「普通」です、何も特別ではない(株式会社タックルベリー 流通センター 係長 小坂剛弘さん)
「うちのスタッフすごいんですよ、ぜひ仕事ぶり見ていってください」と笑顔で迎え入れてくれたのは、株式会社タックルベリー流通センター係長の小坂剛弘さんでした。藤沢市では、障がい者雇用に積極的な企業に対し、感謝状を贈呈していて、2019年度は株式会社タックルベリーを含む市内の3事業所に感謝状が贈られています。障がい者を雇用する法定雇用率が決まっているため、各企業、どのようにしたら、障がい者とともに働ける環境づくりができるのか、その工夫や秘訣、ヒントが欲しいものです。
小坂さんがくれたのは「普通なんですよ。何も特別なことはしていないんです」、この言葉でした。この「普通」を生み出した株式会社タックルベリーの環境、即戦力を求める中小企業だからこそできるマッチング、私の心をガラッと変えたインタビューになりました。
障がい者雇用で雇用されている皆さん、手際よく作業されていますね。
いつもこんな感じですね。流通センターでは、今14名ほど働いているのですが、そのうち、7名が障がい者雇用のスタッフです。最初は戸惑ったり、慣れるまでに時間がかかったりしたスタッフもいたのですが、一歩一歩ですね。今では確実に戦力です。
ただ、初めはこちらも戸惑いましたよ。障がいのある方と関わったことがあったわけではなかったので、どの程度の仕事を任せていいのかも分からなかったし、そもそもコミュニケーションは取れるのか?と、いろいろと、こちらが身構えてしまうということもありました。
雇用するにあたってどのように進めていったのでしょうか?
きっかけは、障がい者就職面接会への参加でした。その後は、各地域の就労援助センター等と連携しながら、トライアル雇用などを行い、進めていきました。やはり、間に入ってもらって紹介してもらうというのは良いですね。
しかし、それぞれの支援機関の体制によって、就労後のアフターフォローの有無や期間、ジョブコーチがつくのかつかないのかなど、差があるのも実際です。なので、そこは就労支援機関だけでなく、ご家庭と連携をとりながら、進めていく場面もありました。
採用してから、戸惑うことはありましたか?
僕の話で言うと、意外と最初からなかったんです。大きな企業は身体障がいの方の就労が多いのかも知れませんが、うちの会社のような規模ですと、精神障がい・知的障がいの方が圧倒的に多い現状です。
コミュニケーションが苦手な方もいるのですが、関われば関わるほど、「普通」であることが分かったんです。あとは、障がいのある方と働くのは初めてだけど、小学生の頃に筋ジストロフィーの友人と一緒にいたので…「違い」という壁が低かったのかも知れません。
働いていて、コミュニケーションがとれていると気づく瞬間はありますか?
会話がなくなるんです。もちろん作業以外の雑談のようなコミュニケーションは続きますが、仕事の指示がどんどんなくなり、ツーカーになっていくというか…とても気持ちの良い感覚です。あとは、笑わせることですね。楽しくなければ仕事は続かない、仕事の中での努力や達成感も楽しさですが、職場で笑顔になれる場があるということも大切です。
僕は、おやじギャグを言ったり、くだらないことを言ったり、そんなことをして笑わせるコミュニケーションをしていますね。すごく笑ってくれるときと、全く笑ってくれないときもあります(笑) 彼らは何かを思い出して、ひとりで笑っていることもあるのですが、それとは少し違うんです。会話をする、つい笑わせられる、その関係性が、僕たちの信頼関係なのかなって感じますね。
他のスタッフへの雰囲気づくりや教育はどのようにしていますか?
障がい者を理解するような教育などはやらず、一緒に作業をしてもらって、人と成りを理解してもらってきました。あとは、先に伝えておくということですね。これは別に障がい云々ではないのですが、働くスタッフの気分の変調や、長所短所など、その日一緒に仕事をするメンバーに伝えることで、少し気を遣うこともでき、より働きやすい環境がつくれていると思っています。
また、ここで大切なことは、完全に理解してもらうのを求めてはいけないですね。誰でも価値観は違うので、そこも大事にしなくてはいけないかなと。ただ、僕がよく伝えているのは、理解できなくてもいい、だけど、攻撃はしないでほしいってことですね。それを大事にしています。
仕事の分担はどうしていますか?
ここでの仕事は、商品の検品・梱包・出荷作業やパソコンの入力処理などですが、みんなそれぞれ別のことをやっていますね。例えば、障がいがある方とない方で仕事内容を分けることもないし、障がいがあるから仕事内容として簡単なものをお願いしているということもないですね。
むしろ、すっごく能力が高いんですよ。まじめだし、早いし、正確だし…なので、障がい者雇用だからあえてサポートしなくては、なんて雰囲気もないし、戦力だなって思っています。得意なことは本当に得意なんですよね。
得意なことはどうやって探していったのですか?
とことんやってもらいました。やってみると合うもの合わないものが見えてくるって感じですね。これも、障がいのある・ないに関わらず、普通のことです。僕たちも苦手なものをずっとやらされたら楽しくないし、作業も遅くなっちゃうし。いろいろ試してみて、自分に合うものを見つけて、それを仕事としてやってもらう感じですね。
うちの会社のスタイルもそうなんです、「まずはやってみよう!」というチャレンジから始まるので。なので、僕も、障がい者雇用ってよく分かってなかったけど、楽しくみんなで働くためには何をしようかなと試行錯誤してきた感じです。
小坂さんの話の中に「普通」という言葉が何度も出てきました。「普通」とは何でしょうか?
変わらないなって思うんですよね。構えて迎えた最初を思い出すと「違い」に目がいくので、一体どの仕事を任せていいんだろう、何て会話をしたらいいのかなって思ったんです。でも、楽しいときに笑って、苦手な仕事をやればやりたくなくなって、得意なことで自分の能力を生かせれば張り切って、ひとりの人として、今まで出会ってきた人と何も変わらない…だから「普通」だなと。
特別に何か手助けが必要なわけでも、特別に違うコミュニケーションを取らないといけないわけでもなくて、相手の性格や調子が分かるから、「普通」に関わるって感じですね。もちろん、気遣いとか配慮とかはありますよ。でも、それって障がいのない人にもやっていることだし、やっぱり「普通」のことをやってるって感じですね。
今後、採用する企業に向けてアドバイスをお願いします。
アドバイスなんておこがましいのですが、「とりあえず採用しなくてはいけないから採用しよう」というのは失敗してしまう可能性が高いと思います。うちのスタッフを見ていても、任されているから頑張れるのだと思うし、こちらも信頼してお願いしているので、それが伝わっているんだと思うんです。
これまで家の中でひきこもっていたというスタッフを雇ったときも、通えるのかな~なんて思っていたら、まったく休みませんし、ちゃんとメモをとったり、努力をして働いているんですよね。でも、働くってそういうことかなって。なので、うちの会社は「戦力としてつかう」と思って雇っています。
戦力になってもらうためには、得意なことを一緒に見つけるし、長く意欲的に働けるためにはどうしたらいいかを常に考えていますしね。本当に能力高いんですよ、彼らは。それを見つけることが、お互いにとっていいことなんだと思います。
インタビューを終えて
「中小企業は即戦力が必要である。だから、長所を生かしたチームづくりが求められる」
これは、障がいのある方にとっては、すごく働きやすい環境なのかもしれないと、今回の取材で知ることができました。私は特別支援学校に勤めていたため、「卒業後には彼らの特性を理解してくれる就職先に」「障がいへの理解がある企業に」と、スタッフ教育など形式的なものを求めてしまっていたように思います。
企業の中のリーダーは、人を見て、その人の強みを見つけて、それを生かしたチームづくりをしていく…そこには、当然、経営が関わってくるため、全力で個々の強みを生かした組織づくりをおこなっています。
企業のもつ専門性は、より働きやすく、より能力を発揮できる職場環境を作ることができるのではと感じました。
タックルベリーさんのすごいところは、「普通」であると思えたことで、一人ひとりとの関係が深まり、心から大事なスタッフであり、最高のチームを一緒につくろうと思えていることです。
障がい者雇用は、持っている能力と仕事内容とのマッチングに左右される場面もあるので、どの企業にも生かせるわけではないと思います。ただ、人と人との普通の付き合いをすることで、お互いにとって「働く」ということを大事にできる職場環境をつくっていけるのだと思いました。
■ 参考 ■