インタビュー

見えなくても、絵本を読む楽しみを届けたい(点訳奉仕会 指で読む絵本づくり)

視覚に障がいのある子どもたちは、どのような絵本を楽しんでいるのでしょうか?今回は、藤沢市内で活動する点訳奉仕会の中の絵本を担当するグループにお話を伺いました。

「指で読む絵本づくり」の活動を20年以上続けている、内田茂子さん、長谷川洋子さん、松平ちひろさんは、見えない世界・ちょっと見える世界・見えにくい世界など、さまざまな視覚障がいのある子の状態を想像しながら、触れることで楽しめる絵本作りに想いを込めています

点訳奉仕会 指で読む絵本
昭和51年3月、15名で「絵本」グループを作り、活動開始。制作した絵本は主に横浜市立盲学校(現、横浜市立盲特別支援学校)と横浜訓盲院に送っていた。その後、点字を健常者の子供にも知ってもらうため、各公民館・図書館にも送ることにした。最近は県立平塚盲学校にも送っている。
活動日…毎月第3・4木曜日 午前10時30分~午後3時   [点訳奉仕会50周年記念誌より引用]

※現在は、藤沢市社会福祉協議会で、午後1時~4時で活動していることが多い

どんな活動をされているのですか?

点字のついている絵本をつくっている団体です。和気あいあいとおしゃべりをしながら、楽しく活動しています。これまでは鵠沼海岸にある「太陽の家」で活動していましたが、コロナの影響もあり、最近は、藤沢市社会福祉協議会の「ふじさわボランティアセンター」で活動しています

内田さん
内田さん

昭和51年3年に発足したので、もう45年くらい活動している団体です。点訳奉仕会の活動は、点訳、録音…と歴史があり、この「絵本」づくりが始まったのが昭和51年です。

つくっているのは、通常の絵本の文字の部分を点字しただけの絵本ではなく、「指で触って読む絵本」という名前の通り、指で触って、絵を感じていただくものになっています。

長谷川さん
長谷川さん

「指で絵を感じる」、どのようなことを工夫しているのでしょうか?

なるべく、実物に近い「素材」を皆さんと相談しながら探して、それをどれだけ子ども達に理解してもらえるかを大切にしています。

内田さん
内田さん

工夫していることは、内田さんと同じようですが、手触りの違うものを組み合わせたり、弱視の方も多いので、色もちゃんと分かるように作ってみたりしています。あとは、絵本のキャラクターの顔をつくるときに、目を窪ませたり、鼻は高さが出るようにしたり、いろいろと難しいのですが、工夫しています。材料選びが大変ですね。良い素材があっても、合う色って探していくと、なかなか見つからなくて。

長谷川さん
長谷川さん

感触ですね。見える方の感触と見えない方の感触はどう違うのかはまだ分からないのですが、できるだけ感触が分かるように…あとは、危なくないように、針金とか手に刺さったり、そういう危険なものを排除しています。

触って読むものなので、壊れないように…とも思っています。ただ、壊れないようにと、しっかりつけるとコチコチになってしまい、感触が変わってしまうので…これはなかなか難しいのです。みんなと相談しながら、いろいろな工夫をしていますね。

松平さん
松平さん

いろいろな工夫が絵本の中に込められているのですね!

昔は、絵本の中に出てくる目をビーズで作っていたこともあるのですが、そうすると点字と重なって、点字がビーズでつぶれてしまったこともありました。いろいろと、改良を繰り返しながらつくっています

長谷川さん
長谷川さん

1冊1冊が全部つくり方が違うので、私たちも、本当に「手さぐり」でつくっています。

内田さん
内田さん

平塚盲学校から「星座の本を作って欲しい」と言われたこともあるのですが、「子ども達は、星が見えるのかしら?」「本当にみんな興味はあるのかしら?」と考えました。作るといっても、私たちは何を伝えるために作ったらいいのかしら?と、学校の先生と話したのです。

すると、「子ども達は、星占いに興味がある」と。私たちも納得して、それなら、星の位置と蟹座ならカニのイラストなど、分かるように作っていきました。その本に合わせて、悩んで、工夫をして、「これで分かるかしら?」と学校の先生と相談させてもらい、私たちも勉強になっています

松平さん
松平さん

絵本は、どうやってつくっているのですか?

盲学校などからの依頼もありますが、基本は、私たちが「指で読む絵本」にする絵本を選ぶことから始まります。昔は、長い内容の本だと、登場人物紹介のような指で読む絵本を作っていたのですが、最近は通常の絵本と同じようにつくることがほとんどです。依頼も同様に、通常の絵本と同じようなものをと、お願いされることが多いです。

そうなると、あまり長い絵本だと難しいので、絵本自体の長さは長すぎず、絵があり、それに対応する文章があるような絵本を選ぶことが多くなりました。

長谷川さん
長谷川さん

つくり方としては、絵本の中にあるどの場面をつくるかを決め、メンバーで自分の担当ページを決めていきます。そして、それぞれがどういう材料を使ってどう表現していくかを考え、布選び、素材選びが始まります。そこから、作る作業に移っていきます。そうやって絵本の絵が完成すると、次は文字です。今は、長谷川さんに点字を打ってもらっています。最後は、絵と文字のページを組んでいき、点字図書館で穴をあけて、リングで綴じて完成です。

だいたい1冊つくるのに3~4ヵ月かかるので、1年に3~4冊、新作をつくっています。最近は、複数の場所から頼まれているので、同じ本を3冊くらいつくることが多いです。県立平塚盲学校、横浜市立盲特別支援学校、筑波大学の学生さんが興味を持ってくれていて、筑波大学ダイバーシティアクセシビリティキャリアセンターにも送っています。

内田さん
内田さん

通常の絵本と違って、絵の部分に綿を入れているので、厚みが出てしまうのです。私たちの熱がこもりすぎて、こんな厚みになってしまったということもあります。

松平さん
松平さん

読んでいる子たちはどんな子なのですか?

全盲の子もいれば、弱視の子もいて、見え方はさまざまです。昔つくっていた時は、点字の上に小さく文字を書いていたのですが、それでは弱視の子には見えません。なので、点字を透明のシートへ打っていき、「指で読む絵本」の文字自体は通常の絵本よりも大きいサイズにし、その上から点字のシートを貼るという方法に変えました。

長谷川さん
長谷川さん

実際に、読んでくれている子ども達に会いに行くことは?

実は関わったことはないのです。絵本に対する感想などを先生から教えてもらいます。「子ども達は今こういうものに興味を持って楽しんでいるよ」とか教えてもらいますね。

内田さん
内田さん

盲学校の運動会や文化祭へ見学に行かせていただいたことはあります。ただ、あんまり触れ合うという感じではないです。

先生から様子を聞くことのほうが多くて、以前、大きくつくり直した本に、おべんとうのシーンがあって、それを子ども達がとても気に入っているようだったなど聞きました。

長谷川さん
長谷川さん

これまでも関わったことはありませんでしたし、今もないです。想像しながら、その子たちの世界を知っていったという感じですね

頭を柔らかくして、その場その場で、どんなことを喜んでくれるのか、どんなことが分かりにくいのか、絵本を通して、そういうことを教えてもらっています。今まで自分が経験してきた世界とは別世界なので、迷いながら楽しんでやっています

松平さん
松平さん

この団体に入ったきっかけは?

子育てが一段落したときに、自分の時間ができたのです。少し時間が空いたので、何かお手伝いができたらいいなと思い、点訳奉仕会のボランティア講習会に参加しました。私は、点訳などの点字はできないので、「絵本」だったら何かお手伝いできるかもと参加し、あっという間に23年になります。

内田さん
内田さん

きっかけは、明治公民館で点訳講習会があり、そこに参加してました。講師の先生に「こんな絵本を作っているところもあるのですよ~」と教えてもらい、その絵本を見た瞬間に「あ、私も作ってみたい!」と思い、ボランティア基礎講習会を受けて、この団体に入りました。なので、私は点字の勉強としてはもう30年以上、そのあとに「絵本」づくりに進んだという感じです。もともと手芸も好きだったので、28年くらいでしょうか、やっています。

長谷川さん
長谷川さん

この団体も人手が足りない時期があったのです。そのときに先に入っていた長谷川さんから誘われて(笑)「楽しいわよ」という話は聞いていたので、お誘いをきっかけに入会しました。それで、20年くらいです。

松平さん
松平さん

この活動をやってきて良かったと思うときは、どんなときですか?

そうですね。絵本が完成したときの喜びもありますが、私は、ずっと家にこもりっきりの主婦だったので、少しでも社会に参加できているようで、社会と関わりが持てるようになったことも嬉しいですね。

内田さん
内田さん

私もずっと主婦だったので、お稽古ごとはやっていましたが、それとはまた違った形でボランティアができるということが良かったです。50代で主人を亡くしたので、こういう活動がなかったらずっと沈んでいたと思うのですが、こちらに来るようになって、皆さんとお話しながら、好きな手芸で作品をつくれることも良かったです

長谷川さん
長谷川さん

皆さんとお友だちになって、楽しく作れる時間が持てることがいいですね。あと、出来上がったものを見る瞬間も嬉しくて、みんなでつくった努力の結晶なので、それもいいですね。

松平さん
松平さん

皆さんの活動がしやすくなるには、何が必要ですか?

おかげさまで、今年のボランティア講習会では、絵本に興味を持ってくださった方は多くて、新しく3名の方が団体に入ってくださり、メンバーが11名になりました。関心を持ってもらえるというのは嬉しいです。

メンバーが減っていたときは、ひとりがいくつものページを担当することもあったので。今は、最終的に本を綴じるとか、点字を打ってくださるのも、ベテランの方にお願いしている状態なので、これからは若い方々が育っていただけると嬉しいなと思っています。

内田さん
内田さん

材料がすごく多いので、早くコロナがおさまって、太陽の家に帰れたらと思いますね。いろいろな素材や色が必要になるので、捨てられない素材が多いのです。なので、ボランティアセンターのロッカーではどうしても収まらず、毎回、松平さんがスーツケースで運んできてくれているので、それが改善できたらと思います。

今後のこととしては、点字のお勉強もしてくれているメンバーがいるので、今は私がすべて点字を打っているのですが、これからの方に引き継げたら、団体としても長く続くのではと思っています。

長谷川さん
長谷川さん

材料の面でいうと…休めないです(笑)

これからのことでいうと、つくったものを喜んでいただけることが続けばいいなと思います。喜んで待っている子たちがいてくれて、この子達に良い絵本を届けられればと思いますね。

松平さん
松平さん

この活動を通して、気づいたことや気持ちが変わった瞬間などはありましたか?

「気づき」の連続です。通常の絵本は、イラストや文字がいろいろなところに散らして書いてあるので、その通りにつくると、視覚に障がいのある子には、空を飛んでいるように感じる、飛び上がったように見えてしまう…そんな一つ一つが「あ、そうなんだ」という気づきの連続ですね。

地面に足の位置を揃えないと伝わらない、遠近法の絵もそのままつくるわけにはいかない…視覚に障がいのある子たちだからこその伝わり方と伝え方があるのを感じます。

あとは、絵本は物語なので、楽しく書かれていますよね。虫が運動靴を履いたり、ハチマキをしたりすることもあるし、でも、それは本当の世界では「ありえない話」。見えている子なら、それは分かるけど、見えていない子にとって、虫ってそんなことするかしら…これでいいのかしらと、いろいろなことを考えるようになりました

松平さん
松平さん

私もね、こちらに入るまでは、点字ブロックに対してもあまり関心がなかったんです。でも、こういう団体で活動すると、いかに目に障がいがある方々が大変な思いをしているのかを感じます。

なので、路上などで、点字ブロックに自転車を置いている場面に出会うと、ついつい注意したくなっちゃう(笑)日常生活でも、見えない状態、見えにくい状態の方がここを歩いたら…と想像するようになりました

内田さん
内田さん

同じようなのですが、関心をもつようになったということが大きいです。テレビを見ていても、視覚障がい者に対する内容のものに関心が出てきますし、政治のことでも、障がいのある方や視覚障がいの話に関心ができます

何かしたいと思って始めた、点訳や「指で読む絵本」づくりですが、生活の関心の幅が広がって、本当にお勉強になりますね

長谷川さん
長谷川さん

インタビューを終えて

今回、写真を多く載せましたが、「指で読む絵本」は機会を見つけて皆さんに触っていただきたいです。

絵本の中には、たくさんの「モノ」や「表情」があり、それにより、子どもたちの言語や想像力が成長します。金属でできたお鍋やフライパンは金属のように、そして、毛糸のセーターは本物の毛糸で編まれ、お母さんのもつ籠のバッグは本物のように丁寧につくられています。

笑っている顔、怒っている顔…それらを触れることで「見せる」、その技術や想い、時間はかけがえないないものであると感じます。つくっているメンバーの皆さんは、視覚に障がいのある方が身近にいた方ばかりではありません。むしろ、視覚に障がいのある方と触れ合ったことがないけれど、好きなお裁縫をきっかけに「指で読む絵本」と出会い、制作をし、日常の中に「見えない」「見えにくい」とはどういうものだろうと、その発想が広がっていく

何も、直接的にサポートをしたり、直接的に関わることがすべてではありません。いろいろな形で、いろいろな世界があることを知る、それはものすごく自然で大切な方法だと感じました。

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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