなと思います

『ポーチとノート』は、10代の頃の自分が抱えていた感情を書きたいと思い、作品づくりが進みました。悩んでいた自分に向けて、その頃の自分が読みたいだろうなと思うものを書いた感じです。この内容を、本にできる日が来るとは10代の頃は全く思っていなかったので、いろいろな方のおかげで、カタチにして世に送り出すことができたことに心から感謝しています。

こまつさん
こまつさん

こまつさんにとって「本の世界」は、どのようなものでしょうか?

ワクワクさせてくれる世界ですね。本には、作者はもちろんですが、本をつくる過程で関わる多くの方の想いも込められています。たくさんの気持ちがこもった「本の世界」に入り込むことでエネルギーをもらい、自分の日常を歩き出せる…そういうものかなと思っています。

『ポーチとノート』は、性の悩みを抱く方だけでなく「自分って、変な気がする」「ドラマみたいな青春を送れていないな」「自分…これでいいのかな?」など、ちょっと自信のない方にも読んでもらい、楽しんでもらって元気になってもらえたら、とても嬉しいです

こまつさん
こまつさん

インタビューを終えて

本のもつパワーは大きい。日常から少し離れることで、心がスッキリとしたり、もう一度頑張ろうという活力を得られたりする。また、文字のもつ表現方法は、受け取り手に委ねる部分が多く、とても柔らかい

「私、これでいいのかな」という感情。これは、一見、悩みがなさそうに生活をする方でも、ふと感じる想いではないでしょうか。人と同じであることも、人と異なることも、ふと不安になる。その微妙なバランスの中で、周りと比べて、また不安になる。『ポーチとノート』は、そういった心の隙間を埋めてくれるような物語です。思春期や性の悩みに限らず、誰でも何となく不安になることがあるのよねと、そういう自分も大事にできたら、毎日が少し楽になれるように思いました。

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

RECOMMENDおすすめ記事