インタビュー

一緒に「楽しい」を体験することで自然が生まれる(元気なお母さん 須本清美さん)

「点字版や点字用紙のアップサイクルをやっている素敵な方がいる」そう伺い、お会いしたのは、藤沢市辻堂周辺で活動する 須本清美さんでした。須本さんの活動は幅広く、「マルキヨ石けん」と呼ばれる、ご自身の手作り石けんに始まり、点字版などのアップサイクル、さまざまなワークショップの開催、「楽しい」という体験を多くの方に届けています

息子さんが小さかった頃、街中で出会った障がいのある方のことを「どうして大人なのに…?」と質問され、うまく答えられなかったという須本さん。そのことをきっかけに、障がいのあるなしに関わらず、いろいろな方と出会い、関われる機会を…と、親子でユニバーサルカヌー体験会の手伝いを始めました。「楽しい」が人の心をつなぐ、湘南エリアで元気に活動する、須本清美さんにお話を伺いました

肩書!「元気なお母さん」なのですね?

須本清美さん
須本清美さん

はい!元気なお母さんと意識はしていませんでしたが、よく言われるようになり、そこを大事にしたいなぁと思うようになりました。資格があるわけではないけれど、「楽しいこと」を共有する活動をやっていきたいなと思っています。

活動としては、手作り石けんの「マルキヨ石けん」もありますし、湘南辻堂Ohanaという子育てのイベント、ユニバーサルカヌーはNPO法人Honki Universityという団体でご一緒させてもらっています。

ただ、楽しいを共有したいという想いもありますが、気づいたら、元気に活動していたという部分も多く、私自身もいろいろなことに楽しくチャレンジしています。最近だと、英語やサップ、ウクレレなどを楽しんでいます。

いろいろな活動がありますね。まずは「手作り」の話を伺いたいです。今はどんな活動をされているのですか?

須本清美さん
須本清美さん

手づくり石けんを中心に、色々な石けんを小さなお子さまやそのママ、さまざまな方と一緒に作っています。手作りの時間って良いんですよね。作っている時間は、普段の生活から少し離れて集中できるんです。親子で楽しむ!自分自身が楽しむ!家に帰っても楽しめる!を目標にしています。

最近は、石けんにこだわらず、「作っていて楽しいもの」、「物語を感じるもの」のワークショップをしています。ビーチクリーンを毎週やっているので、そこで拾った海洋プラスチックを使って「アクセサリー作り」をしたり、年末には、お世話になっている農家さんから、ご厚意でいただいた藁で「しめ縄作り」をしました。

アップサイクルにも興味が出てきているので、落ちているものを含めて、もう一度、命を吹き込むような活動や、自然も好きなので、自然をミックスしたような活動が多くなっています。

日頃に「活動」があって、そこから生まれたもの・出会ったものを、さらにワークショップという形で広げているんですね

須本清美さん
須本清美さん

言われてみればそうかも知れないです。しめ縄の藁もそうなのですが、人とのつながりがあって、そこに楽しい「活動」があって、そこから、また形を変えて「楽しい」を作っていく感じですね。活動からの発想でやっています。

ビーチクリーンや畑、ユニバーサルカヌー…、HONKI Universityさんとの出会いが、私たち親子の活動の幅を広げてくれています

須本さんが「活動」を大事にするのは、何か理由があるのでしょうか?

須本清美さん
須本清美さん

実は、先輩ママから「親子で楽しむ時間はあっという間だよ」と、よく言われていたので、その時間を大切にしたいと、息子が小さい頃から心がけていました。息子は小学6年生で、この春卒業したのですが、私なりに「6年生まで」と一応、目標をたて、一生懸命というのもおかしいのですが(笑)、意識して一緒に遊んできました。

今は、まさに「最後の春休み」!ドッジボール、ウインドサーフィン、コストコへお買い物、無人島でイカダ作り、小学生として最後の一緒にビーチクリーン…今日は畑へ行き、金曜日はラフティングへ行きます!息子だけでなく、一緒にできる仲間に恵まれていることにも感謝です。

親子で楽しむことのひとつが「一緒に作る♪」だったんです。そういう時間って大切だなと思い、私自身の今の「活動」にもなっています

自分で作った石けんがあると、手洗いが楽しくなったり、親子で入るお風呂の時間が楽しくなったりします。ワークショップでは、親子の大切な時間をいただいて、楽しく石けんなどを作り、家に帰ったあとも、また親子で楽しめる時間ができたらいいなと思っています。

須本さんにとって「手作り」とは、何でしょうか?

須本清美さん
須本清美さん

私自身、何かを作るということが好きです。とてもワクワクするんです。

時間も忘れるような集中、自分が思う可愛いものが目の前にある…そんなワクワクを皆さんと一緒に共有する!ということが本当に好きです。ワークショップでは、皆さんの笑顔、一生懸命な顔、思いがあふれる作品を見られることも、楽しみのひとつです。あとは、家に帰ったあと、完成したものを見て、ウキウキしてもらえたら嬉しいなと思っています。

湘南辻堂Ohanaでは、子どもたちと一緒にワークショップをやるのですが、こちらが考えて提供したもの以上のものができあがるんです。「わ~すごいな」と、子どもたちの創造力に、こちらが元気をもらう感じです

「手作り」を通して、私もいろいろな出会いがありました。「作る」だけの楽しみではなく「出会い」があるのも、手作りの楽しみであり、魅力なのだと思います

子どもたちの創造力!湘南辻堂Ohanaの活動は、どんな想いからやっているのでしょうか?

須本清美さん
須本清美さん

湘南辻堂Ohanaは、子育てに追われるママ達が少しでも楽しい時間が持てるように…そして、親子での楽しい時間も持てるように…さらに、地域の方々と触れ合える場所になるように…と活動しています

私自身、幼稚園に行くまでは、お友達のママもあまりいなく、昼間は公園で小さな息子と2人だけで遊んでいたことがよくありました。なので、Ohanaみたいな場所があったら良かったな~と思い、同じ思いの仲間と運営しています。

「手作り」と「活動」…素敵なMIXですね。点字版や点字用紙を、包装などに使っているとも伺ったのですが、きっかけは?

須本清美さん
須本清美さん

藤沢市の就労支援施設に勤めていて、さらにモノづくりの作家さんでもある、重野友希さんとの出会いがきっかけです。

マルシェでブースがお隣だったのです。そのときに「点字版や点字用紙を何かに活用できませんか?」という宿題を出してもらいました。当時は、私も、家で石けんをもくもくと、ひとりで作っている時期でしたので、「ただ作る」というのではなく、目的があって考えたり作ったりということのが、とても楽しかったです。こういう考える宿題って楽しいな~って思いましたね。

これまで、どんなものを作ったんですか?

須本清美さん
須本清美さん

いろいろ作りましたよ!点字版は点字を印刷するときに生まれる、プツプツがついているプラスチックの板なのですが、それを、まずは石鹸ケースに。他には、ラッピングの箱、オーナメント、子どものティアラ…あとは、マスク!これは、なかなか良い感じなので、今年、透明マスクを作るワークショップを開催したいなと思っています

点字用紙の方は、友人に手伝ってもらいながら、ヤギの形をした石鹸の箱も作ったこともありました。

アップサイクルって、本当は捨てられてしまうものだったのに、わぁ~こんなに可愛くなったという瞬間が嬉しいんですよね

実際に触れてみると、点字への想いなどは変わりましたか?他の方からの反響などはどうだったのでしょうか?

須本清美さん
須本清美さん

石けんのケースにしてみたら、「泡みたいでキレイ」と言ってくださる方が多かったです。私も、点字のプチプチがキレイだし、可愛いなぁと思います。

それに、これを紹介してくれた友希さんの想い、点字っていうものが世の中にあるんだということを、細々とですが伝えるお手伝いができることも、嬉しいです。私のような、ただのお母さんでも何かお役に立てているのかなと。点字のことは何も分かりませんが、これを読める方がいるということを身近なものとして、少し感じるようになりました。

関わってみると、初めて知ることが多かったです。ネットで調べて、石けんに点字を入れたこともあったのですが、本当はルールがあって、そういう使い方はしないとか、そういうことも含めて、新しい世界を知るって面白いなって思うんです。関わって、初めて世界が広がるんですよね

「わぁ、素敵」の中に、実はこれ点字なのだ…というさりげない伝え方って大切ですよね。須本さんは息子さんとユニバーサルカヌーをやっているとも伺ったのですが、どんなことをやっているのでしょうか?

須本清美さん
須本清美さん

県立辻堂海浜公園のサザン池で、春と秋に行われているユニバーサルカヌー体験会のお手伝いを親子でしています。これはNPO法人HONKI Universityさんが主催するイベントです。

内容は、受付やライフジャケットの受け渡し、パドル指導、池の中の補助、準備と後片付けです。息子も今年小学校を卒業したのですが、ユニバーサルカヌーの体験会の中で、いろいろな経験を積ませてもらいました。先輩たちに教えてもらいながら、参加される方にパドル指導をする役割をもらい、頑張って大きな声が出せるようになっていました。そのときに「子どもじゃなくて大人から説明を聞きたい」なんて言われることもなく…参加される方も温かい方ばかりなんです。

ユニバーサルカヌーというと、障がいのある方が参加するというものなのでしょうか?

須本清美さん
須本清美さん

障がいのある方もない方も参加できるようになっています。スタッフ側にも、障がいのある方もいますし、ない方もいます。若い方もいれば、ご年配の方もいますし、車いすでスタッフされている方もいます。運営側にも参加者さん側にも、いろいろな方がいるって感じです。

スタッフとなろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

須本清美さん
須本清美さん

息子に、多くの方と出会える場を…と思ったのです。最初のきっかけは、息子が小さかった頃ですが、街で障がいのある方も見かけたときに「なんで、あの人は大人なのに小さいの?」みたいに大きな声で聞かれたんです。その方もその場にいたので、私も固まってしまって…、うまく息子の質問に答えられなかったんです。そのときに、このままだといけない…って思いました。

説明するよりも、身近に感じてもらいたいし、「障がい」に限らず、人って多種多様なので、多くの方と関われる機会が必要だと思ったんです。そう思い、活動を探していた時に、たまたま海浜公園のホームぺージにユニバーサルカヌーの体験会のお手伝いが載っていたんです。

実際にユニーバルカヌーを皆さんとやることで、障がいへのイメージが変わったなど変化はありましたか?

須本清美さん
須本清美さん

「一緒に楽しめる」ということを学びました。同じ空間で過ごすことで「水の上は楽しいな~」と共感もできます。それに、スタッフ同士も、障がいがあってもなくても、お手伝いし合ったり、遊んだり、ボランティア活動を一緒に体験することで、「仲間」になれました。言葉が通じなくて、一緒に作業をしたり、一緒に笑ったり、通じるものが出てくるんですよね。心も豊かになる…とかしこまった感じよりも、何の隔たりもなく、和気あいあいと楽しめる感じですね。

息子を見ていると、この活動に参加してきてよかったなと思うときがあります。自然と、車いすのお兄さんとLINE交換したり、他の友達と同じように、自然と関われているのが良いなと思います。日常と何も変わらない、自然と一緒にいるというのができているのかなって。あと、ユニバーサルカヌーでリレーをして遊ぶこともあるのですが、そのときは、手加減なしのホンキ!!障がいのある、なしと、変に意識せず、一緒に楽しめることを教えてもらいました。

障がいのある方もない方も、一緒に暮らし、一緒に笑う…そのために大事なことって何だと思いますか?

須本清美さん
須本清美さん

「楽しい」「心地よい」「嬉しい」という体験を、同じ環境でできることが大切だと思います。同じ時間を過ごすって本当に大事なことです。

ユニバーサルカヌーはそのひとつで、イベントを作る側としても「楽しみたい」という気持ちを持って、その場所に集まり、それがとても心地よい雰囲気を作り、大きなパワーとなっています。自然と、イベントを作る側も参加する側も、一緒に盛り上げて、笑って、元気をチャージし、また次の日から、それぞれの生活を過ごしていく…、障がいがあるとかないとか本当に関係なく、一緒にそのサイクルの中にいるんです。その活動に、親子で一緒に参加させていただけていることをとてもありがたいと思っています。

湘南辻堂Ohanaも同じように思っていて、参加される方には、時間を忘れて「楽しい」という体験をたくさん積んでほしいと思います。一緒に体験ができて、一緒に「楽しい」「嬉しい」を感じることができて、それを伝えあえる。子どもと向き合う時間って大切だなと、つくづく思うんです。「楽しい」をOhanaで体験して、いろいろと話して、元気になって帰っていってもらえたらと思っています。

楽しいを通じて、自然とつながり、つながれる…。「障がい」に限らず、人は一人ひとり違います。それでも、一緒に「楽しい」を体験できることで、自然とつながることができるのではと思っています。その「自然と…」が大切なんですよね。

インタビューを終えて

須本さんの話してくれた、息子さんが小さい頃のエピソード

きっと同じような経験をされた保護者の方は多いのではないかと思います。

子どもは純粋に「何かが違う」ということを気づいて質問をしてきます

見ないようにしなさい!という心持ちではないが、障がいのあるご本人がいる前で、説明するのはいかがなものか、だからといって「あとでね」と言うのもいかがなものか、これは、すごく難しい場面だと思います。

障がいのある方や、障がいのある子を育てている親御さんに、どういう対応が良いかと伺うと、「それなら、声を掛けて欲しい」「説明できないのも分かるからそのままでいい」「そっとしておいてほしい」など、こちらも、さまざまです。

人によって感覚が違うのは当然ですよね

「スカートに穴が開いていたら言って欲しい」「歯に青のりがついていたら言って欲しい」スケールは違うのかも知れませんが、このあたりの話は、その場の状況や、会話の相手との関係性、その日の気分に寄るところが大きいので、人それぞれ感覚は違うと思います

須本さんと息子さんの出来事で素敵だなと思ったのは、「そこで何を伝えるか」ではなく、障がいのあるなしだけでなく、社会の中にはいろいろな人がいて、いろいろな「違い」がある。そのことを体験を通して徐々に知ってもらおうと「活動をともにする」という方法を選ばれたこと

「伝える」とは「説得」ではない。相手の中で生まれる積み重ねと気づき…その柔らかい蓄積をプレゼントできることが「伝える」なのだと思いました

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

RECOMMENDおすすめ記事