インタビュー

笑顔が広がる在宅医療ー ココロまち診療所で見た地域と人をつなぐ力【アナレポ#7】

藤沢市内のアナをあける活動を取材する『アナレポ』

8月25日(月)、今回取材したのは、ココロまち診療所の院長で在宅医の片岡侑史さん。診療所は自然に囲まれ、築70年の古民家をリフォームした建物で、病院というよりも地域の人がふらりと立ち寄りたくなる温かな雰囲気を持っています。まるで病院らしさを忘れさせ、誰もが安心して足を運べる居場所のようでした。さらに地域の人たちがつながりを持てるよう、さまざまなイベントも行われているそうです。

近々予定されていたのは流しそうめんのイベント。片岡さんはその準備として自ら竹を切り、土台を作っていました。診療だけでなく、地域の人たちが笑顔で集える場所を自分の手でつくろうとする片岡さんの姿勢に心を打たれました。

(取材:佐藤 晴・大学1年)

地域の暮らしに寄り添う医療

午前9時、私も同行させてもらい、いよいよ訪問診療が始まります。この日は午前中に5件、午後に7件、合計12件と特に多い日だそうです。患者さんの年齢は20代から96歳までと幅広く、症状も人によってさまざま。移動の合間に片岡さんから患者さんの状況や訪問の目的などを聞きながら、次々と向かうお宅を訪れました。

実際に見学してみて、訪問医療が想像以上にハードな仕事だとわかりました。車での移動、診察、記録、次の訪問先へ移動…それを繰り返すだけでも体力を消耗します。それに加えて、患者さんや家族に安心してもらえるよう、常に気を配り続ける必要があります。片岡さんや看護師さんの体力と集中力のすごさに驚きました。

しかし、どの患者さんに対しても片岡さんと看護師さんは必ず笑顔で接し、声のトーンや話し方を変え、その人に合った雰囲気をつくりながら診察を始めます。診察の場面の中で、家の中に笑い声が広がることも多くありました。片岡さんは診察の最後には患者さんの手を握り、しっかり目を見て「また来るね」と言葉をかける。医療行為が行われている場でありながら、そこにはどこか温かい空気が流れていて、見ている私まで安心感が伝わってきました。

片岡さんが大切にしていること

なぜ片岡さんの診察にはこんなにも温かさがあるのか。その理由を尋ねると、「体だけでなく、心も健康になってほしい」と片岡さんは語ります。だからこそ診察の中で生まれる笑いを大切にし、患者さんだけでなく家族や介護者の心にも寄り添おうとするのだそうです。

「コミュニケーションは技術」と片岡さんは続けます。患者さん一人ひとりの状況や性格、家庭環境に合わせて伝え方や関わり方を変える。医療の専門知識だけでなく、対話や関係づくりの力がなければ在宅医療は成り立たないのだと話してくれました。実際、家族や介護者が抱える不安を和らげることも片岡さんの診察の大切な役割の一つです。

さらに在宅医療は教科書通りにはいかないことが多く、予想外の状況に対応するためには豊富な経験と柔軟な発想が求められます。片岡さんは「同じ障がいがあっても、人によって困っていることはまったく違う。その人に合わせた福祉を提供することが本当に必要だ。」と語ります。その言葉には、一人ひとりの人生を尊重し、その人らしい暮らしを守りたいという強い思いが込められていました。

一日を通して見えた在宅医療の本質

一日同行してみて、在宅医療が想像以上に過酷であることを実感しました。体力的にも精神的にも大きな負担がかかる仕事です。しかし片岡さんや看護師さんはただ病気を診るのではなく、患者さんが「また来てほしいな」と思えるような診察を心がけ、治療そのものよりも患者さんの幸せな暮らしを第一に考えていました。

その姿を間近で見て、医療は命を救うだけのものではなく、人が安心してその人らしく生きるための営みなのだと強く感じました。患者さんだけでなく家族や介護者も含めて、暮らし全体を支えるのが在宅医療の役割なのだと思います。

訪問先で交わされる何気ない会話や笑顔の一つひとつに、片岡さんの思いが込められていました。その積み重ねが患者さんの人生を支え、地域の中に温かなつながりを生み出しているのです。在宅医療の現場は決して特別なものではなく、人が人らしく生きるための当たり前の営みの延長線上にある。片岡さんの一日を見学して、私はそのことを深く心に刻みました

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ふじさわこたね
〜学生がまちの福祉に出会うアナレポプロジェクト〜

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