暮らしを豊かにする「ちょっと」(zakka*biyori オーナー 渡邊由紀さん)
お店のショップカードに点字を入れた zakka*biyori オーナーの渡邊由紀さん。入れた文字は『日々の暮らしに彩りを』。藤沢市石川にある雑貨屋さん「zakka*biyori」には、お客さんが店頭に並ぶ雑貨との出会いを求めるとともに、その空間や会話を楽しみにやってきます。
人にとって大切なものは何であるのか、また、それは障がいのあるなしに影響を受けるものなのか、「物の豊かさは目に見える物だけではない」そう語る、渡邊由紀さんにお話を伺いました。
zakka*biyori はどうやって誕生したのでしょうか?
名前の由来は、雑貨屋さんということが分かりやすいこと、そして、「日和」という響きが好きだったんです。繰り返される毎日の中にある「その日」が素敵になったらいいなと想い、つけました。2008年からやっているので、もう13年くらいになりますね。始めたきっかけは、もともとは建築の専門学校へ行って、設計事務所に勤めたのですが、そのスケールが私には大きかったみたいで、もっと身近なものを作るほうが良かったんでしょうね。設計事務所を辞めたあと、雑貨屋さんでバイトをし、それが楽しくて…今に至ります。
雑貨が好きだったのと、その良さを伝えるのはどうしたら良いか空間をディスプレイするのも好きでした。雑貨は、可愛くて楽しくて…きりがないですね。今は作り手さんの顔が見える雑貨に興味があります。その人の背景やこんな想いがあって、こんな生活をしながら、作品を作っている、この体験からこの作品が生まれたんだ…など、そういう話を作家さんとできるのが嬉しいですね。
ショップカードには点字が入っているのですが、どんなメッセージが入っているのでしょうか?
“日々の暮らしに彩りを”と、入っています。
「物の豊かさは、目に見える物だけではないよね」という想いから、点字入りのショップカードを制作していただきました。
物の豊かさ…それに気づく、何か出来事があったのでしょうか?
この想いは、昔からあるのかな…。なかなか落ち着かない家庭環境で育ちました。成長するにつれ、幸せってお金だけじゃないし、地位とかでもないし…本当の幸せって何だろう、と考えるようになっていったんです。
目に見える「物」としての幸せよりも、日常の会話の中に温かみがあるほうが幸せなんじゃないかな、とも。雑貨屋さんになり、物を売っていても思います。お客さんが「実はさ~」と何気ない日々の話をして、最後にスッキリとした顔をして帰る姿を見ると、雑貨屋さんにある幸せってさまざまだなと。
最近は、コロナの影響でオンラインショップが動くことが多いです。オンラインになっても、人とのつながりを大事にしたくて、全然知らない、遠くの方であっても、何か気持ちを伝えたい…そう思い、点字のショップカードを添えたいなと思いました。デザインはシンプルだけど、何だかプチプチがついてるって思ってもらえたら。
オンラインで作品を購入したとき、手書きのメッセージが一緒に届いたのも嬉しかったです。あれは、すべてのお客様に?
本当ですかー?気持ち悪いって思う人もいるかもしれないけど(笑)、皆さんに送っています。
顔も知らない方に送るメッセージなのでどうかな…と思いつつ、でも、人間が送っているっていう感じが伝わったらいいなと思っています。ちょっとでも、ぬくもりが伝わったらいいなと思って書いていますね。
どうして、ショップカードに点字を入れようと思ったのでしょうか?
文字情報はあえてシンプルに。「ん?これは何だ」と 点字に興味を持っていただきたかったんです。実際に、店頭ではお客さまから「何かプツプツしている!」「点字?なんて書いてあるの!?」って会話が生まれています。
私が最初に点字の印刷を見たときもそうだったんです。正直、smalleatさんに出会うまでは、そこまで点字に対する興味を持っていませんでした。点字を使ってくださいと紹介されたのではなく、何気なく見せてもらったのですが、もう、その瞬間に「わぁ~活版印刷のようにしか見えない!すっごく可愛い!デザインとして素敵!」って思いましたね。 目が見えるから可愛いと思うのかも知れませんが。
点字を入れようと思ったもう一つの理由は、私の想っている「目に見えるものだけが豊かさではないんじゃない?」という感覚にもピッタリ当てはまった感じです。パッと見て分かる文字でコンセプトを入れるのではなく、あえて点字で入れるというのも良いなと思いました。あとは、点字を使われている方が手に取ってくださったときに、そこから会話が生まれたら嬉しいとも思いましたね。
渡邊さんにとって、雑貨とは何でしょうか?
心のビタミンですね。雑貨の仕事って、意外と細々とやることがあって仕事量があるんですけど、楽しいから大変じゃないんですよね。こうやって雑貨屋さんを続けてこられたのは、私が楽しいからっていう部分もありますね。
お客さんが雑貨を手に取って、大切そうに見ながら嬉しそうな顔になる瞬間を見ると、こちちも嬉しくなるんですよね。なので、人のためにこの仕事をやっているというより、自分のため…自分の楽しみなんだと思います。
可愛い雑貨を手に取って嬉しくなる、これもまさに、心のビタミンだなと。たとえば、すごく身近なものが、ちょっと良かったり、ちょっと嬉しくなるものだったりすると、それだけで気持ちが変わって「なんだか今日は、ご飯を作るのもがんばれちゃうな!」ってことがあるんですよね。大きな幸せを届けるとか大げさなことはできなくても、その「ちょっと」を届けられたらって思いますね。
お店は一人でやっているのですが、作家さんの素敵な作品のおかげで営業ができているので、一人で仕事してるって感じはしないですね。
作り手さんとは、どうやってつながっていくのでしょうか?
好きなデザインの作品とか、可愛いと思うアンテナが似ているとか…自分の好みとは違うけど、なんか面白いな~とか、いろいろな想いでつながっていきますね。ワクワクする方や応援したくなる方とつながっているようにも思います。
そう考えてみると、作家さんのつくる作品の見た目だけでは決めてないですね。作り手さんの背景とともに、その人やその作品とつながっていく感じです。最近は、作家さんの想いが詰まった作品を売りたい、作家さんに協力をしたいという想いが、どんどん、大きくなってきているようにも思います。
zakka*biyori で大切にしていることは何でしょうか?
ご来店いただいたときより、帰られるときのほうが少しでも気持ちが上がっていてくれるように、と思っていますね。お店としては、フラットに、正直に、丁寧に…と。
自分でお店をやるからには、フラットにしたかったんです。作る人、売る人、買う人みんなが平等に利益を得られるように。お買い求めいただいた方がそれ以上に喜んでいただけたら、なおさら嬉しいですけども。
暮らしの中には、いろいろな方がいますよね。そういう方も、zakka*biyori では「これ、可愛い!」って、言葉でつながっていく…、その想いでフラットにつながってほしいと思ったんです。障がいがあろうがなかろうが、男だろうが女だろうが、そんなことは関係なく「これ可愛いよね、素敵だよね」と、もっと気軽に関われる場があったらいいなと思いました。たくさんのことはできないけれど、一つ一つ丁寧に…と思いますね。
本当ですね。障がいのある方もない方も、いろいろな垣根がなく関われる地域って、どうやって作っていったらいいと思いますか?
障がい…というか、「個性」を知るということなのかなと思います。
ただ難しさもあって、興味を持ったものに対して抑制ができないという「個性」を持った方がおひとりでご来店になったことがありました。その時、お店で二人きりでどうやりとりすれば良いのか、「これは出来ないですよ」ということが伝えられなくて困惑してしまいました。
いきなり「障がいがあっても、フラットに仲良くやっていこう」というのは難しいかもしれません。その後、その方の通う施設の方とも話すことで「あ、だから、そうだったんですね」というやりとりができたので、少し安心してお付き合いができるようになりました。
…そうですね。まずは何から始めたらいいんでしょうね。
怖いから、分からないから…という理由で、いきなりの拒絶ではなくて、お互いを知っていくということなんでしょうね。深い関わりになれなくても、良い距離を見つけていくこと、ちょうどよい関係といいますか…。
あとは、必ずしも「障がい」って、くくらなくてもいいのかも知れないなと思います。障がいがあってもなくても、人との関わりって難しいこともありますもんね。だから、それを含めて、障がいは「個性」って思っているのかも知れないです。
障がいのある方をひとくくりにすることも難しいですよね。当たり前の話ですが、一人ひとり全く違う方ですし、それを含めて、相手と出会い、知って、自分なりの関わりを見つけていく…その機会があるかどうかも大切なことですね。さて、渡邊さん、お店として、今後やっていきたいことは何でしょうか?
実は、お惣菜も売れるようなお店にしていきたいと、ずーっと思っているんです。仲良しの農家さんから、せっかく育てた野菜も廃棄しなくてはいけないなどの現状を聞くと、もったいないなと思うんです。あと、ここでお店をやっていると、量り売りでおかずを売ってあげられないかなと思うんですよね。近所にはご年配の方もすごく多いです。そうすると、zakka*biyori に来ても「もう、雑貨はいらないのよ!」っていう感じで…(笑)
年配の方の好きそうなおかずを作ってお店に置けたら、それを通じて「今日も元気~?天気がいいね~」みたいな会話ができたらなと思うんです。夢であり、野望ですね。雑貨もやりたいし、うまいことつないでやれたらいいな~と思っています。雑貨であっても雑貨でなくても、何か必要なものをきっかけにつながれて、ちょっとした会話ができるお店にしていきたいなと。
深いことはできないけど、ちょっとした関わりとか、ちょっと知っている人がいるだけで、何かのときにサポートすることもできるし、本当に「ちょっと」の関わりがあることで、おじいちゃん、おばあちゃんの、散歩の楽しみがひとつ増えるかも知れないな~と思ったり…それが夢ですね。
伺ってきて、気づきました。ちょっとしたことって、障がいのあるなしとか、いろいろな違いを超えて、「生きる」を支えてくれる大切なものですね。
本当…そうかも知れないですね!「暮らし」とか「生きる」とか、「毎日」といいますか、ね。
ちょっと嬉しくなる、ちょっと楽しくなる…雑貨もそうですけど、ちょっとしたことなんですよね、暮らしに彩りを添えてくれるのは。
インタビューを終えて
渡邊さんへのインタビューでは、障がいのあるなしを超えて、もっと本質的な「暮らす」ということを考えさせてもらいました。
「暮らす」というものは、誰にでも平等にあって欲しいと願うものです。そこに生まれる障がいは、お金かも知れないし、家族かも知れないし、会話かも知れません。
どう暮らすか…私たちの中にある、何ともいえない空洞を埋めてくれるのは、その「ちょっとした何か」であるように思います。
暮らしに寄り添った「ちょっとした何か」に、私たちは支えられている—
「ちょっとした何か」は、皆さんの近くにありますか?
ふと思ったのは「支援」をいう言葉が使われる現場のことです。目に見えて「支援」というサービスがおこなわれることで、私たちは誰かの暮らしを支えているように錯覚してしまいます。私もソーシャルワーカーとして学校現場に入っていますが、具体的にサービスとつなげられたり、サポートできたり、何かが解決したりすると、「良かった。これで、少し暮らしが落ち着くのでは…」とホッとしてしまうときがあります。
目に見える明らかなサポートも必要ですが、忘れてはいけないのは、そこに「ちょっとした何か」はあるのか…また、私たちの関わりの中に「ちょっとした何か」はあるのか…それなのだと思います。
目に見えない「ちょっと」。誰であっても、どんな状況であっても、暮らしが温かいものになるように—
私たちの暮らしを本当の意味で豊かにしてくれる、温かさのある「ちょっと」を大切にしたいと思います。
住所: 神奈川県藤沢市石川3-28-8 (駐車場あり)
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