コラム

植物を育てなさい

こんにちは、小川優です。

本当は自死に関する記事を、昨日書きました。

関心を持ったのは、10代の頃、そこから某自殺予防の団体の相談員として研修を受け、今もなお、仕事の中で自死と向き合う場面は比較的多いかも知れません。

今、記事に載せることが大切であるように思いましたが、それは私の意見であり、私の思いを人の死に便乗させることは不本意であるため、少し時期を変えて投稿したいと思います。

今日は、時間の流れが必要なことを教えてくれた、ひとりの先生の話をしたいと思います。

植物を育てなさい

「あなたは植物を育てなさい」、そう私に言ったのは、大学のときの担任の先生でした。

看護学科ではゼミの先生とは別に担任の先生がいて、内山繁樹先生という男性の精神看護を専門とする方でした。

ことの発端は、看護師国家試験への勉強に関する面談でした。

当時、今のカリキュラムとは違い、短大から4年制大学へ移行したばかりであったこともあり、大学4年のときには、看護実習、卒業研究、就活、教員採用試験、2つの国家試験…と多くの大事な引き出しをフル活動させて過ごす日々でした。実習が終わるのが秋頃、研究発表は1月、2つの国家試験は2月…とそんなスケジュールだったように思います。

その面談は冬だったと思うのですが、

先生は私に「国家試験の勉強、どうやってやってる?」と聞きました

私は「問題集などを終わらせたい日までの日数で割って、1日何ページと決めてやっている」と答えると、

「その量、1日で終わる?」と聞くのです。

当時、何かを捨てなければ、とても毎日のやらなくてはいけないことは終わらなかったように思います。なので、私は「終わりません。だから、ほとんど寝てません」と、むしろ得意げに答えたのを覚えています。

次の質問は

「小川さんは、1日20時間勉強したら国家試験に100%合格できるって言われたらどうする?」と聞かれたので、

私は「それなら20時間やります。3時間寝れば、眠くないし、あとは食事の時間がとれればいいので」と即答しました。

そのとき、先生から言われたのは「同じ質問をして、他の人は『そんなに勉強できません。100%の状態じゃなくても試験当日にかけます』って答えたよ」と。

私の弱さ

あなたの弱さはそれだと言われました。

目標が高すぎ――

1日に到底できないような量の目標を立て、こなそうとしたり、欲しい結果のためなら、いくらでも努力ができたり、

今までの人生の中で、人間関係も学業も、望んだものをすべて手にしているタイプだと。

そのための努力を怠らなかったことは良いことだけど、完璧主義すぎるから、不完全なものを表に出そうとしない

それは小川さんの弱さですと言われました。

今でこそ、たくさんの失敗をし、土壇場勝負も好きになれましたが、今から10年前の私にはできなかったことです。

時間の流れが必要なこと

先生が「植物を育てなさい」といった意味を理解できたのは、養護教諭になったときでした。

贈る言葉のように、卒業のときに言われた「小川さんは植物を育ててくださいね」という言葉通り、私はミニトマトを保健室で育て始めまし

気づいたことは、植物は、いくら私が早い成長を望んだとしても、そのときが来なくては芽を出すことも、葉が伸びることも、実をつけることもない――

待つことが苦手で、みるみる成長することを魅力に思う私には、自分の力ではどうにもならない、毎日の小さな変化と向きあえたのは、本当に大切な時間でした。

子どもたちも同じであり、変化はゆっくりと確かに、いったりきたりしているように見えて、必ず何かが動いている――

立ち止まることも「何かをしている」という動作であり、常に動く時間の中にいるのだと知っていくことになりました。

初任の頃、早く成長したい、早く30代になりたいと願った若い日を懐かしく、大切に思います。

人の成長も、人の変化も、嬉しいと思う気持ちも、どうしようもなく悲しく思う気持ちも

すぐに外からの力でどうこうできるものでもありません

ゆっくりと確実に流れる時間の中で、今という一瞬一瞬を大切にすることこそ、生きるということなのでしょう

保健室で育てた植物は数え切れぬほど。写真はそのうちのひとつ「フウセンカズラ」です♬

WRITER

小川 優

大学で看護学を学び、卒業後は藤沢市立白浜養護学校の保健室に勤務する。障がいとは社会の中にあるのでは…と感じ、もっと現場の声や生きる命の価値を伝えたいとアナウンサーへ転身。地元のコミュニティFMをはじめ、情報を発信する専門家として活動する。

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