コラム

我が家の74cm

「おうちキャンプ」は偶然の贅沢を教えてくれました

このページは音声で聴くことができます

みなさん、こんにちは。小川優です。

今回は、ふと見つけた「ひとりの空間」について、お話します。

私…日を浴びていない

新型コロナウイルスで多くの仕事がなくなり、外に出なくてもいい日が増えました。stayhomeという言葉通り、家の中で過ごせる日が増えてきました。この状況の中で、私にできることは何だろうと、自宅にマイクを買ってみたり、Twitterで声を届けたり、外出自粛をみんなで続けられる方法を考えてきました。感染予防のための外出自粛は必須。ただ、何だかすっきりとしない身体の疲れを感じる…あ、運動してないからか。もともと、定期的な運動はしていなかったものの、駅まで歩き、階段を上る、ウィンドウショッピングをする、それが運動であったことに気がつきます。それと同時に、日を浴びていないことが気になりました。骨が弱くなる、気持ちが落ち込む…太陽がくれていた健康的な要素は大きいため、日の中で過ごさない毎日が不安になってきました

太陽をもとめて

stayhome。休みの日になれば、市長が防災行政無線で外出自粛を呼びかけ、他県ナンバーの車が走れば「敵陣、湘南に来たり」と二度見をされてしまう…そんな中で、気軽に外に出るわけにはいかないと考えさせられます。3密を避ければいいという意見もありますが、その間の移動やそもそも人が動くということが、3密かどうかという実態以上に、自粛すべき要素が強いものです。

家の中でカーテンを全開にしても、たかが知れていて、これが最大限の日差しかと思った時に、我が家の小さいベランダが目に入ってきました。これだ!と名案が生まれたのです。ここで日向ぼっこをする。急に立派に見えてきた我が家のベランダは、3分の1は、室外機と非常用はしごに使用されているものの、3分の2は空いていました。急に広く見えてきたベランダを15cm定規で測ると奥行き74cm、何度測っても、大して広くないことには変わりがないようでした。キャンプ用の椅子を購入し、私はここでキャンプをする、ベランダの広さがどうであろうと、その決意は変わりませんでした。

最高の贅沢を

椅子のクオリティを高くすることで、ここから始まるstayhomeの質が変わってきます。「ここはケチるところではない」、一刻も早くこの名案を試したい私にとって、商品が早く届くことも重要でした。ラグジュアリーで、Amazonで明日届くもの…、あった!肘も置ける!奮発しよう!…え、82cm。ダメだ、これだけはどうにもできない、窓を開けながら使おうかと一瞬迷いましたが、片方の肘だけ、テレビの裏側に飛び出てしまうのも、現実的ではない、却下だ。…今度こそ、あった!ハンモックで揺られているかのような感覚がするというキャンプ用の椅子をクリックし、ボタン一つで明日届く設定で購入することができたのです。

偶然の贅沢

久々に陽だまりの中、読書をする時間は最高でした。読書すらせず、日を浴びながら昼寝をした日はもっと最高でした。そして、ふと気づいたのです。ベランダには時計もなく、パソコンもない、家事をしなくてはいけないキッチンやリビングもなければ、やらなくてはいけない仕事もない。すべての役割を部屋の中に残し、ベランダには外界と切り離された私がいることに気がつきました。私にとって、家事も仕事も好きなモノであり、離れたいと思ったことすらありませんでした。外と繋がるスマホを部屋に残し、ベランダに出る、そこには、たった74cmのお城ができあがっていました。人が好き、話すのが好き、仕事が好き、料理も好き、SNSがあって良かった、誰かと繋がっていたい…そんな私は、孤独がすごく好きだったようです。誰にも邪魔されないひとりだけの時間を自分が欲していたことを、その時、知りました。

ひとりになれないリスク

職場に行けば仕事の私、家族といれば家族の中での役割をもった私、友達と会えば友達の中での私、どれも私ではありますが、役割をもたない自分というものを、ひとりでいる時につくっていたことを発見しました。今日は寄り道をして帰ろう、買うものがあるわけではないけれど服を見に行こう、買いたい本があるわけではないけれど本屋に行こう、電気屋に行こう…ひとり映画、ひとり漫喫、ひとりカラオケ、ひとりご飯…ひとりで行けた場所は、外出を制限される今、行けないところばかりです。ひとりになれないリスクを感じています。役割から解放できる場所を見つけていくこと、たとえ、どんなに幸せな役割であったとしても、解放する価値があるように思っています。74cmのお城、そこに置いた椅子は64cmで、左右にはほんの少しの隙間しかなく、見ているだけではとてもリラックスできません。しかし、座るとその左右5cmは気にならないものです。

私は人の中で生きて、人に役割をもらって生きていきたい人間であり、それと同時に、与えられた役割をすべて捨てて解放されたい人間でもある…とんだワガママですが、人間らしさのようにも思います。外出自粛に奪われたものは何とも大きく、意識的に、ひとりになれる空間づくりが必要だと感じています。

関連する記事:『外出自粛がもたらす、家族との距離

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

RECOMMENDおすすめ記事