「完成してないからこそ、つながれる」──素材がひらく、新しいつながりの輪[寄稿記事:smalleatさん]

こんにちは、smalleat(スモールイート)と申します。
私はこれまで、「福祉施設で作られた素材」と「地域の作り手さん」をつなぐ、小さな活動を、細々と続けてきました。
製品として完成する前の「途中のもの」に、大きな可能性があると感じています。そんなお話を少しだけ聞いていただけたら嬉しいです。
「売れる」だけでいいのかな?と思った話
10代の頃から、障がい福祉と社会のあいだにある“距離”のようなものが気になっていました。
社会人になった頃からは、「自分にできることって、なんだろう?」と、常に模索していました。
15年近く前、デザイナーさんとのコラボでおしゃれに生まれ変わった福祉施設の製品が、一般の雑貨店に並んでいるのを目にするようになりました。
雑貨が大好きな私は、もちろん大興奮。「わぁ、素敵!こういうことに関わりたいなぁ!」と、夢中でいろいろと調べたり考えたりしたことを覚えています。
けれど、時間が経つにつれ、ふと疑問が湧いてきました。
「たしかに“売れるようにはなった”けれど、それで福祉への理解や関心は、広がっているのかな……?」
「素材を託す」ことで広がったつながり
そんなときに出会ったのが、ある企画展でした。
都内の障がい者施設で織られた生地をそのまま販売し、購入した方がバッグなどに仕立て、後日その作品をまた販売する、という内容。
「完成品ではなく、途中のものを人に託す」という発想に、視界がぱっと開けたような気がしました。
「これ、織物だけじゃなく、いろいろな素材でもできるかもしれない!」
素材の状態で地域の作り手さんに託すというのは、実はとてもよくできた仕組みです。
- 職員さんが製品に仕上げる負担が軽減される
- 作り手さんの技術で、クオリティの高い作品ができる
- 施設と地域の人との“直接的な接点”が生まれる
さらに、
- 作り手さんの発信によって、素材や施設のことが自然に広がっていく
- ハンドメイド好きな方々は“つながり感度”が高い
- 地域のなかで施設の認知度も高まっていく

素材のもつポテンシャル、いかがでしょうか…?
実践して見えた、つながりの輪
企画展から約3年。ようやく、その“ひらめき”を実践に移すタイミングがやってきました。
最初に素材をつないだのは、「糸工房もくもく」さんのシルク糸。
知り合いのアクセサリー作家さん何人かに、緊張しながら「使ってみませんか?」と相談してみたところ、快く応じてくださいました。

こうして、福祉施設が“素材を買いに行く場所”になり、作家さん同士の繋がりでじわじわと話題に。同時にSNS投稿をきっかけに足を運んでくださる方も増え、素材を通じたつながりの輪が、少しずつ、どんどん、広がっていきました。
その後は、扱う素材のバリエーションも広げていきました。
なかでも点字印刷の紙と版は、湘南エリアのアップサイクルに関心の高い方々から注目を集め、多くの方に手に取っていただけました。
「知るきっかけ」から、その先へ
活動に共感してくださるありがたいご縁もたくさんありましたが、一方で、SNS上で“映える素材”として扱われる印象を受けたことも、少しだけありました。
「このまま続けていいのかな」とモヤモヤ、悩みました。
もともとこの活動の目的は、素材を広めることそのものではなく、「福祉との接点をつくること」だったはず。改めて、どんなふうに伝えていくか、立ち止まって考えるようになりました。
ちょうどその頃、体調不良が続いたり、日々の忙しさに追われたりして、活動は一時お休みすることに。
数年のブランクを経て、ようやく「素材のお試しセット」というかたちで、またゆっくりと動き始めようとしています。
これからも、無理なく、やさしく。
つながりが自然に循環していくような仕組みを、少しずつ育てていけたらと思っています。
smalleat
大学卒業後、会社員など転々としたのち「福祉に関わりたいならまずは現場を知らねば」と就労支援の現場に飛び込む。2、3年経験して去るつもりが、気づけば支援員9年目。現在は日中一時支援事業所で奮闘する日々。社会福祉士。
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