コラム

人を好きになる「かぐやびより」シネコヤで上映

小田急線善行駅から歩いて7分、障がいのある方が日中活動をおこなう福祉施設「さんわーくかぐや」の日常を映画にした「かぐやびより」が鵠沼海岸にあるシネコヤで4月28日から上映される。4月17日には通常上映に先立ち、プレミアム上映がおこなわれ、さんわーくかぐやのメンバーの舞台挨拶に始まり、監督のトークイベントをおこなわれた。嬉しいことに、私も当日は司会としてご一緒することができた。

『 かぐやびより 』 監督:津村和比古

ただ、感じる

福祉施設や障がいをテーマにしたドキュメンタリーは「啓発」に重きが置かれている印象がある。伝えたいメッセージがしっかりとあり、とりわけ感想には「ともに生きることは大事だ」と、否応なしに書かなくてはいけないような気持ちにもなる。「難しい映画」「福祉や障がいに興味がなければ面白くない」そんな心配はまったくなく、安心して多くの方に楽しんでいただきたいを思う。

この映画は、見ている私たちに価値観を押しつけない。そこには「見ている方に感じてもらいたい」という監督の想いがある。映画を見ていると、不思議なくらい自然な呼吸で、さんわーくかぐやという福祉施設に行った気分になる。良い感想を言わなくてはいけないという妙な緊張感はなく、福祉や障がいを知らなくては話についていけないということもまったくない。「ただ、感じる」この不思議で楽しい感覚は何だろうか。

かぐや時間

上映時間は105分。「かぐや」の時間がゆったりと流れる。会話をするメンバーを見ながら、口元を笑わせるメンバー。人は人を見ながら、いろいろな感情や表情を浮かべて時間を過ごす。「私もそうだな」と自分の自分らしさを映画の中に登場するメンバーに重ね、「人ってそうだよね、生きるってそうだよね」と思わず、うなずいてしまった

私はこの映画の構成に惚れ込んでいる。人を好きになる映画。上手くいくことも上手くいかないことも人間らしく、美談にならないそのすべてが私には美しい。周りを見ながら、自分らしさを出したり、引っ込めたりする人間模様が見える。映画の構成に優しさを感じるのは、登場するメンバーの行動にふと見ている私たちが疑問を抱くとき、自然なストーリーの中でメンバーの背景や今に至るまでの積み重ねてきた時間を知ることになる。見ている人の心を置いていかない映画

「一瞬」の前にも先にも延長される時間を

映画は一瞬の切り抜きである。日常の中の一部が切り取られる。しかし、この映画の不思議さは、私たちに「一瞬」の前にも先にも延長される、その人の人生を見せてくれる。ゆったりと流れる映画の時間の中で、その人らしさを感じるからだろうか。

メディアや作品が見せる世界を「ほんの一部。本当はもっと良いところも悪いところもある」という人もいる。一瞬の切り抜きなので、当然だ。しかし、きっとそれ以上に、私たちの目は一瞬を切り抜いている。地域の中で障がいのある方を見かけるとき、その人の人生のたった数十秒を見て、私たちは何らかの感情を抱き、何らかの答えを出してしまうことがある。この映画を見ていると、人の一瞬には前にも先にも続く延長される時間があることを実感する。これは障がいのある、なしに関わらない。

私たちは、一瞬の関わりを日々重ねている。自分にとって「他人」でも、「生きる」を日々重ねる多くの人がいることを感じながら生きたい

「かぐやびより」シネコヤにて上映
 4月28日〜5月2日 10:30〜
 5月3日〜5月8日 17:00〜
 NEW!追加上映決定!
 5月12日~5月15日

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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