インタビュー

今の自分を気に入っている、就労移行支援がかなえたもの(株式会社ロジナス 石曽根泰久さん)

左:石曽根泰久さん(仲の良い友人とそのお子さんとともに)

株式会社ロジナで働く、藤沢市在住の石曽根泰久さん。会社では、パソコンゲームをスマホで遊べるように移植する作業やテスト作業、ゲームサイトの更新やメールなどの事務作業をおこなっています。石曽根さんは統合失調症を大学時代に患い、就労移行支援を経て、今の会社と出会いました。働くことへの大きな期待と心のバランス、率直な「今」について伺いました。

石曽根さんはどのような病気なのでしょうか?

病名としては、統合失調症です。今は薬でだいぶ落ち着いていますが、症状が良くないときは、いわゆる幻覚や幻聴、妄想などが出てしまう状態でした。

石曽根さん
石曽根さん

病気の発症はいつでしたか?

25歳くらいです。大学の頃に体調を大きく崩し、何とか学校は卒業しましたが、すぐに働けるという状態ではなかったです。

当時は、幻聴と幻覚の症状が強く出ていたので、声が聞こえてきたり、見えないものが見えたりしました。あとは、自分の考えていることが周りに知られている感覚や、周りが自分のことを常に噂しているような感覚もありました。症状が軽いときもあれば、重いときもたまにあって混乱しましたね。

石曽根さん
石曽根さん

そこから、治療をスタートできた感じですか?

そうですね。わりと早めに両親が病院に連れていってくれたので、そこから、病院受診と服薬治療が始まりました。

石曽根さん
石曽根さん

就労移行支援との出会いは?

就労移行支援へ行ったのは30歳のときでした。バイトは少しやったことがありましたが、就職はしたことがなく、発症後は病院受診をしながら、基本は家の中で過ごしていました。

就労移行支援「ねくすと」さんとの出会いは、両親からの勧めです。「こういう場所があるから行ってみたら?」と言われ、試しに行ってみたら雰囲気が良く、通えた感じでした。その頃には、もう症状はないくらいに落ち着いていた状態でした。

石曽根さん
石曽根さん

ねくすとさんの良かったことは?

やることがたくさんあったこと、同じような境遇の人と出会えたのも良かったです。病気の種類は違っても「ちょっと病気しちゃって…」と状況が似ていたので、そういう方々と一緒に作業できたのが良かったです。

そこでの経験一つ一つが、自分の自信につながっていきました。当時、家族以外とはほとんど話していなかったので、誰かと話す機会ができたというのも大きかったです。就労移行支援の中では、さまざまな作業があるのですが、その作業を、ほかの方々と協力してやるというのも良かったです。

石曽根さん
石曽根さん

作業の種類が多いと、自分の得意、不得意は分かるものですか?

確かに、自分に向いてるもの、ちょっと苦手なものはありました。ただ苦手でも、少し工夫することでできると嬉しくなることもありましたね。

僕の場合は、清掃がけっこう面白かったです。鎌倉の方にトイレ清掃に行くのですが、清掃の仕方も清掃会社の方から習う本格的な方法なのです。さらに、公衆トイレの清掃だったので、実際に使用する方が来たら途中で作業を止めるなど、状況を見ながら作業するのが実践的で良かったです。

石曽根さん
石曽根さん

メンバーの方とは、病気の話などもするのですか?

普通の雑談も多いのですが、体調の話や薬の話、通院のペースなども話しましたね。なかなか病気の話をできる相手はいないので、話せる仲間ができたのも良かったです。

それぞれ症状は違うのですが、ねくすとに通っているメンバーは「仲間」という意識がありますし、就労移行支援に通うことで得られたものがたくさんあると感じています。

石曽根さん
石曽根さん

ねくすとを通じてロジナスに就職。今、心掛けていることはありますか?

基本的なことですが、体調管理として、ちゃんと寝ること、3食摂ること、ストレスをあまり溜めないことに心掛けています。

勤務地が家から少し遠くて大変さもありましたが、上司が毎日声を掛けてくれ、「休みはいつ取ってもいいよ」と気遣ってくれたので、体調を大きく崩すことはありませんでした。周りの社員の方々も気遣ってくれていたのです。

それに、ロジナス入ってからも「ねくすと」との繋がりがありました。就労移行支援だけでなく、就労定着支援というのも受けていたため、就労後もサポートがあったのです。担当の方がとても尊敬できる方で、たくさんのことを学びました。

石曽根さん
石曽根さん

どのようなことを学んだのですか?

仕事への姿勢や取り組み方、仕事とプライベートのバランスなどです。話をさせてもらう中で「自分はこういうふうに考えてるよ」と言われると、「ああそうなんだ」と感じることが多かったです。

社内の人間関係に少し悩んだこともあったのですが、そのときも「ねくすと」の担当の方が「まず文字で書いてみよう」と話してくれて、今の状況を文字で書き、良いところ悪いところを書き出して話し合うとだいぶスッキリしました。

乗り越えるというと大袈裟なのですが、一つ一つ良い方向に整理できたので、一緒に考えてくれる人がいてくれて良かったです。一人で何とかしようとしたら、大変だったと思います。

石曽根さん
石曽根さん

入社から6年が経ち、就労定着支援もすでに終わっているかと思いますが、今は仕事とプライベートのバランスはどうですか?

もともと「仕事を頑張りたい」という気持ちがかなり強いほうでした。大学卒業後、仕事をしていなかったのもあり、とにかく「働かなくては」という気持ちが、自分の中でかなり強かったです。

それが、だんだんと仕事は大切だけど、仕事以外にも興味があるものができたり、趣味などに時間を使えるようになりました。最初の頃よりも、少し余裕が出てきたのだと思います。

石曽根さん
石曽根さん

石曽根さんにとって「仕事」とは何でしょうか?

難しいですね。うーん…ありきたりかも知れないのですが、社会参加のひとつの形ですね。

生活費を稼ぐという意味もありますが、人とつながるといいますか。仕事を通じて人と関わるのは、とても良いことだと思います。それに、それは僕にとってすごく好きなことです。

視野も広がります。いろいろなことを考えさせられたり、新しい気づきがあったり、それがあるので働くのは楽しいなと思いますね

石曽根さん
石曽根さん

自分らしく生活できているのかなと感じるのですが、心が苦しくなる瞬間などもあるのですか?

一人でいるのはあまり得意ではないです。わいわいするのが好きで、会社の飲み会や友人との飲み会などが好きでした。

一人でいると物事を悪い方に考えてしまうので、長時間、一人の時間はつくらないようにしています。コロナ禍で一度心の調子を崩したときがあったのですが、そういうのもストレスなのかもしれません。

石曽根さん
石曽根さん

大事にしている考え方はありますか?

winwinですね。あれ、すごく好きな考え方です。

他人のためだけでも、自分のためだけでもなくて、自分と相手の両方がより良くなるという姿勢や考え方が好きです。仕事でもプライベートでも、どちらかに偏らないで両方とも前より良い状態になっていく、ハッピーになれるような関係を築いていけたらと思っています。

石曽根さん
石曽根さん

石曽根さん、最後に、今の自分は好きですか?

好きですね。ダメなところもあるのですが、まあまあ気に入っています。

少しずつ自分に自信が出てきたのは、やはり「ねくすと」に通い出した頃からです。もともと周りの人と接するのが好きなタイプなので、ねくすとに入り、家族以外の人と接するようになり、それから少しずつ自信も出てきました。それで、自分のことも、まぁ…好きになれたかなと思いますね。

石曽根さん
石曽根さん

インタビューを終えて

「まあまあ気に入っている」という石曽根さんの言葉を、私はとても素敵だなと気に入っています。自分に満足できるというのは、外からの評価ではなく、自分自身ではかるもの。この記事を読んでくださった、あなたは、自分のことを気に入っていると言ってあげられますか?どうでしょうか。

心のバランスはとても難しく、「もっと頑張りたいのに、もっとこうしたいのに」と思ってもできないこともあり、焦って負のスパイラルに陥ってしまう場合もあります。目で見えにくいからこそ想像もしにくい、また、一度元気になると「乗り越えた」と思われがちですが、繰り返すものです。

インタビューを通して、石曽根さんご自身や周りの方々が、いかに細やかに「心」というものを捉え、向き合ってきたかを感じました。大きな出来事ではない、日々の小さな段差やつまずきをどう大切に扱えるか、また、小さな幸せや成長をどう大切にできるか、そのあたりにヒントがあるように思いました。

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WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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